最終(12)話「秘密のままでも、未来を育てていける」
同棲を始めて、まもなく丸二年。
ふたりだけの“夫婦生活”は、今日も静かに流れている。
社内にはいまだ非公表。
それでも、誰よりも深く、誰よりも優しく――ふたりは愛し合っていた。
静かで、穏やかで、時々ちょっとだけ背徳感を伴う、そんな“秘密の夫婦時間”。
だが――その夜は、少しだけ特別だった。
◆ 【ふたりきりの夜。】
「……お湯、張れてるよ」
悠真の声に、真希は頷いて、ふわりと立ち上がる。
バスルームから立ち上る湯気と、あたたかな気配。
蒸気の中、ふたりの体が自然と重なるように、静かに浴槽に沈む。
背中を流す手は、もうすっかり慣れたものだ。
でも、ふとした言葉が、昔の記憶を呼び起こす。
「……最初にこうして背中流したとき、緊張して震えてたっけ」
「うん、覚えてる。真希さんの肩に触れるだけで、心臓が爆発しそうだった」
くすりと笑いながら、真希は濡れた髪を払って振り返る。
「今はどう?」
「今は……爆発してるよ、ずっと」
その言葉に、また笑って――
湯気のなかで、ふたりは優しくキスを交わす。
唇が触れるたび、時間が止まったように、静寂とあたたかさがふたりを包み込んでいく。
◆ 【話題は、“未来”のこと。】
お風呂あがり、バスタオル姿のまま、ベッドに並んで腰を下ろす。
真希は、静かに視線を落として、ぽつりと呟いた。
「ねえ……もし、子どもができたら。
私たち、どんな家族になれると思う?」
「……すごく、あったかい家族。
きっと、笑顔が絶えない。
……真希さんに似たら、優しくて綺麗で、俺みたいなドジにはならない」
「ふふ、でもあなたに似てほしいな。
まっすぐで、強くて、何より――こんな私を愛してくれる、優しい人」
ふたりはゆっくりと、静かに視線を交わす。
その目には、不安や迷いを超えた、確かな想いが宿っていた。
「……作ろうか、ふたりの赤ちゃん」
真希はそう囁くように言った。
「……うん」
悠真は、彼女の手を包み込むように重ねて、そっと頷いた。
◆ 【心も体も、深く。】
そのままふたりは、ベッドへと身を預ける。
指が絡まり、唇が近づき、ふたりの距離は音もなく溶けていく。
最初は、ゆっくりと。
次第に深く、長く――
愛しさをぶつけ合うように、甘く、熱く、何度もキスを重ねる。
息を吸うたび、彼女の香りが胸に満ちて、
触れるたび、彼の熱が心を溶かしていく。
「……真希さん、好きだよ」
「……わたしも。心から、愛してる」
そう呟いて、またキス。
唇だけじゃない、指先も、瞳も、想いも――すべてが重なり合っていく。
やがて静かに、包み込むように。
ふたりはひとつになった。
優しく、強く、深く――
この夜、世界にふたりきりのような、温かな時間が流れていた。
◆ 【灯りを落とした寝室にて】
ベッドの中で、真希の髪を撫でながら、悠真がぽつりとつぶやく。
「……もう二年なんだな、こうして暮らし始めて」
「早いわね。本当に……あっという間だった」
「でもね、俺、毎日思うんだよ。
この人を選んでよかったって。何回も。何度でも」
真希は小さく笑って、
「そういうとこ、変わらないわね」と囁くように言った。
「……だからさ」
悠真は、そっと彼女の手をとる。
「……子どもがほしい。真希さんとの……俺たちの家族が、もっと大きくなったらって思う」
「……そうね。作ろうか、ふたりの赤ちゃん」
もう一度、重なる指先。
ふたりの間に、静かな決意が生まれる。
◆ 【長く、甘く、そして深く】
ふたりのキスは、何度でも繰り返された。
甘く。
優しく。
長く続き、やがて、心と心がぶつかるような激しいキスへと変わっていく。
「……ん、悠真……」
真希の肩を滑る指先。絡まる吐息。触れた瞬間に溶け合う体温。
「大丈夫。全部、大事にするから」
