第3話「ダブル? セミダブル?――夫婦の“ベッド問題”と、会社のざわめき」
◆ 【休日の大型家具店にて】
「……でかっ」
「ねえ、これ、寝返り何回でも打てるやつじゃない?」
ふたりがやって来たのは、郊外の大型家具店。
目的は、ひとつ。
――“ふたり用のベッド”。
「この前、布団から私落ちたからね……悠真が寝相良すぎるのよ」
「いや、真希が俺に巻き付いてくるからでしょ。腕、痺れるくらいには幸せだけど」
「はいはい、甘えん坊の妻で悪かったわね」
そんな会話も、“新婚の証”。
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◆ 【サイズ問題、真希の赤面】
「これ、キングサイズだって」
「うちの部屋に入るかな?」
「……でも、寝るだけじゃないし……」
「ん?」
「な、なんでもないわよ!」
真希はさっと視線をそらして、
近くのベッドの価格表を凝視するふり。
悠真はにやにやしながら横に立つ。
「……もしかして、そういうとこも“見越して”大きいベッド選ぼうとしてる?」
「ちがっ、ちがうっ!」
「真希ってさ、意外と攻めるよね。夜とか」
「もう! 声のボリューム考えて!!」
家具コーナーで小声のキス攻撃。
周囲のカップルにまぎれながら、
ふたりだけの熱がひそやかに膨らんでいた。
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◆ 【一方その頃、職場では】
「ねぇ、最近さ……高槻くん、なんか変わったと思わない?」
新田茜がぽつりと言う。
総務部の休憩スペース。
となりには桐谷颯太。
「変わったって?」
「なんかね、落ち着きすぎっていうか……妙に“既婚者感”あるのよ」
「ははっ、まさか。それは勘ぐりすぎじゃね?」
「でも……春日井先輩と話してるとき、
たまに目がすごく優しいの。お互いに」
「……お前、観察力だけ探偵みたいだな」
桐谷の笑いはいつもの調子。
でも内心では――
(やっぱ、なんかあるよな、あのふたり)
職場の空気は、少しずつ変わり始めていた。
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◆ 【帰宅後、ベッドを前にして】
「これが……今日届いた“ふたりの城”か」
「セミダブルだけどね」
「でも、こうして見るとさ……本当に一緒に暮らしてるんだなって実感する」
悠真がベッドに腰を下ろし、
真希を手招きする。
「こっちおいで」
「ちょっと、まだ化粧落としてないのに……」
「別に、すっぴんでも好きだし」
「……もぅ、またそういうこと言って……」
彼の隣に腰を下ろすと、
自然と肩と肩が触れ合った。
「……ねえ、悠真。もし、職場で誰かに気づかれたら、どうする?」
「“俺の妻です”って、胸張って言える準備だけはできてる」
「……でも、今はまだ内緒ね」
「うん。秘密のままで、守っていこう」
ふたりは見つめ合って、
静かにキスを交わす。
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◆ 【その夜、セミダブルの上で】
「……やっぱ、ちょっと狭いかも」
「そう言うと思った。……だからって、キング買うほどじゃないでしょ」
「うん、でも」
彼は、布団の中で真希をぎゅっと抱き寄せた。
「これくらいの距離がいいよ。
ちょっとでも離れると、すぐ寂しくなるし」
「……ほんと、甘えん坊なんだから」
そう言いながらも、
真希の指先も、自然と彼の背に回っていた。
ぴったりとくっついて眠る夜。
秘密の夫婦生活は、
甘くて、少しだけ苦くて、
でも確かにあたたかい。
【第3話・完】
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