番外編④:社外デート編 ――「偶に二人の休日くらい、恋人でいさせて、」
■誰もいない街で、ようやく“ふたりきり”
日曜の朝、電車の窓から差し込む陽光が、どこか特別なものに思えた。
「……ねえ、悠真。手、つないでもいい?」
「うん。ここなら、もう“課長”じゃなくて“真希さん”でいてくれるんでしょ?」
そう。
ふたりが今日選んだのは、都心から電車で1時間以上離れた郊外のテーマパーク。
子ども連れの家族や学生ばかりで、平日のスーツ姿の人間などまるでいない。
“休日の恋人”にふさわしい場所。
「うわ……見て。パンダのアイス、売ってる!」
「意外とテンション上がってません? 真希さん」
「だって、こういうのって……誰かと一緒じゃなきゃ来られないでしょ?」
どこかはしゃいだ様子の真希を、悠真は少しだけ遠くから眺めた。
――年齢差も、立場も、忘れたくなるほどに今の彼女は“ただのかわいい人”だった。
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■恋人同士の、ペアグッズという証明
昼すぎ、園内の雑貨ショップ。
「ねえ、これどう?」
真希が手に取ったのは、小さなレザーキーホルダー。
“日付”を入れられる刻印サービス付き。
「じゃあ……今日の記念に、おそろいにしよっか」
「えっ、ほんとに……?」
悠真は、にやっと笑いながら言った。
「実はね……これ、今日のサプライズだったんだ。
あなたが“気に入ったら買おう”って言い出すと思って、事前に調べてた」
「……もう、そういうところずるいのよ、あなた……」
真希は小さく照れたあと、嬉しそうにキーホルダーを抱きしめた。
――“恋人の証”なんてものは、別に指輪じゃなくていい。
こういう小さな“秘密”こそ、ふたりにとってかけがえのない宝物だった。
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■観覧車で、あと少しのキス
夕暮れ時、最後に乗った観覧車。
密閉されたゴンドラの中、真希は少しだけ息を弾ませながら景色を見上げた。
「すごい……あんなに人がいたのに、上から見ると静か」
「……俺は、真希さんしか見てないけど」
その言葉に、真希は驚いたように顔を向け――
同時に、悠真の手が彼女の頬に触れる。
「キス、してもいい?」
ほんの数秒の間。
その静寂の中で、彼女はかすかに笑って――
「……だめ。家に帰るまで我慢しなさい」
そう言って、ふっと目を閉じた。
(……でも、次は絶対に、してやる)
悠真の中に、小さな“宣戦布告”が芽生える。
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■帰り道、交差点の魔物
帰りの駅までの道。
日も落ち、住宅街に灯る街頭が、二人の影を引き伸ばす。
「楽しかったなぁ……また来たいね」
「うん。また、次は……もっと遠くてもいいかも。誰にも見られない場所へ」
「今日は、充分“恋人”だったよ」
そう言って、悠真が自然と手を繋ぎ――
その瞬間だった。
「……あれ? 悠真くん?」
振り返ると、そこにはスーツ姿の男性が立っていた。
「……え?」
(まさか、ルクシアの……経理部の新井主任!?)
すぐさま手を離したが、時すでに遅し。
相手は少し驚いた顔をしながら、こちらを見つめていた。
「えっと……ご家族の方?」
「いえ……その……大学時代の知り合いで……たまたま、こっちの方に住んでて……」
「あ、そうなんだ。奇遇だね。じゃあまた明日~!」
軽く会釈して去っていったが、内心は針のように尖っていた。
(見られた……けど、誤魔化せた……か?)
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■電車の中、交わす“誓い”
帰りの電車。
言葉少なに座るふたりの間に、そっと真希の手が滑り込んだ。
「ごめんね。私が気を緩めたせいで……」
「ううん。俺は、後悔してない。手、繋げてよかったって思ってる」
「……私も。
だけど、こうしてると改めて思う。
あなたと“普通の恋人”として歩ける日は、やっぱり、まだ遠いのよね」
「でも、近づけるよ。俺が“ちゃんとした男”になって、みんなに認めてもらえるようになれば、きっと」
真希は小さく頷いて、キーホルダーに指先を滑らせた。
「……この日付を、ずっと大切にできるように。
もう少し、頑張ろう。ふたりで、“秘密のまま”でも」
悠真はその言葉に、力強く頷いた。
(どれだけ時間がかかっても――あなたと、手を離さない)
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■ラスト:部屋のドアを閉めたあと
帰宅後。
玄関先で、真希がそっとつぶやいた。
「……我慢してくれたお礼、してあげる」
「えっ?」
「家に帰ったら、いいって言ったでしょ? 今夜はもう、“我慢しなくていい”わよ」
そのまま手を引かれ、リビングのドアが閉まる音と同時に――
二人の“休日”は、静かに幕を閉じた。
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