第3話「はじめての報告、秘密のままの妊娠だが… “信頼”と“打ち明ける覚悟”――秘密の妊娠と3人の仲間たち」
」
◆【静かなる決断】
春日井真希は、オフィスの廊下をゆっくりと歩いていた。
早朝の空気はまだ冷たく、窓越しに差し込む冬の日差しが、彼女の頬を優しくなぞる。
今朝も吐き気があった。だが、時間をかけて整えたメイクと、深呼吸でどうにかごまかしている。
(もうすぐ……言わなきゃ)
向かう先は――直属の上司、柳瀬貴文部長のデスクだった。
「……おはようございます、部長」
「ああ、春日井さん。おはよう。いつもより顔色が……いや、気のせいかな」
「いえ、少しお話ししたいことがありまして。お時間いただけますか?」
柳瀬は真剣な表情に気づいたのか、すぐに席を立った。
「会議室、空いてるな。行こうか」
•
◆【秘密の告白】
会議室にふたりきり。
真希は、柳瀬の前に立ち、深く息を吸い込んだ。
「部長……実は、妊娠しました」
その瞬間、室内の空気がぴたりと止まった。
「……そうか」
柳瀬はゆっくりと、頷いた。
「おめでとう、とはまだ言えないかもしれないけれど……まずは、教えてくれてありがとう」
「はい。まだ社内には誰にも伝えていません。
ただ、私の体調に影響が出始めていて、今後の業務への影響も考慮し、まずは直属の上司である柳瀬部長にだけお伝えしたいと」
「了解した。社内への周知は……君が決めていい。俺からは一切口外しない。
ただ、体調が悪くなったときは遠慮なく言ってくれ。君を守るために、俺はいる」
その言葉に、真希の目が思わず潤む。
「……ありがとうございます」
•
◆【社内の空気】
会議室を出た後も、真希は何食わぬ顔でデスクに戻った。
だが、つわりは誤魔化せるものではない。
昼休み、顔を洗いに行ったトイレの鏡に映った自分の姿は、確実に変化を帯びていた。
(あと何週間、隠し通せるかしら……)
その問いに、まだ答えは出ない。
けれど、彼女には、もう「独り」ではなかった。
お腹の中に宿る小さな命。
そして、いつも隣で支えてくれる、最愛の人――悠真がいた。
•
◆【その頃――悠真】
その日、悠真は昼休みに、こっそり母子手帳のコピーをスマホで見返していた。
「名前、どうしようかな……男の子? 女の子?
どっちに似るかな……」
隣の席に座る同期の村瀬翼が、「ん? なに独り言?」と覗き込もうとした瞬間、慌てて画面を消す。
「な、なんでもないっス!!」
「怪しっ!」
笑いながら去っていった村瀬に、悠真は内心ヒヤヒヤしながら思う。
(……まだ、秘密なんだ)
だからこそ、彼は決意を新たにした。
――俺が守る。ふたりを、絶対に。
•
◆【部長との約束】
「……無理をして倒れる前に、必ず俺に知らせろ」
柳瀬部長の静かな声に、真希は黙って頷いた。
「春日井、お前は優秀だし責任感もある。でもな、命が宿った今は、最優先すべきはお前自身と……その子だ」
真希の胸がきゅうっと熱くなった。
「……ありがとうございます。本当に、ありがとうございます……」
目頭が熱くなる。涙は堪えた。でも、心が救われるような気がした。
「俺が守る。上司としてな」
その言葉に、真希は小さく笑って、背筋を伸ばした。
「はい。必ず、無理はしません」
◆【予兆】
その数日後の午後、社内で小さな“事件”が起きた。
会議室でのプレゼン中、真希が急に顔を青ざめさせ、スライドの途中でしゃがみ込んでしまったのだ。
「春日井さん!? 大丈夫ですか!?」
部下たちの慌てた声に、柳瀬部長が即座に飛び込む。
「みんな、会議は中止。春日井はすぐ医務室に。俺が付き添う」
(ダメだ……迷惑、かけた……)
倒れ込みそうになる自分の体を、柳瀬の腕が支えていた。
◆【別室にて――悠真の告白】
午後――社内の騒ぎが一段落した頃。
柳瀬部長の指示で、真希の夫である高槻悠真は別室に呼ばれた。
だが、その途中で――
「なあ悠真、お前さ……最近、様子変じゃね?」
声をかけてきたのは、同期の村瀬翼だった。
悠真は一瞬、心臓が跳ねる音を感じた。
(もう、限界だ……)
「……翼、ちょっと、時間くれる?」
会議室の隅。人気のない場所に、悠真は村瀬、そして近くにいた同期の進藤あかり、赤井美波も呼んだ。
「え? なになに……? まさかまた弁当がプロ級だった件とか?」
あかりが茶化すように笑う。美波も首をかしげていた。
「……違うんだ」
悠真は、ゆっくりと口を開いた。
「……真希さん……春日井課長のお腹に……赤ちゃんが、います」
その場の空気が、まるで止まったように静まる。
あかりの目が大きく見開かれ、美波の口がわずかに開いた。
「えっ……? ちょ、ちょっと待って……それって、マジで……?」
「うん。ほんと。……つわりも出てきてて、今日、会議中に倒れかけたって聞いて」
悠真は、真剣な目で三人を見た。
「だから、言っておきたかったんだ。……ごめん。隠してて」
「そんな、謝ることじゃないよ!」と、あかりがすぐに口を挟んだ。
「それに、なんか……悠真が父親になるなんて、想像つかないけど、めちゃくちゃカッコいいじゃん!」
美波も小さく笑って、「うん、真希課長が相手って聞いてたし、むしろ納得」と呟く。
「……男の子か、女の子か、まだわからない。でも、名前とか……どうすればいいか、正直迷ってて」
「名前? あー、それは悩むよなぁ~」と翼がニヤニヤしながら頷いた。
「でも、俺はさ。悠真と真希課長の子って、絶対いい子になると思ってる。……だから、俺たちにも、できる限り力貸すから」
「ほんと、何かあったら言ってよね。ね、美波?」
「もちろん!」
ふたりの手が、悠真の背中を軽く叩いた。
「……ありがとう。本当に、ありがとう」
◆【帰宅後、ふたりきりの夜】
その夜、真希はソファで横になりながら悠真の手を握っていた。
「……誰かに話せた?」
「うん。翼と、あかりと美波。正直に、全部話した」
「そう……ありがとう。私も、柳瀬部長に伝えたの」
ふたりは、手を繋いだまま、静かに見つめ合う。
「みんな、味方でいてくれる。大丈夫だよ。俺たちのこと、応援してくれてる」
「……うん」
目を伏せながら、小さく微笑む真希の目元に、また涙が浮かぶ。
ふたりはそのまま、そっと寄り添い、ひとつの温もりを共有する。
――誰にも言えない日々の中で。
――静かに芽吹いた、新しい命と、絆のはじまりを胸に抱いて。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。




