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第9話 血魔術を教えてもらった

 シドがソウの首の魔晶石をとっくりと眺めた。




「しかし、黒か……」




 何かを悩んでいる様子だ。




「黒は、良くないのか?」


「いいや、悪くない。直感で答えよ。火と水なら、どちらだ」


「火、だろうか」


「よし、良いだろう」




 何が良いのかよくわからない。




「持っていたナイフを出してみろ」


「ナイフ?」


「短い剣を持っていたであろう。依頼主に届けるとかいう」


「あぁ、薬研藤四郎か。俺の国では短刀とか小刀と呼ぶんだ」




 手渡すと、シドが興味深そうに眺めた。




「随分と立派な名がついておるな。ナイフより長いが、中剣より短い。扱いが限られそうだな」


「薬研藤四郎は懐刀、主を守るための刀だ。時に自死する場合も使うが、この刀は薬研を貫いても主の腹は貫かなんだ」


「薬研とは、何だ」


「薬を作る時に、薬草を潰す道具だ。石でできた深くて厚い皿のような形をしている」


「なるほど。切れ味は良いのに主を殺さぬ剣か。ソウのようだな」




 さらりと流れたシドの言葉に、ドキリと胸が鳴った。


 言葉に詰まったソウを、シドが眺める。




「……ありがとう」




 少し照れた心持でお礼を言った。


 シドがソウの顔を下から覗き込んだ。




「素直に照れるソウの顔は、悪くない」




 ニヤリと笑まれて、照れが増した。


 薬研藤四郎を引き抜いて、シドがソウに手渡した。




「この刀身で腕を切ってみよ。ほんの少し、血が出る程度で良いぞ。もっとも、それ以上は切れぬだろうが」


「? わかった」




 シドの言葉を不思議に思いながら、ソウは刀の刃を腕に滑らせた。


 一筋の傷から血が流れ出す。




「その血を動かせ」


「無理だ」




 流れた血を動かすなど、出来るはずがない。


 シドが眉間に皺を寄せた。




「無理と決めつけるな。己の中の魔力を血に流せ。さすれば動く」


「魔力を、血に流す?」




 シドの顔が険しくなった。




「己の中に、魔力を感じるであろう。それを血に巡らせよ。自分の体の中を魔力が巡る様を想像してみよ」


「想像する、か」




 言われた通り、自分の中に感じるシドの魔力を全身に流すように想像する。


 胸の鱗が熱を発して、体が熱くなった。


 流れ出る血が黒く染まった。




(体の一部、指のような感覚がする。今なら、動かせる)




 ソウは指を折るような想像を膨らませた。


 黒く染まった血が浮き上がって、指のようにクネリと曲がった。




「動いた」




 ちょっとビックリして、思わず呟いた。




「中々に筋が良い。自在に動かしてみよ」




 コツを掴むと案外、簡単に出来た。


 くぃ、と擡げた血を左右に自在に振る。


 長くのばせば鞭のように扱える。




「この血はどこを切っても同じように動くのか? 腕より掌の方が扱い易そうだ」


「使い方を心得たか? なれは、掌を切ってみよ。その前に、腕の血を収めよ」


「収める?」


「体の中に仕舞うようイメージせよ」


「イメージ?」


「想像だ」




 ソウは目を閉じて血を体の中に戻し入れた。


 目を開くと、腕の傷が消えて、血が戻っていた。




「魔術はイメージが大事だ。想像できる範囲なら、総て現実になる」




 シドの言葉が魔法に聴こえた。


 これほど摩訶不思議な妖術を自分が扱う日が来ようとは思わなかった。


 掌を切って、血を流す。


 血がすぐに黒くなり、長く伸びて鞭のように動いた。




「ソウは器用だな。もう次のステップに進めるか」


「ステップ?」


「段階だ」




 シドが人差し指を上にあげた。


 指先から雪のような魔力が舞う。


 何回見ても、綺麗だと思った。




「吾の魔術も血魔術、この血には毒が含まれる」


「毒、か。美しいモノには、毒があるのだな」




 美しくて触れたくなるような見目のモノには大抵、毒がある。


 だから、近づかない。遠くから眺めるのが良い。


 そう考えると、美しい白竜は存在自体が毒なのかもしれないと、ぼんやり思った。




「当然、吾と魔力を共有するソウの血魔術も毒だ。どんな毒にするかはソウのイメージで変えられる」


「例えば……、触れると皮膚が爛れるような毒などだろうか」


「掌を切って、血を垂らしてみよ」




 言われた通り、刀の切っ先で皮膚を突き、卓の上に血を垂らす。


 木造りの卓がジュワリと音を立てて溶けた。




「酸のような毒か。悪くないな。小さな血の滴りを飛ばして攻撃すれば、銃のようになり、強いぞ」


「銃……。上総守様が戦で使ったと聞く。見たことはない」




 ソウが薬研藤四郎を盗み出した安土城の城主、織田上総守信長は、南蛮好きで有名だ。


 美術品から武器や衣類まで、南蛮から取り寄せたモノを数多く所有している。


 実は以前に里が織田家の依頼を受けたことがある。


 故に今回の盗みは楽だった。




「見たことがないか。なれば……」




 シドの指先から流れた白い魔力が何かの形になった。




「これが銃だ。引き金を引くと撃てる」




 作った銃を手にして、引き金に指を掛ける。


 その指を引いた瞬間、小さな爆発音がしてテーブルに穴が開いた。


 


「人を殺す程度なら十分な殺傷力だ。魔獣相手では一発では殺せんがな」




 ソウを振り返ったシドが、吹き出した。




「驚いたか? 顔が引き攣っておるぞ」


「驚いた。音も小さいし匂いがしない。銃は撃つと大きな音がして、硝石や硫黄の匂いがすると聞いた」




 だから、草は銃を使わない。


 自分から痕跡を残すような愚策になる。




「かなり古い銃だな。この国では硝煙が出ない無煙火薬は珍しくないし、魔法が使えぬ人間でも作れる。魔術師なら魔術が仕込まれた魔法弾が便利で一般的だ。出力が魔力だから発砲音もない」




 只々感心して、シドの話を聞いた。


 魔法や魔術が盛んというだけでなく、この世界はソウがいた日ノ本より技術が相当に進んでいるらしい。




「己の手を銃だと思って、血の弾を飛ばしてみよ」




 言われた通り、ソウはテーブルに向かい、手を翳した。


 小さな弾をイメージして、外に強く飛ばす。


 飛んだ血がテーブルに穴を空けていた。




「ふむ、毒の弾になっておる。貫くだけでなく毒の効果もあるな」




 シドが満足そうにテーブルの穴を眺めた。




「同時に何発も撃ったり、出来るのか?」


「想像できる範囲なら可能だ。しかし、使い過ぎるな。血は無限ではない。人の身では、すぐに血が足りなくなる」


「それは、そうだな。気を付けよう」




 シドは竜だから、体はきっとソウより大きいのだろう。


 血が足りなくなれば、頭も回らないし動けなくなる。


 簡単に使っていい術ではないと感じた。

血魔術は作者の自作他作品『仄暗い灯が迷子の二人を包むまで』(現代ファンタジーBL)に登場する術で、

仄暗の中では鬼の末裔である化野護と伊吹保輔が得意とする術です。

リンデル王国は別世界なので、魔族が使う術程度の認識で使っています。

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