第2話「初出社――社会の顔と、恋人の顔」
◆ 【初出社の朝】
「……行ってきます」
スーツに身を包んだ悠真が、
玄関で照れくさそうに立っていた。
ネクタイが、少し曲がってる。
「こっち向いて」
真希が微笑んで、静かに直してやる。
母親でもなく、保護者でもなく、
“彼女”として。
「うん、これで完璧」
「ありがと、……じゃ、行ってくる」
そう言って扉を開けるその背中が、
少しだけ、
“子供”から“男”に変わった気がした。
(頑張ってこい。
もう私は、あなたの“母親”じゃなくて、
一緒に歩く“恋人”なんだから)
•
◆ 【社会の洗礼】
初めての職場――ルクシア株式会社 総務部。
偶然にも、真希が働く部署だった。
とはいえ、ふたりはあくまで「上司と後輩」。
職場では“他人”として接する約束だった。
朝のミーティング。
先輩社員「じゃ、新人は自己紹介ね。ほら、悠真くん」
悠真「は、はいっ! 高槻悠真です! 今日から総務部でお世話になります!
……趣味は、えっと、料理……で、す……」
――噛んだ。
緊張で頭が真っ白。
笑い声が広がる中、
真希だけが静かに微笑んでいた。
「……よろしくお願いしますね、“高槻くん”」
その声が、
どこまでも優しくて、でも他人行儀で――
悠真の胸をチクっと刺した。
•
◆ 【昼休み・ふたりだけの時間】
「……緊張した……」
昼休み、ビルの屋上。
やっとふたりきりになれた。
悠真はベンチに倒れ込み、真希の膝枕に甘える。
「……社会人って、めっちゃキツいな……」
真希は優しく髪を撫でながら、
でも会社では絶対見せない声で言った。
「でも頑張ったわよ。初日なんて、そんなもんよ」
悠真「……甘やかしてくれるの、ここだけだな」
真希「当然でしょ。ここじゃ私は、
“高槻悠真の彼女”なんだから」
そう言って、
誰にも見られない屋上で、
そっと唇を重ねる。
甘くて、切なくて、
でも、世界でいちばん幸せなキスだった。
•
◆ 【夜・帰宅後】
家に帰ると、
ふたりはまた「恋人同士」に戻る。
悠真「……真希、今日、俺、ちゃんと社会人やれてた?」
真希「やれてたよ。“春日井先輩”から見ても、
すごく立派だった」
悠真「……それ、会社で言われると恥ずかしいんだけど」
真希はくすっと笑って、
ソファの上で彼を引き寄せた。
「社会では“他人”、
でも家では“恋人”」
「――それで、いいんだよね?」
悠真は小さくうなずいて、
静かにキスを落とした。
•
◆ 【これから】
社会の顔と、恋人の顔。
ふたつの顔を使い分けながら、
ふたりはまた、新しい毎日を積み重ねていく。
――誰にも言えない秘密だけど、
誰よりも大切な、ふたりだけの時間。
「おやすみ、悠真」
「おやすみ、真希」
静かな夜が、ふたりを包んだ。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。




