第2話「俺の“母親”は、彼女ひとりだけだ」
朝。
春日井真希は、眠そうに目をこする悠真の髪をくしゃっと撫でた。
「ほら、寝癖。学校行く前に直していきなさいって」
「だから、母親っぽいのやめろって……俺、彼氏なんだけど?」
「いいから、母親役やらせて。身寄りなしの高校生男子が誰にも面倒見てもらってなかったら、社会的にアウトだから」
悠真は、ふっとため息をつく。
「……確かに、そうだけどさ」
――悠真には、本当に両親がいない。
小学生の時、事故で両親を亡くし、親戚付き合いもない彼は、
ほとんど“社会の孤児”だった。
施設に入れられる寸前で、偶然、真希と出会った。
たまたまその日、役所で困っていた彼を助けたのが、
まだ当時20代後半だった真希。
真希「しょうがないわね……とりあえずご飯食べに行こうか」
悠真「あんた誰だよ……」
あの日から、ふたりの奇妙な生活が始まった。
•
学校。
その日もまた――
「悠真のママ、マジで若くね? モデルとか女優とかやってたんじゃね?」
「ほんとだよな。俺の母ちゃん、もう50超えてんのに……」
クラスメイトたちの無邪気な言葉に、悠真は引きつった笑顔を浮かべた。
「……まあ、うちの“母親”は、ちょっと特殊だからさ……」
言えない。
本当は母親じゃなくて、彼女だなんて。
バレたら確実に人生詰む。
•
放課後。
帰宅して玄関を開けると、
「おかえりー、今日はカレーよ!」とエプロン姿の真希が手を振った。
その瞬間、悠真はぽつりとつぶやく。
「……俺、昔、家に帰って“おかえり”って言われたことなかったから。
……だから今、ちょっと幸せなんだよな」
真希は一瞬驚いて、少しだけ優しく微笑んだ。
「……そっか。でもそれは“母親”だからじゃなくて、
私が“彼女”だからよ」
悠真「……そのセリフ、外で言ったら通報されるからやめて」
真希「はいはい、家の中限定ってことで」
ふたりは笑い合い、
でも心の奥では、お互いに「本当にこれでいいのか」と悩んでいた。
彼には家族はいない。
だからこそ、彼女だけは――失いたくなかった。
•
その夜。
食後のソファで、またさりげなく寄り添いながら、悠真が言った。
「俺さ。母親でも恋人でもなくていいから――
“帰ってきていい場所”でいてほしい」
真希は少しだけ涙ぐんで、そっと頭を撫でた。
「……じゃあ、私は“春日井真希”でいさせてよ。
あんたの母でも彼女でもない、“ただの私”で」
そう言って、小さくキスを落とす。
悠真「……甘すぎ。虫歯になるわ」
真希「じゃあ、次はデザートにしよっか。プリン残ってたよ?」
悠真「それ俺が食べようと思ってたのに!」
やっぱりふたりの日常は、
甘くてちょっと苦くて、でも笑えるものだった。
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