表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/83

番外編最終話前【結婚後の“兆し”編】 :「誰にも見られていないと思っていた、その仕草… あなたたちの目が、“答え”でした」


■社内、昼下がりの応接ブース


午後の短い休憩時間。

社内のフリースペースで、真希が悠真に資料を返していた。


「ありがとう。助かったわ。……これ、夕方の分よね?」


「はい。こっちも整えておきました」


表向きはあくまで“業務連絡”。


けれど、資料を渡す手がほんの一瞬触れ合い、

ふたりが軽く目を合わせるその一瞬――


“誰かに見られている”ことに、気づいていなかった。



■視線の主――それは、総務部の新入社員・橘凛たちばな りん


真希の後ろから、そっとそれを見ていた一人の女性社員がいた。


「……あれ?」


橘凛。入社1年目の総務部スタッフ。

観察眼が鋭く、誰に対しても礼儀正しいが、内心では人間関係の“温度差”をよく見ているタイプ。


(高槻さんと課長……資料の受け渡しにしては、距離が近くない?)


“恋人”とは思っていない。

だが、あの一瞬の“柔らかい空気”――

まるでプライベートの会話のような目の動きに、何かが引っかかった。



■その違和感は、社内に少しずつ“染み出していた”


・会議中に呼吸が合いすぎる

・資料の受け渡しが、やたらと“丁寧”

・どちらかが不在の日、もう一方が妙に落ち着かない


「……あのふたり、妙じゃない?」


誰かがポツリと言うと、周囲は笑い飛ばす。


「まさか〜、あの真希課長が? あれは“信頼してる部下”ってやつよ」


でも――橘凛だけは笑わなかった。


(ううん……“そうじゃない”空気を、わたしは見た)


彼女の疑念は、少しずつ静かにふくらんでいく。



■そして、決定的な“兆し”


ある金曜の夕方。

社内報チームが社内の「働く手元スナップ特集」を撮影していた。


悠真のデスクに置かれた書類と、マグカップ――

そこに映り込んだのは、左手薬指のリング。


一見シンプルなプラチナ。だが、それは“ただの装飾品”には見えなかった。


「……これ、結婚指輪……だよね?」


その場にいた橘凛の目が、一瞬鋭く光った。



■静かに進行する、“気づき”


橘はすぐには誰にも言わなかった。

むしろ、確信を得るまで、黙って“観察”を続けようとしていた。


(このまま気づかなかったフリをするか、それとも――)


真希と悠真。

“ふたりの空気”は確かに、“普通の上司と部下”ではなかった。


■橘凛、動き始める


月曜の朝、橘凛はひとり、資料整理のために営業部フロアへ入った。


真希と悠真――ふたりはいつも通りに装っていた。

だがその姿勢が“完璧”であればあるほど、逆に違和感が際立つ。


(見られていることに気づいてる。でも、あえて何も変えない。それが逆に“本物”っぽい)


ふたりが交わす視線。

他人には業務連絡にしか見えないその一瞬が――

彼女には「恋人の呼吸」に見えてしまっていた。



■決定的な証拠を得る、つもりだった


休憩時間。

橘は、さりげなく悠真の席の近くを通った。


「高槻さん。……あの、すみません。今日の稟議、印鑑を預かってもいいですか?」


「はい、大丈夫ですよ」


悠真は穏やかに印鑑ケースを渡す。

その動作に何の不自然さもなかった。


……が。


そのとき、ふと覗いたデスクの上――

“革張りの指輪ケース”が、少しだけはみ出ていた。


橘の視線が止まる。


(これは……)


ほんの一瞬だった。

悠真はすぐに気づき、さりげなくノートを重ねて隠した。


「すみません、散らかってて」


「……いえ」


その場では何も言わなかった橘。

だが、その瞬間――彼女は“確信”を得てしまった。



■問いかけは、しなかった


その日、橘は真希とふたりきりになれるタイミングを狙っていた。

しかし、いざ対面すると――言葉が出てこなかった。


(言ってどうするの? 咎めるの? 告げ口するの?)


「……課長って、休日もスーツっぽい服着てるんですか?」


「……え?」


「いえ、なんとなく。

プライベートでも、きちっとしてそうだなって思っただけです」


「……ふふ、ありがとう。そう見られるのは、嫌いじゃないわ」


その笑顔に――

“恋人”でありながら、すべてを押し隠して生きる覚悟が見えた。


(あの人、誰よりも強い顔をして、たぶん、誰よりも孤独だ)


橘は、問いかけるのをやめた。



■夜、ふたりきりの部屋で


「……今日ね、ちょっとヒヤッとした。

デスクに指輪の箱、出しっぱなしだったの、完全に俺のミス」


「……気づかれた?」


「たぶん、橘さんに。……でも、何も言われなかった」


真希はしばらく黙って、ふぅと息を吐いた。


「言わない、っていう選択をしてくれる子なら、まだ信じられるわね」


「うん。でも、もう限界かもしれない。

こうやって隠し続けることが、彼女たちの“善意”に乗っかってるだけの気がしてきた」


悠真は言う。

自分たちの関係を“守る”ことが、いつしか“誰かに委ねること”になっているのではと。


その言葉に、真希は手を重ねた。


「じゃあ、次に誰かに聞かれたら――言おう」


「……いいの?」


「覚悟はできてる。

あなたの“妻”になった以上、私はもう“孤独”じゃないから」



■後日、橘凛の胸の内


その夜、橘は帰宅途中の電車で、ふたりの会話を思い出していた。


(やっぱり、そうだったんだと思う。

でも――そのことを“誰にも言いたくない”って、初めて思えた)


あのふたりの目は、すべてを物語っていた。

仕事の顔も、距離感も、完璧に装っていたけれど――

“愛している”という真実だけは、目に滲んで隠しきれなかった。



■ふたりだけが知る愛の重み


それでも、ふたりは明日も同じフロアで、

“何も知らない顔”をして仕事をする。


けれどそれはもう、

「バレないように隠す」ためじゃない。


「誰かに強要されても、奪われないように守る」ために――


堂々と背筋を伸ばして、ふたりは並び立っていた。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