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三話「討伐依頼」

ハンマーステッドを旅立ってから約半月が経過した。

東部前線への道のりもようやく半分といったところで、レオンとエステルは立ち寄った町で宿を取ろうとしていた。


「一晩宿泊、お部屋はふたつでお願いします」

「あいよっ! それにしてもお嬢さん、えらい美人だねえ。うちで踊り子とかやってくれないかい?」


町の宿の受付にて、宿の主人と話すエステル。

主人の申し出に、少し困ったような笑みを浮かべつつも、愛想よく返す。


「ふふっ。私はただの旅人ですので、ごめんなさい」

「いやー、残念! まあお嬢さん程の美人がうちで働いてくれるわけないか! ははは!」


景気のよい笑いをあげる主人。

笑いながら、主人はエステルのすぐ後ろにいるレオンに声をかけた。


「そっちのアンタは……お父さんかい? いやー、ほんとに美人な娘さんだねえ!」

「いやまあ……ははは……」


苦笑いを浮かべながら答えるレオン。

そんなレオンに、にこやかに笑いかけながら主人は鍵を二つ取り出し、その鍵をエステルに手渡した。


「期限は明日の昼まで。それまでに鍵を返してくれればいいよ! 部屋は二階の一番奥の二部屋だよ。ごゆっくりどうぞ!」

「ありがとうございます。お世話になります」


エステルはいつものように丁寧に礼をし、レオンと共に部屋へと向かった。

部屋へと向かいつつ、エステルはレオンに声をかけた。


「ふふ、お父さんですって」

「お父さんかあ……俺もそう見える年になっちまったんだなあ……」


年月の経つ早さをしみじみと感じるレオンであった。

その後、それぞれの部屋の前で二人は分かれ、自分の部屋に入っていった。



-------------------------------------



レオンは自分の部屋で荷物を置いた後、宿の一階の受付前にある酒場のフロアへと足を運んでいた。


「へへ……数日ぶりの宿だし、飲むぞお……」


ポケットの中の硬貨をちゃりちゃりと鳴らしながら、いそいそと酒場へと向かうレオン。

この硬貨は、無駄遣いしないようにと念押しされた上でエステルから受け取ったお小遣いであるが、

17年欲望を抑えた男がそんな一言で我慢できるはずも無いのであった。


「お、お父さんのお出ましだ!」

「あ、どもども」


酒場に行くと、宿の主人がカウンターに立っており、レオンを明るく出迎えた。


「何か飲みたいのはあるかい? 適当な酒とつまみならすぐ出来ますよ!」

「あ、じゃあ適当なので」

「あいよっ!」


レオンは主人のすぐ前の席に座り、主人は手際よく酒のボトルを手に取るとジョッキに注ぎ、レオンの前に置いた。


「あいどうぞ! つまみもすぐに用意しますよ!」

「どもども。さて……」


紫色の液体がなみなみと注がれたジョッキを眺めるレオン。

そのジョッキを手に取り、口元に運び、そして、一気に口の中へと流し込む。

音を立てながら飲み下し、なみなみ入った酒は勢いよくレオンの胃袋へと流れていった。

しばらくすると、空っぽのジョッキが勢いよく置かれ、そして。


「……ぷあぁ~~っ!!」


満足そうなレオンの声が酒場に響き渡った。

その声に主人も驚きの声をあげる。


「お~いい飲みっぷりだねえ! さすがあの美人を仕込んだだけのことはあるねえ!!」


周りの客もレオンの飲みっぷりに声をかけはじめる。


「いいねえアンタ! なあ娘さん俺に紹介してくれよ!」

「とんでもねえ美人だったよなあ!?」


やいのやいのと周りの男達もジョッキ片手にレオンの周りに集まりだす。

男達のおだてるかのような声掛けにレオンも気を良くし、答える。


「だめだめ、俺の娘は簡単にはやれねえぜ!」

「あ~ちくしょ~!」


酒の入った男達はくだらない事で騒ぎはじめ、あれよあれよと酒を追加していった。

つまみもどんどんと追加されていき、いよいよ盛り上がったときだった。

複数人の男達が外への出入り口の扉から入ってきた。


「お、なんだか盛り上がってるな。なんかあったのか?」

「なんだなんだ? 宴会か?」


