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第7話 炭酸水、初めて飲んだ

 入った店は、それなりに人が多く繁盛していた。


 飯を食いながら酒を飲む人の姿を見て、どこの国も変わらないのだと思った。


 だが、出てきた食事は、ソウが知っている料理とは違った。




「肉の腸詰か? 香草と一緒に炙るのか。美味いな」




 刺激が強い味は、山椒とも違う。


 黒い粒は胡椒というやつだろうか。


 高級な調味料だった気がするが、この世界では一般の店でも出せる代物らしい。




「ソーセージが気に入ったか。パンに挟んで喰っても上手いぞ」




 シドが手本を見せてくれたので、やってみた。


 思った以上に美味くて感動した。




「酒は飲まぬのか? というか、飲めるのか?」


「飲めるし酔わないが、味覚が麻痺するから好まない」


「ならば別の飲み物でも頼め」




 メニューを見せられて手に取る。


 知らない文字のはずなのに、読めるし理解できる。




(これはシドの魔術という訳ではなさそうだ。俺がこの世界に馴染むように、何かの力が働いているように感じる)




 直感でしかないが、この世界に呼ばれた自分にしかない力なんだろうと感じた。




「木苺のソーダ? に、興味がある」




 そう言ったら、シドがすぐに注文してくれた。




「甘いものが好きなのか?」


「甘味は贅沢だから、時々しか食べないが、好きだ。思考の巡りが良くなるし、疲れも取れる」




 ふむふむと真面目に、シドが聞いている。


 それほど大事な話をしている訳でもないので、不思議に思う。


 


「ソウは甘いものが好き。覚えておこう」




 温泉の話をした時のような嬉しそうな顔で、シドが頷いた。


 


「木苺のソーダです。どうぞ」




 気立ての良さそうな娘が飲み物を運んできた。




「木苺は摘んで少し置いてあるから、熟して甘いよ。木で熟れるより酸味が残って美味しいんだ」




 手渡しながら笑顔で説明してくれた。




「楽しみだ。いただきます」




 一口、含んだら、口の中でシュワシュワした。


 舌の上がパチパチする。


 大変、驚いた。




「どう? 美味しいでしょ?」


「パチパチして、シュワシュワして、味がよくわからない」




 ソウの顔を覗き込んだ娘とシドが、同時に吹き出した。




「お兄さん、可愛いね。ソーダ、初めて飲むの?」




 初めてなので素直に頷いた。


 酒とは違う意味で味覚が麻痺する飲み物だ。




「ちょっとずつ飲んだら、味がわかるよ」




 娘に言われた通り、ちびちび飲み進める。


 やっと木苺の風味と味を感じられた。




「甘酸っぱくて、美味い。シュワシュワも馴れると楽しい。これは、良い飲み物だ」


「喜んでもらえて、良かった。気に入ったらまた注文してね」




 頷くと、娘が笑顔で去って行った。


 大きなグラスを両手で持って、ソウはまた木苺のソーダを飲み始めた。


 ソウの姿を、シドが満足そうに眺めて笑っている。




「その顔は、初めてだな」




 シドが嬉しそうだ。


 ソウは首を傾げた。




「感動すると、そんな顔をするのだな。嬉しそうだし、楽しそうだ」


「俺は、そんな顔をしていたか?」


「していた。ソウを喜ばせるには、甘味を与えるのがいいらしい」


「俺が喜ぶと、シドは楽しいのか?」


「あぁ、楽しい。表情のないソウの顔が変わるのが、面白い」




 シドがとても楽しそうだ。


 自分の表情について、あまり考えたことがなかったから、これも発見だ。


 シドも楽しそうだし、良かったと思った。




「さて、腹も膨れたし宿に戻るか。ソウに覚えさせたい術もあるからな」


「血魔術とかいうものか?」


「そうだ。今の魔力量でも多少は様になろう。良い撒餌になる」 


「撒餌?」




 卓に銀貨を置くと、シドが立ち上がった。


 木苺のソーダを飲み干して、ソウも立ち上がった。


 ソウを振り返ったシドが吹き出した。




「一気に飲んだら、舌が痺れた。変な感じだ」


「そうだろうな。良い顔だ」




 楽しそうなシドを眺めて、自分はどんな顔をしているのだろうと不思議に思った。


 飯屋を出て、宿までの道を歩く。


 露店の前で立ち止まったシドが、何かを熱心に眺めていた。




「何を見ているんだ?」




 店を覗き込む。


 宝飾品を売る店のようだ。


 シドが緑色の宝石が付いた首飾りを手に取った。




「店主、これはどこで仕入れた?」


「お客様はお目が高くていらっしゃる。一目でそれを見抜かれますか」




 店主の男が怪しく笑んだ。


 不思議な雰囲気を纏う男だ。敵愾はないのに、強い圧を感じる。




「西の果ての果て、凍雪の山に自生する魔晶石です。竜の鱗に魔力が宿った石と言われ、持ち主により色を変える。その名を七色の鱗と呼ばれる貴重な一品です」




 つまりは、目の前にいるシドの体の一部ということなんだろう。


 説明は眉唾だ。


 こういう話をする露店の商人を信用する気になれない。




「お前が自ら取りに赴いたか?」


「まさか、不可能でございましょう。西の魔王を討伐した勇者様が持ち帰ったとか。それを買い取った貴族様が持て余して手放した品にございます。転々として、我が手にやってまいりました」




 何とも話が上手い商人だ。




「なるほど」




 シドの指が、魔晶石を撫でた。


 緑だった石が一瞬、白くなった。




(今、魔力が浮き上がった。石の中の魔力が動き出した)




 緑色の魔晶石の中に、確かに白い魔力が動いている。


 ソウは息を飲んだ。どうやら本物らしい。


 店主がニタリと笑んだ。




「お客様は、選ばれた御様子。半値でお渡しいたしましょう。私には過ぎた代物故、引き取っていただけましたら有難く存じます」


「選ばれたのは、吾か?」


「いいえ、後ろのお連れ様でしょう」




 店主の目がソウに向く。




「俺か? 触れてもいないのに?」


「触れる必要などないでしょう。貴方は既に竜に魅入られていらっしゃる」




 店主の言葉に、ソウは息を飲んだ。


 シドが愉快そうに笑った。




「こういう場所には時に本物がいるから、面白い。この街には良き目を持つ者が多い」




 シドが首飾りを握り締めた。


 緑色の魔晶石が白く光った。




「気に入った、定価で買い取ろう。お前、名は何という」


「魔道具商人、アルハと申します。リンデルのみならず大陸を旅してまわる商人故、またお会いすることもありましょう」




 シドからは、魔晶石と同じ魔力が滲んでいる。


 臆することなく、アルハが笑む。




(このアルハとかいう男、武闘派ではないが不思議な気配だ。魔術使いだろうか)




 魔晶石が付いた首飾りを定価で買い取りったシドが上機嫌に歩き出した。


 不思議な雰囲気に後ろ髪を引かれながら、ソウは後ろを付いて歩いた。

魔道具商人アルハ

彼の正体は後々にならないとわからないけど

覚えておいてもらうと「懐かしいなぁ」と思ってもらえると思います。

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