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『不能』と『不運』の呪いをかけられた元剣聖の浮浪者、解呪の聖女と出会い無双する  作者: たなか
三章「人々の願いを受けて」

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九話「突撃」

ゼファーがおちゃらけた様子で言う。


「それじゃあ~ソフィちゃん。やっちゃおっか。開幕の挨拶」


数メートル程の高さのある岩場の上で、ゼファーはそう言う。

ゼファーの視線の先、はるか向こうの前方には、突撃してくる魔王軍があった。

唸り声を上げ、地響きを立てながらこちらへと向かってきていた。

ゼファーの隣に立つソフィもそれを見ながら答える。


「うん。準備は出来てるよ、先生」

「オッケー★」


二人は持っている杖を天に掲げる。すると杖の先端から色鮮やかな虹色の光が輝き出す。

岩場の下の兵士達はその光に気づくと視線を上げ、岩場の上の二人を見上げ出した。

兵士達の視線を受けながら、二人は詠唱の言葉を紡ぎ出す。


『大いなる風の導き』

『遥かなる風の息吹』


主旋律と副旋律を奏でる様に、二人の言葉が混ざり合い兵士達に届く。

兵士達は二人を見上げながらざわめく。


「賢者様の大魔法だ……!!」

「すごい、まさかこの目で見れるなんて……!」

『全てを飲み込む怒りの風』

『全てを包み込む慈愛の風』


二人の持つ杖から放たれる虹色の光が更に輝きを増す。

直視できない程の強い光を放ち、兵士達は目を抑えながらその姿を目に焼き付けようとしていた。


「眩しくて見えねえ……!」

「ああ……! 美しい……!」


光に合わせ兵士達のざわめきも一層増していく。

誰もがその眩い虹色の光に目を奪われていた。


『天を伝い』

『地を伝い』

『神々の世界までも昇り』

『遥か彼方へと願いを届かせ給え』


やがて、強風があたりに吹き荒れる。

その風が吹き始めると、兵士達のざわめきは最高潮に達した。


『その身を風に委ねよ』

『その魂を天に委ねよ』

『今ここに駆け巡れ』


二人が揃って、最後の言葉を紡ぐ。


『第十次元融合魔法、カラミティ・ゲイルストーム』



----------------------------------------------------



魔王軍、最前列。

そこには無限の如く大量の魔物が連なり、全てを飲み込む濁流か、あるいは燃え広がる業火のように大地を突き進んでいた。

最前列には様々な魔物が混ざり合い、その軍を構成しているが、ゴブリンやオークなど、構成する魔物は低級の者が殆どであった。

だがその数は質を補って余りある程の物であり、ここに人間が突っ込めば一瞬で肉塊と化すであろう程の数であった。


「ガァッ! フガッ!!」


緑色の肌を持ち、豚のような顔を持つ魔物、オーク。一体一体はさほど強くはないが一般的に数が多い魔物であり、またある程度の知能があり武器や防具等を制作する。

オーク達は各々の作り上げた刃物や鈍器、軽装の鎧などを身につけ、鼻息を荒げながら戦場を駆け巡っていた。


「ギキィッ! クケケケッ!」


ゴブリン。知能は低く体は小さいが、素早い上に数が多く基本的に集団で行動するため、弱い魔物と見くびると痛い目に遭う魔物。この大地において最も数が多い魔物とされ、どこにでも生息する。

