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第8話 魔晶石を貰った

 宿に戻ると、部屋の準備ができていた。


 こじんまりとした三階建ての宿の三階には、広い部屋が一部屋だけらしい。


 二人で過ごすには広すぎる部屋だ。


 部屋の中を眺めて、シドが不服そうな顔をした。




「何故、ベッドが一つしかない」




 広い部屋に、やけに大きなベッドが一つ、置いてある。


 大勢の家族でも全員で寝られそうなサイズ感だ。




「大きいから、良いんじゃないか」




 シドが驚いた顔でソウを振り返った。




「一緒に寝た方が不測の事態にも備えられるし、すぐに守れるから、俺は良いぞ」




 納得の顔で、シドが頷いた。




「そうだったな。ソウの中には色の発想がないのだったな。なれば、良いか」




 シドの呟きで、初めてそこに思い至った。




「すまない。考えていなかった。なるべく離れて眠ろう」


「今更、照れるな。こっちが恥ずかしくなる」




 シドがソウの腕を引いた。


 体が前に傾く。




「それより今は、魔晶石だ。タイミングよく、良き買い物ができたわ」




 手に持った魔晶石を、ソウの口元に押し付けた。




「息を吐いて、強く吸ってみよ」




 言われた通りに呼吸する。


 吸い込んだら、強い生気が体の中に入り込んだ。




(森の中で蔦から流れ込んできた生気と同じだ。シドの魔力か。濃くて……酔いそうだ)




 体が熱くて、胸が焼ける。


 口元から魔晶石が離れたら、顔が火照った。


 思わず、シドの肩に寄りかかった。




「流石に強いか。先に吾から奪った魔力が体に馴染みきっていないのだろうな」


「どうすれば、馴染む? 熱くて、くらくらする」




 ふらつくソウの体を、シドが支えた。




「ソウなら時期に馴染むだろうが、早めに魔力を増やしたい。その為の魔晶石だ」




 シドの手が首に伸びた。


 ソウの首に首飾りを巻いていく。


 シドの指が触れる肌がやけに敏感で、触れるたび熱さが増す。




「んっ……」




 感じた声を思わず飲み込んだ。




「変な声を出すな」


「すまない。あまり指で触れないで付けてくれ。肌が熱くて、感覚が変だ」


「無理を言うな。魔晶石が収まれば、火照りも収まる。耐えていろ……」




 ソウの顔を覗き込んだシドが、言葉を止めた。




「その顔を演技でできるなら、色の仕事もこなせような。吾に翻弄されて抗えぬソウは、可愛いぞ」




 シドが悪い顔で笑った。


 弱い指が首を掠める。


 くすぐったくて、肌が疼く。


 シドの腕を握ったら、余計に楽しそうな顔をされた。




「ほら、付いたぞ。顔を上げろ」




 シドの肩に預けていた顔を上げる。


 紐を編んで作られている首飾りは首にぴたりと吸い付いて、まるで首輪のようだ。




「首に巻き付くチョーカーがお前を繋ぐ首輪のようだな。子飼いの従者のようで良い」




 シドの指が首飾りを撫でる。


 出そうになる声を飲み込んだ。




「こんなものなくても、俺はシドを一人にしないぞ」




 触れる指を、思わず掴んだ。


 シドが動きを止めた。




「草は依頼主を命懸けで守るのだろう。わかっている」




 淡々と放った声が、どこか寂しそうに聞こえた。




「それより、鏡を見てみろ」




 促されて姿身を確認する。


 緑色だった魔晶石が雪のような白に変わっていた。




「それが本来の色だ」


「綺麗な白だ……」




 魔力を帯びた白は柔らかく、冷たい。


 魔晶石が触れている部分が気持ちいい。




「その魔晶石は魔力の増幅装置だ。基本は増やすが、体に魔力が馴染むよう調節もする」




 シドの人差し指が魔晶石に触れた。




「今から吾が魔晶石に魔力を流す。お前の魔力と混ざって、また色が変わる。色が定まれば、火照りも収まろう」




 さっきからずっと顔が火照って頭がフワフワする。


 ぼんやりと頷くソウを、シドが満足そうに眺めた。




「もう少し、吾の魔力に翻弄されるソウで遊びたいがな。主が誰か、よくよく教えてやろうか」




 愉快そうに笑むシドに腕を伸ばす。


 細い体を抱き寄せた。




「こんな風にしたら、シドは安心するのか?」


「は?」


「首輪なんかなくても、シドは主だ。俺はシドを一人にしない。勝手にどこかに行ったりしない。どうしたら、信じられる?」


「お前の依頼に対する姿勢を疑ってはいないが?」


「だけどシドは、ずっと寂しそうだ」




 ソウに抱き締められたシドが黙ったまま動かなくなった。




「……そうではない」




 呟いて、シドがソウの体を引き離した。




「お前の訳の分からぬ思考に振り回されっぱなしが癪なだけだ。今度はお前が吾に振り回されろ。吾の魔力に酔って、わけわからなくなっていろ」




 目の前のシドが、とても怒っている。


 どうして怒られているのか、よくわからない。


 わからないから、言われた通りにしようと思った。




「わかった。シドの魔力は強いが、嫌じゃない。このままでもいいよ」




 シドの顔がもっと怒って、ソウの胸をバンバン叩いた。




「良いわけがなかろう。ああ、もういい。さっさと済ますぞ」




 シドがソウの胸倉をつかんで引き寄せた。


 首の魔晶石に口付けて、魔力を流す。


 一瞬、視界がダブって揺れた。




「ぁ……」




 足から力が抜けてその場に崩れ落ちた。


 倒れそうな上半身を、シドの手が支えた。




「はっ……はぁ……。何が、どう、なって……」




 熱い体がもっと熱くなって、急激に冷えた。


 血の気が引いて、頭がくらくらする。




「なんだ、もう馴染んだのか。指より多い量の魔力を流したのに、詰まらん」




 つまらないと言いながら、どこか安堵した声に聴こえる。




「見えるか? 色が変わった。これがソウの魔力の色だ」


「俺の色は、黒いのか」




 鏡に映る魔晶石は、黒曜石のように黒かった。




「何だ、不服か?」


「いや、そうではないが。シドの鱗は白くて綺麗だったのに、勿体ないと思った」




 シドがソウの頭をぺシっと叩いた。




「胸に埋め込んだ吾の鱗も同じように色を変えよう。互いの魔力が交われば互いの色が深まる。ソウは黒で、吾は白だ」




 シドの指先から白い魔力が迸る。


 雪が降ったように舞った魔力は綺麗だと思った。




「そうか。シドは白いんだな。良かった」




 ホッとしたら顔が緩んだ。


 ソウの顔を眺めるシドが、顔を逸らした。




「吾がお前如きに飲まれるか。落ち着いたのなら血魔術の練習をするぞ」




 シドの顔が照れているように見える。


 不思議に思いながら、ソウは立ち上がった。

ソウの笑顔に弱いシド。

20歳の人間に翻弄されまくる3000歳の竜。

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