第11話「交わる夜、語られる真実――二つのテーブルの、それぞれの告白とそれぞれの夜、それぞれの本音」
◆ 男たちのテーブル――新宿・個室居酒屋「魚真」
「やっぱ魚うまいよなぁ、新宿の魚真」
瀬川陽翔がビールジョッキをぐいっと傾ける。
今夜集まったのは、陽翔、高槻悠真、村瀬翼、赤井美波、進藤あかりの5人。
全員、ルクシア入社2年目の同期。
「で? 今日はなんで急に飲もうって?」
村瀬が串焼きを口に運びながら陽翔に尋ねる。
陽翔は、少しグラスを置いて言った。
「実はさ――俺、結婚してるんだ」
「知ってるよ。ていうか、子どもはいないけど結婚はしてるって、前に話してたじゃん」
進藤がさばさばと返す。
「だよね。でも、もうひとつあるんだ。……相手、社長」
「……え?」
「えええええ!?」
三人の反応が完全にシンクロした。
「ルクシアの社長って……氷室結衣さん!?」
赤井美波が半ば絶叫する。
「うん。氷室結衣。“あの”氷室社長と、俺は結婚してる。しかも――交際0日でな」
「……え、待って待って、それはあまりにも突然すぎて情報処理が……」
村瀬が頭を抱える。
「しかも社長室、あれ俺たちの“自宅”なんだよ」
「え? 40階の社長室が……家!?」
「朝起きたらあそこで朝ごはん食べて、スーツ着替えて、出社……っていうかそのまま出勤」
陽翔は笑っていたが、周囲は完全に固まっていた。
「いやでも……なんか、陽翔っぽいわ」
進藤がポツリと漏らすと、一同が一斉に吹き出した。
「やばいな、ルクシアってほんと恋愛の密度濃いな……」
•
◆ 女たちのテーブル――銀座・隠れ家ダイニング「KURA-蔵-」
そのころ、別のテーブルでも“告白”が行われていた。
銀座の大人向け個室ダイニング「KURA」。
落ち着いた照明の中、春日井真希は、氷室結衣社長、橘理沙副社長の2人と向かい合っていた。
「真希、乾杯。ようやく“奥さん”としてお祝いできるわ」
理沙がワイングラスを掲げる。
「ありがとうございます……でも、社内じゃまだ“秘密の部下”ですから」
「まぁ、それはそれで楽しいでしょ?」
結衣が意味深に笑う。
「それより真希、うちの陽翔が変なことしてない?」
「……いえ。むしろ彼、とてもまっすぐで。
正直、羨ましいです。結衣さんと陽翔さんの関係、堂々としてて」
すると結衣がぽつりと語った。
「実は……社長室、今は私たちの“自宅”なの」
「……はい?」
「40階のあの執務室。あそこ、ふたりで暮らしてるの。寝室も奥にある」
「嘘でしょ……あそこ、完全にオフィスなのに……」
「そういう“非常識”も、ふたりで選んだ形。
“誰かに合わせるための結婚”なんて、私たちにはできないから」
真希はグラスを持つ手を少しだけ強く握る。
その表情には、どこか共鳴するような想いが滲んでいた。
「……それ、ちょっと憧れます」
「真希たちも、自分たちの形を作ればいいのよ。
会社がなんだって? 常識がどうだって?
愛してるなら、それが一番強いのよ」
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◆ それぞれの帰り道――交差する想い
帰り道。
それぞれのグループは、別々の道を歩いていた。
村瀬は、悠真の隣でポツリと漏らす。
「お前も大変だな。結婚して、秘密守って……でも、羨ましいよ」
「……ありがとう。まだまだ未熟だけど、大事にしていくよ。真希さんのこと」
一方、理沙と結衣に挟まれて歩く真希は、ふと夜空を見上げて言った。
「私、もうちょっとだけ……秘密のままでいたいんです。
でも、“その先”を、最近ようやく考えられるようになってきました」
「じゃあ、そろそろその“次の一歩”、踏み出してもいいかもね」
理沙の声が、夜の街に溶けていった。
◆ 【居酒屋「魚真」――男たちの胸の内】
食事もひと段落し、ビールが進む中――
同期5人の会話は、ようやく“本音”の領域へと踏み込んでいた。
「……でさ、結婚式は挙げるの?」
悠真の隣で、村瀬翼が訊ねる。
それに悠真は、少しだけ目を伏せた。
「まだ決めてない。でも、真希さんとは“ちゃんと家族”になれてる。
今は、それで十分って思ってるんだ」
「でもお前、あの真希課長とだろ? ぶっちゃけ、何がきっかけだったの?」
「きっかけなんて――うまく言えないけど……
出会ったのは、俺が10歳のとき。雨の日、市役所のロビーで」
「えっ? そんなに前から……?」
進藤が目を見開く。
「……俺、身寄りがなくてさ。
そのとき、真希さんが仮の保護者になってくれた。
最初は“親子”のような距離だった。でも――
だんだん、彼女が“女性”として見えてきたんだ。気づいたら、好きになってた」
「10歳の悠真が、40歳の真希課長を……」
赤井が呆然と呟く。
「年齢差とか、世間の目とか、全部怖かったよ。でもそれ以上に――彼女を守りたいって思った」
陽翔は黙って聞いていたが、ふとジョッキを置き、言った。
「……それが“覚悟”ってやつなんだな。
交際0日婚の俺が言うのもなんだけどさ」
5人は笑い合いながら、乾杯の音を響かせた。
•
◆ 【銀座「KURA」――女たちの選択】
一方そのころ――
真希は、結衣と理沙のふたりから“後押し”を受けるように話を続けていた。
「私、ずっと罪悪感がありました。
母親みたいに接してきた子と、気づけば……惹かれてた。
でも、彼は――私を“女性”として見てくれてたんです」
理沙は静かに頷いた。
「真希。それ、立派な“恋”よ。
誰が何を言っても、自分で選んだ人を信じられるなら、それでいいの」
「そう……ですか?」
「うん。しかも悠真くんは、あなたに“生き方”をくれたんでしょう?」
「……ええ。あの子に出会って、私は初めて、“自分を愛していい”と思えました」
氷室結衣はグラスを片手に、ぽつりと微笑んだ。
「私たち、すごいね。
副社長と、総務部員と、そして……元保護者と息子(仮)」
「本当に、“普通”じゃないですね」
三人は小さく笑い合った。
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◆ 【深夜――ひとりと、ひとり】
帰宅したふたりは、部屋の灯りを落とし、
ベッドの端で向き合っていた。
「……楽しかった?」
悠真が訊ねると、真希は「うん」と頷いた。
「あなたのこと、たくさん褒められた。
“よく育てたわね”って……でもそれって、育てられたのは私の方よね」
「俺も同じ。
……“恋人”でも、“夫婦”でも、“母親”でもない。
“春日井真希”って人に惹かれたから、俺はこうして、今も隣にいるんだ」
ふたりはそっと手を重ね、
互いの温もりを確かめるように、何も言わずに目を閉じた。
――秘密でも、世間に隠れていても。
その夜だけは、誰よりも強く、深く、愛していた。
【第11話・完】
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