表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/83

番外編⑤:プロポーズ準備編 ――「あなたに、ただ“女性”として笑ってほしいから、本当はまだ何も起きてないのに、胸が痛い」


■はじまりは、小さなリサーチから


「なあ、美波先輩って、女性としてプロポーズされるならどんなのが理想ですか?」


唐突な質問に、赤井美波がコーヒーを吹きそうになる。


「ちょ、ちょっと悠真くん!? それ、誰かにプロポーズするつもりって意味よね? え、誰? まさか……え、まさか――!」


「違います違います。あくまで仮定の話です、仮定です」


(……ってことにしておかないと)


――悠真は動き始めていた。

彼女に“プロポーズ”するために。

ただの告白じゃない。年上で、上司で、母親のように自分を包んでくれる彼女を、一人の女性として幸せにしたい。

だからこそ、万全の準備が必要だった。



■彼女が“母”じゃなくなる瞬間を、贈りたい


「真希さんが欲しがるものって、“高価なもの”じゃないと思うんだ」


休日。大学時代の友人と訪れた銀座のジュエリーショップで、悠真はそうつぶやいた。


「でも、“母親じゃなく、ただの女”として扱ってほしい、って気持ちは、きっとあると思う」


“守られる側”じゃなくて、

“女として愛される側”へ――

それは真希がいつか、不意に見せた目の奥にあった微かな光だった。


だからこそ彼は、煌びやかすぎない、それでも品のある指輪を選んだ。

彼女が好きそうな、プラチナの繊細なデザインに、誕生石をそっと埋め込んだもの。


「この指輪が、彼女を“女性”に戻す力を持ちますように」



■タイミングという名の魔物


プロポーズする“場所”も、“タイミング”も、慎重に考えなければいけない。


社内イベント? いや、絶対ダメ。

夜景の見えるレストラン? バレる可能性がある。

彼女の自宅? リアルすぎて、日常の延長になる。


「特別な日でも、特別な場所でもなくていい。ただ――“真希さんが気を許せる瞬間”であることが、条件だ」


悠真はノートにメモを取りながら、プロポーズの“候補日”をいくつも並べては消していた。


“結婚記念日”なんてものはまだない。

けれど――

“指輪を渡す日”こそが、それになるのだ。



■真希側にも“予感”が芽生え始めて


その頃、真希は真希で――どこか、落ち着かない日々を過ごしていた。


「悠真、最近……妙にそわそわしてる気がするのよね。

私に内緒で誰かと話してることも増えたし……仕事じゃなさそうな顔なのよ」


“第六感”というより、“恋する女の勘”。


彼が最近よくスマホを握って、何かを確認しているのも見逃さなかった。


(……まさか、浮気?)


と、疑ってしまうのが30代女性の悲しさでもある。

けれど、同時にふとこんな思いも頭をよぎる。


(いや、違う。……むしろ、私のために“何か”をしてくれようとしてる、そんな気がする)


そしてある夜。

ふたりで食事をしていたとき、真希がぽつりと呟いた。


「ねえ……私、昔は“サプライズ”とかあんまり好きじゃなかったの。

驚かされるのが苦手で、自分の反応に自信が持てなかったから」


「……でも、今は?」


「今は……あなたになら、驚かされてみたいと思ってる」


その言葉を聞いた悠真の手が、ピタリと止まった。


(……気づいてる? いや、気づいててもいい)



■「その日」は、もうすぐ


準備は整った。

あとは、渡すだけ。

指輪は、あの小さなケースに収まって、静かに出番を待っている。


(真希さん。あなたが、もう一度“女”として笑えるように――)


(……この想い、ちゃんと届きますように)


■“その日”が近づいて


――金曜日の夜。

悠真は、一人暮らしの部屋のテーブルに、そっと小さな黒い箱を置いていた。


(場所は決めた。時間も、セリフも、覚えた。……あとは、勇気だけ)


明日の夜。

真希を、ある小さなレストランに連れていく予定だった。

予約も取った。

指輪は、ジャケットの内ポケットに滑り込ませるつもりだ。


(この一言を言えば、俺の人生は変わるんだ)


「結婚してください」


それだけの言葉が、どうしてこんなに重いんだろう。

けれど、その重さごと背負っていきたいと思える相手は――彼女しかいなかった。



■一方その頃――真希の夜


ベッドに横たわりながら、スマホで“女性向け結婚記事”を読む自分がいた。

――「年下男性との結婚、現実的なメリット・デメリット」

――「バツなしアラフォー女性は、再婚より初婚のほうが難しい?」


(ほんと、ろくでもないワードばっかり)


思わずスマホを閉じて、真希は枕に顔を埋めた。


(……でも、なんとなく“その日”が近づいてるって、感じてしまう)


悠真の視線。

彼の最近の落ち着き。

そして何より――“何かを決意している人の目”。


(もし、それが“プロポーズ”だったら……私は、ちゃんと受け止められる?)


“上司”でも、“母性の象徴”でもなく。

“ひとりの女”として、隣に立てる?


目を閉じると、彼が指輪を差し出す姿が浮かんだ。

胸が締め付けられるように苦しくなる。


「……まだ何も起きてないのに、なんで泣きそうなのよ……」



■準備の最後に必要なもの


土曜の昼。

悠真はレストランの近くまで来て、予約の確認を終えた後――

近くのブティックで、真希の好きな色のラッピングリボンを買っていた。


(指輪の箱、ちょっと固すぎるから……包み直して“柔らかく”しよう)


自分でも笑えるほど細かい気配り。

でもそれだけ、彼女の心に寄り添いたかった。


(これで……全部、準備は終わった)


ポケットの中で、小さな箱が熱を帯びるような気がした。



■“プロポーズ前夜”の電話


その夜――


「もしもし、悠真? 今日って……何か予定してた?」


突然、真希から電話がかかってきた。

声が、少し揺れている。


「うん。今日っていうか……明日、ちょっと“行きたい場所”があるんだけど。付き合ってもらえる?」


「……行く。絶対、行く」


「え?」


「ううん、なんでもない。……その、“あなたのそういうとこ”、好きだなって思っただけ」


その言葉の向こうで、彼女が何かを感じ取っていることは、もう明らかだった。


「……じゃあ明日、夕方。駅前のカフェで待ち合わせね」


「うん。……楽しみにしてる」



■“恋”から“覚悟”へ


電話を切ったあと、真希はそっと鏡の前に立った。

“ひとりの女”としての自分を映すように、唇に軽く指を添える。


「……明日、人生が変わるかもしれない」


恐れも、不安も、ある。

でも、それ以上に――


この恋に、答えたいと思えたことが嬉しかった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