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第3話 血約を交わした

 ソウの顔を両手で包みながら、シドがちょっとだけ悪い顔をした。




「では、ソウ。早速、最初の仕事だ。お前の魔力を我に流し込め」


「魔力を流す? 俺に魔力があるのか?」




 シドが、ソウの胸をトンとついた。




「言ったであろう。吾の魔力はソウに奪われた。だから、吾に戻せ。戻したところで総ては戻らぬ。竜の鱗がソウの体にある限りな」


「全部、戻してもいいぞ。俺は魔力を必要だと思わないが、シドはないと困るだろう」


「戻せるものなら戻しておるわ。出来ぬから一部だけでも返せというておる」


「戻せないのか」




 無意識とはいえ、申し訳なかったなと思う。




「今の吾の体は、只の依代に過ぎぬ。人の身故、時期に朽ちる。次を探すのも面倒だ。ソウの魔力で維持せよ」


「俺が魔力を流せば、維持できるのか?」




 シドが、ソウの胸の鱗を撫でた。


 鱗から白い魔力がふわりと舞った。




「ソウが吾に魔力を流せば、竜の鱗を介して魔力が繋がる。吾の体も朽ちぬし、ソウも魔術を使える」


「魔術? 妖術のようなものか?」


「詳しくは後で手解きしてやるが、血魔術だ。便利だぞ」




 忍術なら一通り使えるが、妖術は使った試しがない。


 使えれば、便利そうだ。




「わかった。どうすればいい?」




 シドが親指のはらを噛んだ。 


 血が流れる指をソウに向けた。




「同じようにして、指のハラを合わせよ」




 言われた通り、指のハラを噛んで血を流す。


 指を合わせると、じゅっと焼けるような音がして、痛みが走った。




「これは魔族の血の契約、血約だ。条件は対等でなければ成立せん。吾に心臓が戻るまで、吾らは竜の鱗を介して魔力を繋げる。双方が同じ魔力を共有する、良いな」


「ああ、構わない」


「では、契約成立だ」




 合わせた指から黒い煙が立ち上る。


 流れた血が焼き消えた。


 指を離すと、ハラに紋様が刻まれていた。




「これでシドの体は朽ちないのか?」


「ああ、吾の体は朽ちぬよ」




 問い掛けると、シドがクックと笑いを抑えながら返事した。




「こうも簡単に血約を交わすとは、めでたい頭をしておるな、転移者! これで貴様は吾の従者だ。魔力を奪われ慌てはしたが、お前が深く考えぬ阿呆で良かった。お前には吾の魔力源になってもらおう。心臓を取り戻すため、吾の一部となれ! 存分に使い潰してくれよう!」




 シドが悪い顔で愉快そうに笑う。




「あぁ、それで良いよ」




 さっくりと答える。 


 シドが笑いを収めて顔を顰めた。




「初めから、そういう依頼だ。シドの心臓を取り戻すまでは付き合う。魔力も、本当は全部戻したいが、無理なんだろう? それに、俺が魔力を使えた方がシドを守れるなら、その血魔術というのも、覚えよう」




 シドが不可解な顔でソウを眺めた。




「お前、本当に馬鹿なのか? 自分の立場が分かっておるのか? お前はもう吾から離れられぬ。吾と魔力が繋がっているとは、吾が死ねば貴様も死ぬという意味だぞ」


「それは違う」




 ソウは、鋭い目でぴしゃりと言い放った。




「シドは依頼者だ。依頼の間、依頼者は主だ。草は主を死なせない。俺が命を張ってシドを守る。俺が死んでも、シドを死なせる選択肢だけはない」


「いや、だから。お前が死ねば同時に吾も死ぬというておる……」


「なら、俺も死なないように気を付けよう」




 シドが呆気に取られている。


 何故だろうかと不思議に思った。




「お前……、吾に騙されて血約を結ばされたのだぞ。わかっておるのか? 吾はお前を騙したのだ」


「別に、騙されていないぞ」




 シドが盛大に息を吐いて頭を振った。




「血約は約束が果たされるまで消えぬ印だ。それを説明せずに結んだのだ。充分騙されていよう。もっと腹を立てるべきだろう」


「最初の依頼と内容は同じだ。何か問題があるのか?」




 口約束か血判を交わすかの違い程度だ。


 草にとってはどちらも同じ重さの依頼だし、同じ熱量で仕事を全うする。


 特に問題はない。


 シドが何に苛立っているのかわからない。


 首を傾げたら、シドに疲れた顔をされた。




「お前が只の馬鹿なのか、底抜けのお人好しなのか、理解に苦しむ」




 そう言われても、ソウとしてもシドが何に悩んでいるのか、理解に苦しむ。




「お前のいう草というのは、どのようなジョブだ? この世界には同じ職業はないと思うが」




 そう聞かれても、この世界の職業を知らないから答えようがない。




「そもそも、忠誠を誓う関係もない相手を主と定め命懸けで守るなど、常軌を逸した思考だと思うが」




 ソウは首を捻った。


 今まで疑問を持ったことがなかったので、考えもしなかった。




「依頼者の依頼を全うする。見合う報酬を貰う。依頼を全うするために、様々な体術や知識を習得し、活かす。それが草だ。主を一人に定めぬのは、多くの人間を救うため。それが我が里の矜持だと、長が話していた」




 シドの疑問の答えになっているかは、わからないが。


 今、ソウが答えられるのは、これくらいだ。




「それで、ソウは、この世界の主を吾と決めたのか」




 ソウは素直に頷いた。




「最初に出会った話せる生き物だったし、竜の鱗を埋め込まれたから」


「それは、そうだろうな。選択肢はなかったか」


「そうでもない」




 ソウの返事に、今度はシドが首を傾げた。




「草は、どんな依頼でも受けるわけではない。気に入らない依頼は突っぱねる。それも草の自由さであり、矜持だ」


「では何故、吾を突っぱねなかった」




 改めて、よく考えてみた。




「知らぬ世界を一人で生きるのは、難儀だ。衣食住と知識をくれると、シドは言った。それに……シドに、興味が湧いた、から?」




 首を傾げるソウを、シドが不服そうに眺めた。




「何故、疑問形なのだ」


「よくわからないが、嫌ではなかった」




 眉間に皺を寄せて、シドが自分の頭をコンコン叩いた。


 


「全く調子が狂う。ソウのような人間は初めてだ」




 歩み寄ったシドが、ソウの顎を掴み上げて目を合わせた。




「まぁいい。面白い玩具を手に入れたと思えば良い余興よ。道のりは長いのだ。道中、ソウという人間を観察して遊ぶとしよう」




 シドが何を悩んで何を不思議がっているのか、わからないが。


 さっきより楽しそうに笑っているから、良いことにした。

血の契約、血約は作者の別作品『モブに転生した原作者は世界を救いたいから恋愛している場合じゃない』(異世界恋愛)にも登場する設定です。違う国の話だけど、魔族が使う魔術の一つとして採用。

他にも自作他作品とのコラボをたくさんしているので、その都度、絡めてご紹介していきます。


貴様について。シドは現代と同じで蔑む意味で使っていますが、戦国時代、「貴様」は敬称でした。あなた様的な。戦国時代出身のソウが聞くと「罵倒しながら敬われている?」みたいに聞こえるんだろうなと思う。そう思うと貴様という表現が使いづらい。ソウがシドの言葉を罵倒や蔑みと受け取るかは謎ですが。リンデルの言語は現代日本と大体同じです。

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