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『不能』と『不運』の呪いをかけられた元剣聖の浮浪者、解呪の聖女と出会い無双する  作者: たなか
三章「人々の願いを受けて」

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十話「退避」

それは、戦いと呼ぶには一方的であった。

王国軍の兵士は怒涛の勢いで魔王軍へと突き進んだ。

兵士達は皆、虹色か、あるいは青白い光に包まれながら敵陣になだれこむ。


「ガアアア!! ウガッ!!」


一匹のオークが叫びとともに、鈍器による一撃を一人の兵士に叩き込む。

だが、その鈍器は兵士の剣によって簡単に跳ね返された。

そして兵士はすぐさまその剣をオークの首筋に叩き込む。

一瞬でオークの頭部は切断され、血飛沫を撒き散らす。

力を失ったオークの体はだらしなく地面に倒れ込んだ。


「進めーッ!! 今こそ鍛錬の成果を見せる時だーッ!!」


兵士は剣を振るいながら辺りに激励を飛ばす。

その声に応える様に、兵士達が勢いを増して突入していく。

瞬く間に魔物達は討たれ、王国軍は止まること無く戦場を支配していく。



------------------------------------



軍から少し離れた高台にて、レオンは腕を組みながら戦場を見ていた。


「ここまで差があるとは思わなかったな」


レオンの言葉に、ライアスが答える。


「そうだな。本当に急ごしらえで用意したって感じの軍隊だ。質は低いし、まともな指揮系統も無い」


二人の視線の先には、逃げ惑う魔物達の姿。

ごく一部の低級魔族らしい者は何とか抗っているようだが、すぐに王国軍の勢いに飲まれる。

もはや誰が見ても王国軍の勝利は明らかだった。

そんな中、ライアスは少し神妙な面持ちで呟く。


「……余りにも簡単すぎる。嫌な予感がするな」

「……そうだな」


ライアスの表情を見ながら、レオンは同意する。

レオンもまた険しい表情であった。

ライアスは王国軍を指しながら言う。


「見ろ、王国軍と魔導部隊の間に距離が空きつつある。突撃に後衛がついて行けていない」

「ああ、魔物の死体が多すぎる。後衛の進軍の邪魔になっているな」


二人の視線の先には、突撃する王国軍とそれを後方からサポートする神殿騎士団、魔導師団が映るが、

王国軍が凄まじい勢いで進撃するが故に、後方部隊は王国軍が撃破した大量の魔物の死体に突っかかり進軍が遅れ始めていた。

魔王軍の質があまりにも低すぎる弊害であった。


「何か指示を出すのか?」

「ここは防御陣形にすべきなのかもしれないが……」


ライアスはほんの数秒考える。だがすぐに意を決した表情になると、叫んだ。


「伝令ッ!!」


ライアスが叫ぶと、一人の兵士が走り寄ってきた。


「ハッ!」

「前方部隊を後方退避させろ!」

「承知しました!! 前方部隊、後方退避ッ! 前方部隊、後方退避ッ!!」


兵士はそう叫ぶと、角笛を鳴らした。

突撃の時の角笛とは違い、聞いた人を抑え込むような、低音で響く音だった。

ライアスはその音を聞きながら言う。


「レオン、俺にはこれが敵の罠の様な気がしてならない」

「そうだな。あいつら魔王軍と戦う時の嫌な予感ってのは大体当たるもんだ。……ん? おいライアス、あれはなんだ」


レオンが戦場を指差した。


「あの魔物の死体……妙じゃないか?」

「ん……?」


ライアスの視界の先に、倒れた魔物達の死体が映る。

目を凝らしてよくよく見ると、その死体は……。



---------------------------------------------



土埃が舞い、剣戟の音が鳴り響く最前線にて。

戦場に低い角笛の音が響き渡る。

角笛の音を聞き取った一人の兵士が叫ぶ。


「後方退避いいいいいいいいいいいッ!!!!」


それに呼応し、兵士達も進撃を止め、少し下がりながら叫ぶ。


「後方退避だーッ! 退避しろーッ!」


少数の兵士達が突撃をしようとしていたが、その叫びを聞いて慌てて引き返す。


「突っ込むなーッ! 下がれーッ!!」


やがて王国軍全軍が体制を切り替え、退避の陣形に移る。

突撃を止め、下がりながら防御を固めていく。

兵士達が盾を構えながら言う。


