表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dark Bloody Fairytail ー戦国忍者、異世界転移して勇者に負けた魔王を護衛するー  作者: 霞花怜(Ray)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/25

第20話 血魔術の釣り

 シドの指示に従い、南西方向に森を移動した。

 野宿して、次の日は移動に費やした。

 南下するにつれ魔力は濃くなるのに、魔獣の攻撃が減った。

 まるで、こちらの様子を窺うように気配が身を潜めているようだった。

 お陰で戦闘を避け移動の距離を稼げたが、気掛かりな気配だった。


 陽が暮れる前に火を起こして、今日の野宿の準備をした。

 近くに川が流れているのを見付けて、駆け寄った。


「シド、川がある」

「吾の居城がある山から流れる川だ。居城を覆う雪と氷が解けて、川に流れ込む」

「シドの魔力か?」


 シドの魔力は、雪のように白くて美しく、冷たい。


「それもあるし、そういう土地でもある。永年、雪と氷に閉ざされた場所だ」

「そうなのか」


 そんな土地に魔王討伐に入った勇者というのは、体も装備も屈強なのだろうと思った。

 シドにそれを言ったら不機嫌になりそうだから、黙っておいた。


 川辺に近付くと、草の匂いがした。


「:胡荽(こずい)が自生している。水が清い証だ」


 綺麗な沢にしか自生しない草だ。

 整腸作用や解毒作用があるので、里にいた頃も薬にして使っていた。


「この世界にも、日ノ本と同じ草があるのだな」


 ソウは胡荽の根元を持って、根から摘んだ。

 葉も根も、日ノ本で見た胡荽と同じだ。


「パクチーか? 匂いのキツイ草だが、食事などに添えてあるな。喰うのか?」

「日ノ本では薬にしていた。腹の調子を整えたり、解毒の作用がある。不眠にも効くぞ」


 振り向きざま、草をシドに近付ける。

 嫌そうに顔を顰めて、シドが離れた。


「吾はパクチーの匂いが苦手だ。薬と言われると、納得だな」


 シドが鼻を詰まんで距離を取る。

 竜も獣と同じで、匂いに敏感なのだろうか。


「この世界では、パクチーと呼ぶのか。可愛らしい名だ」

「可愛いか?」

「可愛くないか?」


 語感が可愛く聞こえたのだが。

 シドが首を傾げている。


「可愛いとも思えんが。ソウは薬草にも詳しいのか?」

「里では本草学や医術を学んでいた。主を死なせないための知識だが、自分が死なないための知識でもある」


 文字の読み書きから始まり、様々な学問を収めるのもまた、草の修行だ。

 特に医術や薬、気象や天文は草にとっては欠かせない忍術といえる。

 体術と同じくらい重要で、並行して身に付ける。


「あれ程の体術を有しながら知識も知恵もあるのか。草とは皆、そうなのか?」

「里では同じように学ぶぞ。個体差はあるし得手不得手もあるとは思うが、大体同じだ」


 忍術を体得しなければ、自分の命が縮まる。

 草の仕事は、地味だが命に直結する場合が多い。

 シドが、ソウをじっと見降ろした。


「やはり吾は、良き拾い物をした」


 シドがするりとソウの頭を撫でた。

 童にするような仕草が、何だか気恥ずかしい。

 川で、魚が跳ねた。



「シド、魚だ」

「川だからな。魚もおるだろう」

「今夜は魚にしよう。俺が取ってくるから、シドは薪を拾ってくれ」

「主使いが荒いな」

「それもそうか。では、薪を集めてから魚を取ろう」

「吾が木枝を拾う。さっさと魚を取って来い。あの不味い飯を食うより魚を喰いたい」

「わかった」


 森に入っていく背中が、ちょっと嬉しそうだ。

 主扱いされたい割に、何でもソウがやろうとすると、シドは嫌がる。

 そういう性格も、少しずつわかってきた。


(王なのだから、下々に仕えられるのは慣れているだろうに。魔獣とは話ができないから、感覚が違うのか)


 エルフ族はアルハのような人型だと話していた。

 ならば会話も出来そうに思うが。

 あまり絡みもないのだろうか。


(人と同じように思考し、会話ができる竜が何千年も一人で生きてきたのだとしたら、それはどんな気持ちだろうか)


 そんなことをぼんやりと考えながら、ソウは左手に血魔術を展開した。

 水面に浮かび上がる魚の気配に気を尖らせる。

 静かに血を伸ばして、ひものような形状を保って、投げる。

 先を静かに水に忍ばせて、魚の体を絡めとる。

 掴んだ魚を地面に投げた。


「釣りより楽だ。これなら、腹が膨れる程度はすぐに取れそうだ」


 血魔術の扱いも、段々と慣れてきた。

 想像できる範囲なら形を変えられる。

 銃のように撃ったりしなければ、血が足りなくなる心配もない。

 ちょっと楽しくなって、ソウは次の獲物を定めた。


「随分、取ったな」


 釣った魚の山をまんじりと眺めて、シドが呟いた。


「今日は何も食べていないから、腹が減っただろう。待っていろ。今、準備する」


 鱗を取り、懐に忍ばせていた塩を振る。 

 木枝に刺して準備した分を火の側に刺す。

 何も言う前から、シドが魚を焼く番を始めた。


「魚の内臓、取らぬのか? 町の人間は腹を捌いて取り出していたぞ」

「内臓も苦みがあって美味いぞ。勿体ないから喰え」


 シドが微妙に嫌な顔をした。

 竜の姿で魚を丸呑みにしたら、全部喰うだろうに。


(竜の力を戻せば、人と同じには喰わんで済むのか)


 仕方がないので、シドの分だけ腑分けした。

 魚が焼ける頃には、森は夜に染まっていた。


「エルフの村まで、あとどれくらいだ?」

「すぐそこだ。明日の朝に動き出せば、昼前には着こう」

「今日中に向かうべきだったか?」

「いや……」


 ソウは周囲に気を尖らせた。

 シドが森の中を横目にした。

 森の中に、動く気配と魔力を感じる。


「喰ったら休む。明日は日の出と共に動く」

「わかった。火の番は俺が先にしよう」

「頼む」


 短く会話して黙々と食事を終える。

 横になったシドの隣で、ソウは木に背中を預けた。

 長刀を抱えて、懐の薬研藤四郎を握る。


(気配は二つか。精霊のような気、動き方が獣ではない)


 目を閉じて集中する。

 まるで人のように動く気配を追いかける。

 気配が矢をつがう動きをした。


 開眼と同時に振り返り、刀を抜く。

 飛んできた矢を斬り落とした。

 血魔術の炎を纏ったクナイを二本、素早く投げる。


「捉えたか」

「恐らく」


 シドが起き上がった。

 ソウは森の中に走った。

【後書き】

戦国時代に隆盛した草、忍の者と呼ばれた人々は、当時の最先端の学問を学び知識を有していました。

今でいうところの医学・薬学・農学・生物学・数学・天文学・気象学・心理学などなど。

学問体系が細分化している今だとこういう表現になりますが、昔はもっと総体的に忍術として学んでいたようです。

忍術は口伝で伝えられることが多く、現存する忍術書は貴重です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