第2話 「母になる覚悟、父になる決意… ふたりの未来に、命が宿る」
◆【はじめての“心音”】
「じゃあ、これから内診に移りますね」
産婦人科の診察台に座った真希の表情は、少しだけ緊張していた。
付き添いの夫・悠真も、待合の椅子に腰を下ろしながら、そっと拳を握りしめる。
ほんの数日前、妊娠検査薬の陽性を確認してから、まだ現実味はなかった。
だが今日、医師から「心拍が確認できるかもしれません」と告げられて、ふたりは胸が高鳴るのを止められなかった。
モニターが起動する。
医師の手が、やさしくお腹をなぞる。
「……見えてきましたね。ああ、ここに……心拍がありますよ。ほら」
「……っ!」
画面に映し出されたのは、小さな鼓動。
命の灯が、画面の中で懸命に脈打っていた。
真希は無意識に口元を覆い、涙がこぼれた。
悠真も、ガラス越しのモニターを食い入るように見つめ、息を呑んだ。
「……いる。ほんとに、いるんだ……」
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◆【待合室での沈黙と、ぬくもり】
診察が終わり、ふたり並んで腰掛けた椅子の上。
真希の目元には、まだうっすらと涙の跡が残っていた。
「……生きてるのね、ちゃんと。私たちの赤ちゃん……」
「うん。小さくて、でもすごく力強くて……」
悠真は、そっと彼女の手を握った。
「ありがとう。俺、今日のこと一生忘れない」
「わたしも。今日から本当に……“母親になる”んだって、実感したわ」
周囲の喧騒が遠ざかるように、ふたりの世界だけが静かに、あたたかく、包まれていた。
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◆【はじめての母子手帳】
その足で役所に立ち寄り、真希は母子手帳を受け取った。
表紙に書かれた「母と子の健康手帳」という言葉が、どこかくすぐったくて愛しかった。
「ねぇ、名前……もう考えてたりする?」
帰り道、悠真がふと聞いた。
「早くない?」
「早いけどさ、なんか……考えるとワクワクするんだよ。俺たちの子の名前」
「ふふ……じゃあ、今日から考えておきましょうか」
歩きながら、手を繋ぎ、笑い合う。
通り過ぎる人々は誰も、ふたりが“秘密の夫婦”であり、今まさに“親”になろうとしているなんて思いもしないだろう。
でもそれでいい。
今は、ふたりだけで育てていく“秘密の命”だからこそ、大切に、丁寧に――
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◆【夜。ふたりきりのベッドで】
「……ねぇ、悠真」
「ん?」
「……正直、ちょっと怖いわ」
「……うん、俺もだよ。だけど……一緒なら、きっと大丈夫」
悠真はそっと彼女を抱き寄せる。
「俺、父親になるってこと、ちゃんと向き合うよ。
この子に胸張って“お父さん”って言えるように、仕事も、家のことも、全部全力でやる」
「……ありがとう。そう言ってもらえるだけで、私、すごく強くなれる」
優しいキスが、額に落ちた。
それだけで心が満たされていく。
ふたりは、静かな夜の中で――“未来”を育てていた。
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◆【母になるということ】
真希は、母子手帳をそっと膝の上に置いて眺めていた。
表紙に描かれた、かわいらしいイラスト――手をつなぐ親子のシルエットが、今はどこか自分たちに重なる。
「……ねぇ、悠真」
「うん?」
「私、本当に母親になれるのかな……」
それは、期待と不安の入り混じった、ひとりの女性の本音だった。
悠真は、そっと彼女の肩に手を添える。
「真希さんは、俺を育ててくれた。
誰よりも優しくて、強くて……今さら『なれるかな』なんて言わないでよ。
俺、真希さんみたいなお母さんがいたから、ここまで来れたんだから」
真希の目が、そっと潤む。
「……あなたってほんと、たまにズルいくらい優しいんだから」
「うん、ずっと優しくするよ。だって、これからは赤ちゃんにも、ふたり分優しくしないといけないから」
ふたりはそっと笑い合い、顔を寄せる。
唇が触れ合い、やわらかく、確かな愛情を伝え合うキスが落ちた。
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◆【“秘密のまま”の命】
帰宅後、真希はソファに身を沈めながら、ため息をひとつこぼした。
「……社内には、まだ言えないわよね」
「そうだね。やっぱり、もう少しだけ秘密にしたい。真希さんの体調が安定するまでは、無理に公表しなくていいと思う」
「うん……柳瀬部長には、タイミングを見て私から報告するわ」
悠真はうなずいて、キッチンに立ち、お湯を沸かし始めた。
冷えないように、ハーブティーでも淹れてあげよう。
それが、自分にできる小さな支え方だと思った。
「……ありがとう」
真希は、背後からそっと声をかけた。
「そうやって、何も言わなくても動いてくれるあなたが、本当に頼もしい」
その言葉が、何よりのご褒美だった。
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◆【夜、手をつないで眠るということ】
夜――ベッドに並んで眠る。
照明は落とされていたけれど、部屋の片隅にある間接照明がほんのりと、ふたりの顔を照らしていた。
「……悠真」
「ん?」
「……これから、どんなふうに変わっていくのかな、私たち」
「うーん……わかんないけど、きっと良いふうにしか変わらない気がする」
「そう言いきれるあなたが、少しうらやましいわ」
「じゃあ、信じて。俺じゃなくてもいい。
この小さな命が、私たちのもとに来てくれたことを――」
「……うん」
そっと手をつなぐ。
その温もりは、言葉以上の希望だった。
やがて静かに、互いのまぶたが閉じていく。
ふたりの心の中で、“これから生まれてくる未来”が、少しずつ、あたたかく形になっていった。
――それはまだ、誰にも知られていない、小さな奇跡の始まり。
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