オークの制作した軽装防具を身につけ、短剣を振りかざし奇声を発しながら駆け回る。


「ククク……フヒッ……!」


そんな彼らを見ながら、不気味な笑みを浮かべる者がいた。

遠くからぱっと見れば何となく人間に見えるシルエットだが、だがすぐにその異様さに気付く。

黒に近い青みを帯びた肌。妙に長い首に、先端が捻じ曲がった腕。見れば見るほど人間ではない事が分かる姿であった。


「殺せ殺せえ……! 殺して奪って、魂を喰らい尽くして……上級魔族に覚醒だァーー! ヘェーッヒッヒ!!」


そう語る魔族の視線の先には、人間の軍。大勢の人間に加え、三種の旗が掲げられているのが見える。

彼の目には極上のご馳走のように映っているのか、舌を出しながらそれを眺めていた。


「美味そうだなァ……! 美味そうだなァ!! ヒィーッヒッ……ん?」


ふと一つの物事に気付く。視界の先、人間の軍の後方にて、何かが光を発していた。

それは虹色の光だった。それを見ると、魔族は前にいる魔物達に声をかける。


「へっ、奴ら、なにか企んでるようだが、気にする事はねえ!! 進め進めえ!! 殺しちまえ!!」


その光は人間の魔導師が魔術を使う時に放つ光と同じ物だった。

人間は様々な魔法の類を使うが、中でもこの虹色の光を放つ魔術は非常に使い手が多い。

いつもの大した事のない一発芸であると、魔族はそう判断する。


「無駄だよ無駄ァ!! この数に勝てると思ってんのかトンチキがぁ!!」


魔族がそう叫ぶと、その声に呼応するように魔物達が更に勢いを増して進軍する。

そんな中、遥か前方の光は更に光を強めていた。


「クソがーーーー! 眩しいじゃねえか!! 嫌がらせかァ!? あァ!?」


この位置からでも眩しく感じる程にその光は輝いていた。

憎たらしさを感じながら、魔族は苛立ちを口にする。

と、その時だった。


「……あ? なんだ、失敗か?」


突然、その光は消えた。まるで魔法が不発したかのように、フッと消えてしまったのだった。

その様子を見た魔族は笑いを上げる。


「ヒィーッヒ!! こりゃ面白え! やっちまったみてえだなあオイ! ヒィーッヒッヒ!!!!」


魔族の笑い声につられ、魔物達も笑い声の様な唸りを上げる。

ひとしきり笑った後、魔族が叫ぶ。


「行けーッ!! 殺せーッ!! 一匹たりとも逃すなーッ!!」


その叫びと共に、魔物達が一気に駆け出す。

そしてその士気を盛り上げるかのように、追い風が吹く。


「いい風だぜえ!! 行け行けぇ!! ノッて行けえ!!」


追い風を利用し、速度を上げて進軍する魔物達。

だが……。


「……な、なんだ? お、おかしいぞ、なんだこの風……」


魔族が違和感を口にする。追い風だと思ったその風は、急に向きを変え向かい風になる。

かと思えばまたすぐに追い風になる。まるで四方八方から風に包まれるような、風の流れに周りを囲まれているようにも感じた。

魔物達もこの異様な風に違和感を覚え、進軍の勢いが弱まる。


「まさか、さっきの魔術か? ……おい、止まるんじゃあねえ!! 急いで駆け抜けろ!!」


魔族はそう言うと駆け出し、進軍を煽る。魔物達も慌てて前を向き直し進もうとする。

だが、それはもう難しい物となりつつあった。

風は一気に強まり、暴風と化していたのだ。


「進めねえッ!! 進めねえぞ!! クソがーーーーー!!」


左から風。右から風。後ろから。前からも。

そして。

足元をすくい上げるかのように、下から急激な風が吹き荒れる。


「うお、うお、うおおおおおおおおお!!!!」


魔族が叫ぶと共に、その体が地面から離れ、そして一気に天へと舞う様に昇っていく。


「うああああ!!! うおあああああああああ!!!!」


叫びを上げながら宙に舞い上がる。魔族の視界には、自分以外にも大勢の魔物達が宙を舞っているのが見えた。

強烈な浮遊感を全身に感じながら、目に映る地獄の様な光景に魔族は絶望する。


「うあっ、いやだ、いやだァ!!!! やめてくれ、やめてくれええええええ!!!!」


恐怖と共に体は更に上空へと舞い上がっていく。

下を見ると、風から逃げ惑う魔物達が見下ろせた。

近くを見ると、絶叫を上げながら空を回転するように舞う魔物達が見える。


「ああああああああ!! ああああああああああああああああ!!!!」


もはや叫ぶことしか出来ない魔族。やがて、その体が突然どこかの方角へと投げ出されるように飛び出す。

流れから弾き出された様に、その体は一直線に突き進んでいく。


「うあああああ!! いやだ、いやだ、いやだああああああああ!!」


視界の先には、人間の軍がいた。そこに向かって悲鳴を上げながら凄まじい勢いで突っ込んでいく魔族。

人間軍に近づくと同時に、どんどんと地面が迫っていく。


「いやだ……! じにだぐない、じにだくない、じにだぐないじにだぐないじにだぐない!!」


黒い液体が目から溢れ出すが、その液体はあっという間に風に吹かれ飛んでいく。

そして、地面がいよいよ眼前に迫る。


「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


最期の絶叫と共に、人間のすぐ目の前の地面に激突。魔族の意識は途絶えた。


そして、それを合図とするかの様に、人間軍の後方から角笛が鳴り響く。

続けて角笛に合わせる形で叫び声が戦場に鳴り響く。


『全軍!! 突撃せよーッ!!!!』


人間軍が進軍を開始した。


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