悠真のその言葉に、真希はそっと頷いて目を閉じた。
――静かに、完全に、ふたりは溶け合っていく。
その時間は、言葉にできないほど美しく、永く、深く、甘くて。
◆ 【夜明けの気配と、寄り添う未来】
どれほどの時間が経っただろう。
カーテンの隙間から、薄い光が差し込み始める頃。
ふたりはシーツの中で、ぴたりと寄り添っていた。
「……悠真、起きてる?」
「うん。起きてるよ。……眠れない?」
「眠れるけど……このぬくもり、ずっと感じていたいの」
真希の声は、小さく、でも確かだった。
「わたし……あのとき、市役所であなたに出会わなかったら、
こんな未来、知らなかったと思う」
「俺こそ。真希さんが“家族になってくれて”、初めて、ちゃんと生きていけた気がした」
ふたりは、そっと手を重ねた。
しっかりと、温かく。
そして、最後のキスは、すべてを込めるように――
深く、長く、優しく。
やがて、ふたりは静かに目を閉じた。
“秘密のままでも、未来を育てていける”
――そう信じながら。
カーテンの隙間から洩れる…
かすかな朝日が、ふたりの頬を照らす。
まだ眠れないまま、真希は悠真の腕の中に顔を埋める。
「……ねえ、悠真」
「ん?」
「私、40になって……
ようやく、“誰かに愛されてもいい”って思えたの。あなたと出会って」
その声は震えていなかった。ただ、静かで、芯のある声だった。
「あなたがいたから、私はここまで来られた。
“母親”じゃなく、“女”として、生きてもいいって思えたの」
「真希さん……」
悠真はそっと彼女の背中を撫でる。
それは、愛する人を抱きしめる恋人の手であり、
これから生まれる家族を包む、父としての優しさも含んでいた。
「……ありがとう。生きててくれて、俺の前に現れてくれて」
彼女は頷いた。
そしてもう一度、ゆっくりと唇を重ねた。
キスは深く、甘く、そして永遠のように長く続く。
ふたりだけの秘密の部屋で、
世界がまだ静かなその朝、
心も体も――すべてを重ね合わせながら。
•
◆【“ふたりの赤ちゃん”の約束】
その後も、ふたりはシーツの中、腕を絡ませて微睡んでいた。
「悠真……赤ちゃん、できたら名前、どうしようか?」
「え、もう考える? でも……いいね。ふたりで名前を考えるの」
「男の子でも女の子でも……
あなたみたいに、まっすぐで、優しい子になるといいな」
「真希さんに似て、あたたかくて、綺麗な人になってほしい」
真希は照れたように小さく笑って、
そのまま、彼の胸に頬を寄せた。
「もし、将来この子が“大きくなったら”って考えるとさ――
なんか、泣けてくるね」
「泣かないでよ……俺も、泣くから」
ふたりは声を潜めて笑い合い、またそっと手を重ねた。
この手は、あの日、市役所のロビーで出会った少年の手とは違う。
けれど――同じように、彼女を求めていた。
同じように、彼女の愛にすがっていた。
そして今は、その手が彼女を守ってくれている。
「……もう少しだけ、秘密のままでいようか」
「うん。だけど、いつかきっと……堂々と、“夫婦です”って言える日が来るよ」
「それまで、ふたりで育てよう。
恋も、家庭も、そして――未来も」
◆【未来への一歩】
その日の朝、ふたりは手を繋いで、いつものように家を出た。
会社では、まだ他人のふり。
けれど心の中では、誰よりも深く繋がっている。
秘密があるからこそ、守りたい気持ちは強くなる。
誰にも見せない“ふたりだけの愛”は、今日も確かにそこにあった。
そして、これから始まるのは――
“ふたりの赤ちゃん”とともに歩む、新しい物語。
心も体も重ねて、生きていく。
誰にも邪魔されない、大切な未来のために。
【《社会人2年目&秘密の同棲&結婚生活編》完】
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。