入ってきた男達は皆体格が良く、顔つきも引き締まっており、戦士の風貌をしていた。

特にその男達の中でも、一人とりわけ体の大きい男がおり、主人はその男へと声をかけた。


「団長! いらっしゃい! 飲んでいくかい?」

「ああ、良い感じの酒をくれ。あとメシもくれないか? ガッツリめに」

「あいよっ!」


団長と呼ばれた男と、団長と共にいる男達はレオンが座っているカウンターのすぐ近くのテーブル席へと腰掛け、

主人はすぐに酒をそのテーブルへと運んで行った。

和気藹々と酒を酌み交わす男達。

男達が酒を飲みながら互いに話している中、団長だけはレオンの方へと視線を向けていた。

レオンの腰に取り付けられている、装飾の施された立派な剣をじっくりと眺めていたのだった。

金色の装飾もそうだが、特に団長が目を惹かれたのは柄に埋め込まれた、丸い宝石だった。

素人目に見てもただの宝石ではない事が分かる、強い神聖さを感じる特別な宝石であった。

その立派な剣をしばらく眺めたところで団長は立ち上がり、レオンに近寄って話しかけた。


「なあ、そこのあんた」

「んへい? 娘ならやらねえぜえ?」


すっかり出来上がったレオンが呂律の回ってない口調で団長に返事をする。

団長はレオンの腰の剣を指さしながらレオンに問いかけた。


「その剣、なかなか良い一品だな。腕に覚えがあるなら、自警団の仕事を手伝ってくれないか?」

「んん……? 自警団?」

「ああ。この町はオーガとやりあっててな。報酬なら出す。その気があるなら是非来てくれ」

「オーガ……オーガか~。いいぜえ~、たたきのめしてやるよお~」

「自警団の本部は町の奥の方にある。待ってるぜ」


団長はそう言うとふたたび自分のいたテーブルへと戻っていった。



------------------------------------------



エステルはずっと自室で本を読んでいた。

何やら小難しい魔法の理論が記された本を前のめりで読み込む。

その本を読むのに夢中で、気付いた頃にはもう真夜中となっていたのだった。

夜も更けているしそろそろ寝ようと本を閉じようとした、その時だった。

部屋の外から話し声が聞こえてきた。


『うぇ~い、酒だ酒だ~い』

『お父さんちょっと飲みすぎだよ。ほらしっかり立って』


その声を聞いたエステルは眉をひそめた。

レオンの酒癖が悪いのは既に知っている。

この半月の間に立ち寄ったいくつかの宿泊場で、

泊まる度にどこかで酒を飲んできては、毎回毎回飲んだくれて帰ってくるからだ。

だから、レオンに渡すお小遣いを減らしたりもしていた。

多く渡すと全て酒に使うからだ。

この調子ならもっとお小遣いを減らさないといけないかもしれない。

エステルがそう考えたところで、部屋の扉が外から叩かれた。


『お嬢さん、ちょっと悪いんだけど後頼むよ、俺にゃ手に負えないよ』


その言葉を聞き、軽くため息を吐くエステル。

本を閉じ、嫌そうに立ち上がり、扉を開ける。

扉の外には、廊下で突っ伏して気持ち良さそうに眠るレオンがいた。

そんなレオンを見たエステルは。


「はぁ~~……」


心底嫌そうにため息を吐いた。

これさえなければ。心の底からそう思っていた。

突っ伏したレオンを引っ張り上げ、レオンの部屋の扉を開ける。

レオンはエステルに肩を貸されながらノタノタ歩き、エステルに半ば投げ捨てられるようにベッドに飛び込んだ。


「おふとんきもち~い~」

「お小遣い減らしますね。約束しましたよね、お金は大事に使ってくださいと」

「おおん。だいじょぶだいじょぶ~。俺強いからさ~」

「はぁ~~~~~~……」


でっかい溜息を吐き捨てるエステル。

その表情はもはや何もかもが嫌になったかのような表情であった。

全てを諦め、部屋を出ていくエステル。

その時、レオンがエステルに声をかける。


「あした、オーク退治いくぞ~。……あれ、オーガ? とりあえず一緒に倒しにいくぞお~」

「……明日話しましょう」


エステルはレオンの声掛けを軽くあしらい、部屋の扉を閉めて出て行った。


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