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Dark Bloody Fairytail ー戦国忍者、異世界転移して勇者に負けた魔王を護衛するー  作者: 霞花怜(Ray)


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第21話 エルフ族の事情

 森に入ってすぐの草むらに、魔獣が倒れていた。

 ソウが投げたクナイは、魔獣の胸に命中していた。

 この魔獣もトガルに寄生されている。

 クナイはトガルに刺さり、血魔術の炎が焼き溶かした。

 改めて、森の中の気配を追いかけた。


(俺が見付けた気配は、魔獣じゃない。身代わりにされたか)


 魔獣を盾に難を逃れた人型の生き物がいる。

 強い殺気を感じて、ソウはシドを背に庇った。

 飛んできた矢を弾き斬る。


「ファフニール様から離れろ!」


 矢を飛ばしたのとは別の方向から、声がした。

 片目で気配を探る。

 やけに耳の長い女が闇から姿を現した。

 構えた弓矢をソウに向ける。


「我等の王たる白竜ファフニール様を瀕死に追いやったのは、貴様か」


 憎しみを顕わにして、女がソウを睨みつけた。


「あれが、エルフか?」


 女から感じる気配はアルハに似て、精霊のようだ。


「そうだ。何か、勘違いしているようだな」


 シドがソウの前に出た。


「この者は吾の護衛ぞ。矢を降ろせ」

「しかし!」

「いいから、降ろせ。吾の命が聞けぬか」


 渋々と、女が弓を降ろす。

 木枝の上からもう一人、女が姿を現した。


「ちょうど良かった。村の様子を観に行くつもりだった。エルフの村はどうなっておる。皆、健在か?」


 二人のエルフが、顔を曇らせた。


「ファフニール様が勇者に討たれて以降、エルフの村にはエフトラの使徒が居座って」

「男を皆殺しにして、女だけを囲って、子を産ませています」


 二人が悔しそうに顔を歪めた。


「申し訳ございません、ファフニール様。我等が守りを固めていれば、村もファフニール様も、このような事態にはっ」

「過ぎ去った事態を気に病んでも仕方あるまい。村に居座っているエフトラの使徒の名は、わかるか?」

「四賢者の一人と名乗る、ババルという男です」

「エルフを喰い物にする最低な男です」


 名を聞いたシドが、考える仕草をした。


「四賢者……。エフトラの使徒の中枢、その一角か」

「知っているのか?」

「詳しくは、知らん。乗っ取りに来た侵略者リーダーの御付程度の知識しかない」


 一瞬、エルフの気が尖った。

 ソウはシドから目の前に視線を戻した。


「やはり確かめに行くしかなさそうだ。サリオナはどうしておる?」

「いけません、ファフニール様。今の村は危険です。近付かれては、なりません!」

「我々が援護して、森の外に案内します。その怪しい男を捨てて、我々といらしてください」


 駆け寄ろうとするエルフに、シドが息を吐いた。


「これ以上は、聞ける話もないか。ソウ、やれ」


 発せられた命と同時に、ソウはクナイを投げつけた。

 血魔術の炎を纏ったクナイが、二人のエルフの首に刺さった。


「ぐっ……な、にを」


 膝を折ったエルフが、ソウを睨み据える。

 首に根を張ったトガルが、黒い炎に染まった。


「騙し討ちにしたいなら、もっと巧く殺気を隠すことだ」

「お前がファフニール様の味方とは限らない! お前を殺すつもりで!」


 焼ける首から全身に炎が回る。

 声を枯らして苦々しく、エルフが叫ぶ。


「シドへ向いたお前たち二人の殺気は、強すぎる。それでは、草でなくとも気が付くぞ」


 まるで獣の如くに向いた殺気は最初から、シドだけを睨んでいた。

 シドがソウの前に出て、エルフを見下した。

 黒い炎に巻かれたエルフが縋る手を伸ばした。


「我等は長らく白竜様を御守りしてきた森人です。出会ったばかりの男より、我々を信じてください」

「お前はその、ババルとかいうエフトラの子か? 初めて見る顔だ。ソウより付き合いが浅いぞ」

「そんな……。初対面でも、私はエルフです。白竜様がご不在の間も森を守ってきたエルフ族の子を信じられませんか? どこの馬の骨ともわからない男より、私を信じてください!」

「エルフの一族は、吾をファフニールとも白竜とも呼ばぬ。敬称まで教わらなかったか」


 見開いたエルフの目が憎悪を顕わにした。


「ふ、はは……」


 隣で膝を折っていたエルフが、首に刺さったクナイを引き抜いた。


「敬称など知るか。西の魔王は討ち取られた。無様に生き延びるな! ババル様に心臓を差し出せ!」

「そう、それだ。エルフの一族は吾を魔王と呼ぶ」


 シドがソウの後ろに引いた。

 待ち構えていた刀で、ソウはエルフの首をトガルごと両断した。

 エルフの首が地に転がった。

 隣に座り込む、もう一人のエルフに刀を向ける。


「話せることは他に、あるか?」

「や……、嫌だ。殺さないで。私たちはババルに利用されているだけ、従わないと、一族郎党、殺される……」


 刀の切っ先を降ろす。

 自分の首に深く刺さったクナイを引き抜いて、エルフがソウに襲い掛かった。

 引いた刀を横に薙ぐ。

 暗い森に白い閃光が走った。


「死ね、異物が! エフトラの役に立たぬ転移者など、必要ない!」

「異物か、言い得て妙だ。俺が転移者でシドの側に居ると、ババルは気が付いているのだな」


 ピクリと目がひくついた瞬間、エルフの首が落ちた。


「え……? 何、何が……」


 首が離れた胴が草むらに倒れる。

 大量の血が迸った。


「ババル、様……。申し訳、ありません。西の魔王を殺せなくて、申し訳……」


 転がった首の目から、涙が流れた。

 首の中で蠢くトガルに刃を突き立てる。

 刀身に指を滑らせて血を吸わせると、血魔術を強めた。

 一際大きな炎で焼き尽くす。

 炎が飛んで、既に死んでいる隣のエルフに移る。

 トガルの燃え残りを焼き溶かした。


 トガルが炎の中で燃え尽きる。

 悲鳴を上げるように上がった根が、塵になって消えた。


「やはり、ダメだったか」


 シドが、ぽつりと零した。

 エルフの燃え尽きた場所を眺めていたシドが、背を向けた。


「行くぞ、ソウ。エルフの村は殲滅する」

「わかった」


 歩き出したシドから目を逸らして、塵と化したエルフを見詰めた。


「助けてやれなくて、すまない。お前たちの命のお陰で、少し掴めた」


 手向けの言葉はソウ自身の言葉というより、シドの代弁のような気持だった。

 自分の中に流れる感情が、今はよくわからなかった。


(これは俺の感情だろうか。生物を殺して、こんな気持ちになったことはない)


 シドが言っていたように、魔力を通して流れてきたシドの感情なんだろうか。


(だとしたら、やはり。トガルだけを焼き溶かす法を試すべきだ)


 指先に流れる血を舐める。

 今の戦闘でトガルを焼く方法が、ソウなりにわかった気がした。


 黒い塵に手を伸ばし、指で擦る。

 空に舞った塵が空気に流れて消えた。

 煤で黒く汚れた指を頬に塗り付ける。

 じりっと熱い感覚が、ソウの気持ちを尖らせた。

【後書き】

台詞も一文も短く、表現を極力削いてシンプルに。

というつもりで、この話を書いているのですが。

こんなに短い文章で伝わるんだろうかと不安。

これも試みということで。

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