「急に退避陣形か! 何かあったのか!?」

「わからない! だがとにかく油断するなよ! ……おっと!」


退避を始めようとする中、一人の兵士の足が、足元にいたオークの死体に当たる。

兵士は死体に一瞬目を向けながら呟く。


「チッ、足元がこいつらの死体だらけだな」

「気をつけろよ、躓いてる間に襲われたらたまったもんじゃない」


そんな時だった。


「ガ……アァ」

「……ん?」


足元にいたオークの死体が突如、声を発した。

生気のない表情で、呻くように。

兵士は慌ててオークに剣を向ける。


「こいつ! まだ生きてたのか! くたばれ!!」


兵士はそう叫ぶと、オークの顔に剣を突き立てた。

緑色の血が地面に流れ出す。

だが、そうすると近くにいた別の魔物の死体が同じ様に声を発した。


「ヴァア……」

「ォアア……」


不気味なうめき声を発しながら、やがてゆっくりと立ち上がる。

その動きは先程までとは違い、不自然なものだった。

体の動かし方が分かっていないというような、おかしな挙動だった。

再び立ち上がり、奇怪な動きをする魔物達を見ながら兵士達は口々に叫ぶ。


「おい気をつけろ! こいつら死んでないぞ! まだ生きているッ!!」

「死体に近づくんじゃないッ!! 離れるんだッ!!」


兵士達は全員、周りの魔物の死体に注意を向ける。

そんな中、どこからか兵士の絶叫があがる。


「いぎゃああああッ!! いてえ、いてええッ!!」


声の方を見ると、一人の兵士の背中にはゴブリンがのしかかり、そして兵士の首筋に噛みついていた。

やがて兵士は力なく倒れ込む。

それと同時に次々と同様の絶叫が上がり始める。


「ぐあああああッ!!」

「やめてくれ、いてえ、いてえッ!!」

「畜生ちくしょう、うぎゃああああ!!」


何人もの兵士が、突如起き上がった魔物達に背後から襲われていた。

眼の前で起き上がったのならまだしも、足元、背後、視界の外から突如襲われる。

多くの者が対処できないまま襲われ倒れていった。

数人の兵士が大声で叫ぶ。


「退避ィーーーー!! 退避しろーーー!!!!」

「後方部隊と合流しろーーーー!!!!」


士官らしき彼らは、必死に指示を飛ばし、体制の立て直しを図る。

多くの兵士が彼らの指示通り、後方へと下がる。

だが、退避する先にも奴らはいた。

これまでに倒してきた多くの魔物の死体が、次々と起き上がり始めていた。


「アァァ……」

「グォアァァ……」


生気の無い目に、奇怪な体の動かし方。

アンデッド系の魔物の特徴によく似た挙動を取りながら、退避する兵士達に襲いかかっていた。

退避先にアンデッド達がいるせいで、退避する事も出来ず兵士達は足止めを受けていた。


そして王国軍が混乱する中、魔王軍の方向から楽器の様な、笛の音が響き渡った。

兵士達はその音に気づくと、魔王軍へと視線を向ける。

そこには猛烈な勢いで進軍してくる魔王軍があった。

王国軍は、アンデッド達と、魔王軍に挟み撃ちにされようとしていた。

士官達が叫ぶ。


「慌てるな!! そのまま下がれーッ!! 退避を続けろーッ!」

「魔導部隊と合流すればこの状況を打破できる!! 迷わず下がれーッ!!」

「邪魔な死体共はたたっ斬れッ!! 退避しろーーーーッ!!」


直前に出された退避指示により、王国軍は混乱しつつも足並みを揃えながら退避を始めていた。



--------------------------------------



魔王軍本陣にて。

混乱する王国軍を見ながら、ほくそ笑むような表情を浮かべる者がいた。


『ふふふ……優秀な指揮官でもいるのでしょうかね……もう少し焦らしてから不死化させるつもりだったのですけれど……』


黒いローブを羽織る者がいた。

羽織ったローブの下は踊り子の様な扇情的な薄着で、肌の露出が多く妖艶な姿であった。

だが、その肌を見ればすぐに人間ではない事がわかった。

生気の無い青白い肌。まるで死体の様なその姿。

手には木の杖を持っており、それはいくつかの小さな穴が空いた、木管楽器の様にも見える物だった。


『でも気付いた所でもう遅いわ……死人が出れば出るほど地獄は広がっていく……』


見下す様な冷たい笑みを浮かべながら、王国軍を見つめていた。


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