第10話「知る者たちへ――秘密と信頼の境界線… それでも、私たちは“秘密のまま”愛し合う」
◆ 【社長と副社長――親友同士の午後】
氷室結衣が副社長・橘理沙に声をかけたのは、午後の休憩時間。
社長室のドアを閉じ、ふたりきりの空間で――結衣は静かに告げた。
「……理沙。私、言っておかないといけないことがあるの」
「なに? 珍しく真剣な顔じゃない」
「春日井真希課長と……高槻悠真くん。
実は、ふたりは結婚してる。まだ公にはしていないけど」
理沙は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにゆるやかに頷いた。
「なるほどね。……確かにあのふたり、妙に息が合ってると思ってた。
でも結婚とは、また大胆な」
「私と陽翔くんだけじゃなかったの。
“社内で、秘密の夫婦”がもう一組いたのよ」
理沙はコーヒーを一口飲んでから、ふっと笑った。
「……あのふたりらしいわね。真希らしい、って言うべきかしら」
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◆ 【副社長室にて――ふたりへの助言】
数日後。
真希と悠真は、理沙から「お時間いただけますか」と呼ばれ、副社長室へ。
緊張した面持ちのふたりを前に、理沙は穏やかな声で語りかける。
「春日井課長、高槻くん。驚かないでね。
……私は、あなたたちの“秘密”を聞きました。結婚していることも」
「……すみません。ご迷惑を――」
「謝る必要はないわ。誰を愛するかは、自由な選択。
ただ、社内で秘密を貫くのなら、“節度”は忘れないで」
「節度……ですか?」
「無防備な視線や仕草が、ふとしたときに周囲の“違和感”になるの。
社内では、“課長と部下”としての距離感を忘れないこと。
それが、あなたたちの関係を守る術になるわ」
ふたりは静かに頷いた。
「でも……私は、応援してる。
不器用でも、戦いながら選んだ愛なら、きっと誰にも負けないわ」
その言葉に、真希は静かに頭を下げた。
「……ありがとうございます、副社長。いえ……理沙さん」
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◆ 【同期の“知る者たち”】
一方、社員食堂の一角。
村瀬翼、赤井美波、進藤あかりの3人は、瀬川陽翔から小さな秘密を打ち明けられていた。
「マジで……悠真、結婚してたの?」
「しかも相手、春日井課長って……」
「でも、絶対言わないって決めた。
本人たちが選んだ“秘密の愛”なら、私たちは守る側になりたい」
進藤あかりのその言葉に、ふたりもうなずく。
「……バレたら終わり。でも、応援はする」
「大人の恋って、めちゃくちゃかっこいいよね」
互いにグラスを合わせ、同期3人はその秘密を胸にしまった。
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◆ 【ふたりの帰り道――また一歩、前へ】
帰宅の電車、静かな揺れの中で。
「副社長……全然怒ってなかったね」
「むしろ、すごくあたたかかった」
「きっと、理沙さんも戦ってきた人だから」
「……そうだね」
少しの安心と、少しの不安と。
でも、“知ってくれている人がいる”ことが、ふたりの心を強くした。
「ねえ、悠真。次の休み……ちょっと家族で出かけない?」
「うん。俺、どこでも一緒に行くよ、真希となら」
ふたりの手は、そっとつながれた。
秘密のままでも、愛は確かにここにある。
◆ 【副社長室を出たふたり――静かな緊張の余韻】
「……副社長、思ってたよりずっと優しかったね」
エレベーターの中、真希がぽつりと呟く。
肩の力を抜くように、深く息を吐いて。
「うん。……ちゃんと、“私たち”を見てくれてた気がする」
悠真もまた、安心したように微笑む。
「秘密にするなら節度を。
……あの人、ただ“会社”のためじゃなく、“私たち”のために言ってくれたんだよね」
真希はうなずき、そしてふいに言った。
「私……これまで、何度も“怖い”って思ってた。
好きになっても、結婚しても……
それを誰かに知られるのが、ずっと怖かった」
「……でも?」
「……今日、ちょっとだけ、“守られてる”って感じたの。
ちゃんと、誰かが見てくれてるって」
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◆ 【その夜――ふたりきりのキッチン】
夕食を終えたキッチン。
片付けを終えた真希の背中に、悠真がそっと近づいた。
「今日も、おつかれさま」
そう言って、背中から優しく抱きしめる。
「……ん、ありがとう」
真希は腕の中で、少しだけ背を預けるように目を閉じた。
「俺、理沙さんの言葉……けっこう刺さった」
「“節度”?」
「ううん。
“守りたいなら、覚悟しろ”って、そう言われた気がした。
だから……俺、もっとちゃんと、大人になるよ」
「もう十分、あなたは大人よ」
「でも、もっと。
あなたが、堂々と隣に立てるように。
誰にも引け目を感じずに、“俺の妻です”って言える日が来るように」
真希はその言葉に、何も返さず、
そっと腕を回し――悠真の首にキスを落とした。
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◆ 【同期たちの、静かな決意】
そのころ――社内の別の場所では、
同期3人が思いを共有していた。
「……高槻、ほんとに結婚してたんだな」
「でも、あのふたり……なんか、いいよね」
「うん。秘密の関係って、すごく不安定だけど……
本気だからこそ、貫こうとしてるんだと思う」
進藤あかりは、小さくつぶやいた。
「いつかきっと……“正々堂々と言える日”が来ますようにって。
私は、あのふたりの“未来”に賭けてみたい」
その言葉に、村瀬と赤井も深くうなずいた。
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◆ 【再び、ふたりの夜】
シャワーを終えた真希が、濡れた髪をタオルで拭いていると、
ソファで本を読んでいた悠真が、立ち上がった。
「……乾かしてあげる」
「いいわよ、自分で――」
「乾かしたいんだ。俺の手で」
照れくさそうに言いながらも、
丁寧にドライヤーをあて、真希の髪を梳く悠真。
「不思議ね……。
あなたの手って、ほんとに温かい。
10年前も、こうして触れてくれてた気がする」
「そのときは、“保護者”だったけど」
「……今は、“夫婦”よ」
ふたりは見つめ合い、
そっと、唇を重ねた。
心が重なる音がした――
それは、秘密でも偽りでもない、“ふたりだけの真実”。
【第10話・完】
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