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第8話「疑惑の始まり――バレてはいけない、でも隠しきれない」


◆ 【朝のオフィス】


いつもの総務部フロア。

コピー機の音、タイピングの音、

静かな業務の中――


「……ねえ、春日井先輩と高槻くんって、仲良すぎない?」


ふと、そんな声が耳に届く。


それは、新田 茜のつぶやきだった。

目の前でコーヒーを注ぎながら、

何気なく桐谷 颯太に話しかけた一言。


桐谷はニヤリと笑って返す。


「思った! あのふたり、絶対なんかあるって。

春日井さん、高槻にだけやたら厳しくも優しくもない?」


「でしょ? なんか、空気違うっていうか……」


コーヒーの香りとともに、

ふたりの間に「気配」が立ち上っていた。


◆ 【真希サイド・デスクでの静かな緊張】


真希はモニターの前で、

淡々と資料の修正作業を続けていた。

が、背後の視線が気になる。


(……何か、感じてる?)


(いつも通りの“職場モード”で接してる。

なのに――)


ほんのわずかな間、

悠真と目が合った。


すぐに逸らす。

でも、その“一瞬の視線”を、誰かが見ていたかもしれない――


◆ 【昼休み・屋上にて】


「……バレた?」


悠真の一言に、真希は顔を曇らせる。


「まだ“確信”まではないと思う。

でも、空気が変わったのは間違いないわ」


悠真「……俺たち、隠してるつもりだったのにな」


「私たち、ちょっと“自然になりすぎた”のかもね。

お互いのこと、分かりすぎてるから」


そう。

何も言わなくても通じてしまう。

目を合わせれば気づいてしまう。

だからこそ“隠し通す”ということが、

逆に不自然になり始めていた。


◆ 【その日の午後・疑惑の言葉】


休憩室で――


新田「春日井先輩って、付き合ってる人いますか?」


唐突な質問だった。


真希は、手にしたマグカップを一瞬止めて、

それからいつもの笑顔を作った。


「いないわよ。そんな余裕、仕事してたらないもの」


「……そっか。なんか、最近雰囲気変わったから……」


笑ってごまかす。

でも心臓が、ひどく早く脈打っていた。


(“雰囲気”――やっぱり、伝わってたんだ)


◆ 【同時刻・桐谷サイド】


「なあ、高槻」

「ん?」


桐谷がスマホをいじりながら、何気なく聞く。


「お前って、春日井さんのことどう思ってんの?」


「……は?」


「いやさ、別にどうってことないけど、

ちょっと“男”として見てる空気、出してんじゃん? 先輩に」


悠真「出してないし、

仮にそうだとしても“先輩”だよ」


「マジで? 俺は好きだけどな、ああいう年上の人。

包容力あるし、絶対甘えさせてくれるし――

もし本当に付き合ってたら、俺、嫉妬するかも」


(心の声)

――やめろ、その冗談が一番怖いんだよ。


◆ 【夜――家でふたりきり】


帰宅後の静かな部屋。

食事を終えたあと、

ソファに並んで、肩を寄せ合う。


悠真「……俺たち、これからどうする?」


真希「もう、“一緒にいる”って決めたんでしょ?」


「でも、もしバレたら……」


真希は、少しだけ笑って言った。


「バレたら……その時は、堂々と“あなたの恋人”って言ってあげる」


悠真「……ほんと、強いな」


「あなたが隣にいてくれるからよ」


そのまま、ふたりは唇を重ねる。


今はまだ“秘密”だけど、

その愛情だけは、

何よりもまっすぐだった。


【つづく】


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