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第9話「それでも、あなたを選びたい――秘密の限界と決断の夜」


◆ 【静かな社内、ざわめく空気】


午後のオフィス。

印刷機の音、電話の着信、

いつも通りの風景の中で、

“何か”が確実に変わっていた。


「……高槻くんと春日井先輩、

やっぱり、付き合ってるって噂だよ」


誰かが囁いた。

囁きは風になり、風は波紋になって、

見えない圧力としてふたりに迫ってくる。


新田茜も、桐谷颯太も、

誰もが“確信に近い違和感”を感じ始めていた。


◆ 【桐谷、正面から迫る】


昼休み。

食堂を出たところで、

桐谷が悠真の腕を軽く引き止めた。


「なあ、高槻。……はっきり言っていい?」


「……何?」


「春日井先輩と……付き合ってんだろ?」


悠真は一瞬言葉を失った。

返事をすればすべてが終わる。

否定すれば、嘘になる。


「……なんでそう思うの?」


「お前ら、自然すぎんだよ。

他の誰とも違う距離感、あれ絶対おかしいって」


沈黙。


桐谷は、ふっとため息をついた。


「別に、責める気はない。

ただ、もし本当だったら――

……あの先輩、傷つけるなよ」


その言葉に、悠真は目を伏せた。


◆ 【真希サイド・職場の重圧】


一方、真希のもとにも、直属の上司がやってきた。


上司「春日井くん、少し話がある。……最近、部下との距離感について、

“見られ方”を意識してくれという声が出ていてね」


その言葉に、真希は全身が凍る。


(……もう、限界が近い)


やってきた“報い”だと、分かっていた。

でも、彼と過ごす時間を、

ひとときも後悔したことはなかった。


◆ 【夜――ふたりの家】


その夜、帰宅したふたりは、

何も言わずにソファに並んで座った。


食事は手つかず。

テレビもつけない。


ただ、静かに、ふたりの時間が流れていく。


真希がぽつりと呟く。


「……もう、隠しきれないかもしれない」


「……ああ、たぶん、バレてる」


「ねぇ、悠真。

もしこのままじゃ、私、会社にいられなくなるかもしれない」


「それでも……俺は、真希といたい」


彼は強く言った。

何の迷いもなく。


「俺、職場辞めてもいい。

どこか別の場所で働く。……だから、真希が傷つかない方を選んで」


真希の瞳に、じわっと涙が滲む。


「……なんで、あんたがそんな顔して、

私を守ろうとするのよ……逆でしょ。

私があなたの未来を守らなきゃいけないのに」


「一緒に守ろうよ。

“俺の人生”には、真希がいるって決めたから」


静かに、彼女の手を取る。

強く、確かに、震える指を絡める。


◆ 【そして、選ぶ】


「……私、明日、上司に話すわ」

「え?」


「もう隠すことに疲れた。

何より、自分の大切な人を、

“嘘”で守るのは違う気がする」


「……それ、本気で言ってる?」


「本気よ。

だって、私はあなたの“彼女”だから。

堂々と、そう言える未来を選びたい」


◆ 【深く、重ねる夜】


ふたりはそのまま、

ソファからベッドへ向かう。


言葉よりも、

唇と指先で、気持ちを伝え合う夜。


「……明日、私たちの関係がどう変わっても、

この気持ちだけは、変わらないから」


「真希……」


幾度となく重なり合ったはずなのに、

今夜のキスは、

まるで最初のように震えていて、

でも確かに“覚悟”を帯びていた。


長く、深く、

そして愛おしい、ふたりの決意の夜だった。


【つづく】


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