第10話「守るための告白――信頼と秘密の境界線」
◆ 【朝――重い扉を開ける】
月曜の朝。
真希はいつも通りに髪を束ね、スーツに袖を通す。
でも、内心は昨日の夜からずっとざわついていた。
(……言うのよ。今日、必ず)
彼との関係を、正直に話す。
“すべて”ではない。
“必要な範囲”だけを、誠実に。
ふたりを守るための、
大人の決断。
•
◆ 【直属の上司・柳瀬部長のもとへ】
昼前。
真希は静かに立ち上がり、
柳瀬部長の部屋をノックした。
「失礼します。
……少し、お時間をいただけますか」
重たい沈黙のあと、
ドアが閉じられる。
柳瀬部長は少し驚いた表情で頷いた。
「どうしたんだい? 表情が……真剣だな」
真希は、背筋を伸ばし、静かに言葉を選ぶ。
「報告と、お願いがあります」
深呼吸。
そして、言葉にする。
「……私、部下の高槻悠真くんと――
交際しています」
•
◆ 【言葉の重みと、沈黙】
一瞬、空気が止まった。
柳瀬部長は眉をわずかに動かしただけで、
すぐには言葉を返さなかった。
真希は、両手を膝に置いて微動だにしない。
沈黙の中で、
覚悟だけが真希の背中を支えていた。
やがて、課長が小さく息を吐いた。
「……本気、なんだな?」
「はい。
恋愛感情として、真剣にお付き合いしています。
……決して、職場の秩序を乱すつもりはありません」
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◆ 【“お願い”と“信頼”】
真希は続ける。
「私から、他の社員に関係を公表するつもりはありません。
課長には、ご報告だけさせていただきました。
それ以外の方々には、どうか……内密にしていただけると幸いです」
「理由は?」
「彼の将来を守るためです。
私は年上で、彼はまだ入社1年目。
この関係が、“恋愛”ではなく“誤解”として扱われるリスクを……避けたい」
柳瀬部長はしばらく考え、
やがて、真っ直ぐ彼女の目を見て言った。
「……分かった。私の胸にだけ、しまっておく。
ただし、職場での距離感には最大限、配慮してくれ」
「はい。約束します」
そのとき、
真希の手が少しだけ震えているのを、
柳瀬部長は気づいていた。
だが、何も言わなかった。
•
◆ 【その夜――報告を聞いた悠真】
家に帰って、報告を受けた悠真は、
何も言わず、真希の手を握った。
「……怖くなかった?」
「怖かった。
でも、ずっと嘘をつき続けるほうが、
あなたを裏切ってる気がしてたの」
「俺、真希のこと……本当に誇りに思う」
真希は、
その言葉にほんの少しだけ涙を浮かべて、
静かに笑った。
•
◆ 【穏やかな夜、深いキス】
夜。
ベッドルームで、そっと抱き寄せられる。
「悠真……」
「俺、真希を誰にも取られたくない。
……だから、ちゃんと守るよ。
恋人として、男として」
言葉より、
何度も交わしたキスが、
心を震わせた。
深く、静かに、重なる身体。
ただ愛する人の温もりを確かめる夜。
誰にも知られない恋。
けれど、誰よりも強く結ばれた愛。
【社会人1年目編・完】
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