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『不能』と『不運』の呪いをかけられた元剣聖の浮浪者、解呪の聖女と出会い無双する  作者: たなか
三章「人々の願いを受けて」

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六話「師の選択」

「俺の言葉で話す。俺はそうしなくちゃいけない。あの時に出来なかった事を、俺は今、やらなくちゃいけないんだ」


レオンは真剣な眼差しでそう言った。

その言葉を聞いたソフィは笑みを浮かべた。

レオンに対する信頼のような、そういった物が感じ取れる優しげな笑みだった。

ソフィは杖を下ろし、エルンストの前から下がった。

そしてエルンストは一歩前に出ながら、剣先をレオンに向けた。


「……貴様が何を話すと言うのだ? 反逆者め。貴様がすべき事は口を動かす事ではない。今、儂の前にその首を差し出す事だ」


そう言うエルンストに対し、レオンもまた一歩前に出た。


「エルンスト、あの時の話の続きをしよう。あの時何が起こったかの真実はもう証明の手立てがないし、今更覆る事も無い。俺が話したいのは、俺が陛下を手にかけた事実に対して、俺がこれから何をするかだ」


その言葉に対し、エルンストは少し興味深そうにレオンの声を聞いていた。


「ほう、これから何をするかか。面白い。もちろん決まっている。貴様を殺してその首をこの砦の頂上に晒す事だ。貴様の罪はその処遇ですら温いがな」


エルンストの絶対的な殺意に対し、セレナ、ゼファー、ソフィの3人は恐怖を覚えながらその言葉を聞いていた。

だがレオンは一切臆せず、堂々とその場に立っていた。

その飄々とした態度に、エルンストは苛立ちながらレオンに問いかける。


「レオン……貴様、この17年の間に随分と態度が大きくなったようだな。あの時は小悪党の様につらつらと言い訳を並べていたが……」

「ああ。そうだ。あの時の俺は、言うべき事が何も言えなかった。怖かったんだ。人々から敵意を向けられるのが」

「言うべき事だと? 謝罪でも始めるつもりか?」

「謝罪はしない。それは陛下の信頼を裏切る事になるからだ」

「……何だと?」


謝るつもりはないと、そう言い切るレオンに、エルンストは明らかに怒りの感情を高めていた。

もはや誰もが畏怖するであろう怒りの表情を浮かべながらレオンと相対していた。

今にも斬りかかりそうな雰囲気であった。

だがレオンは変わらず臆する様子は一切無く、言葉を続ける。


「正しい事ではなかったが、俺はあの時の行動に間違いは無かったと信じている。

あの時出来る事を、俺は陛下とともに最大限におこなった。

だからこそ陛下は、その身を、その願いを、俺に託して下さった。

グラディオン王国の剣聖として、俺は成すべき事をした」


エルンストは静かにその言葉を聞いていた。

表情は変わらず険しい物であったが、それでもレオンの言葉を深く聴き込んでいた。


「エルンスト、俺は今も王国のために戦っている。俺がこれからする事は、陛下の威信を守るため、陛下の願いを叶えるため……この命を賭けて戦う事だ」

「…………」


エルンストは静かにその言葉に聞き入っていた。


「この17年、地獄の様な生活だった。文字通り泥水を啜った。

だがそれでも俺は毎日剣を振り続けた。いつか再起の時が来ると信じて。

俺は反逆者でもない。裏切りの剣聖でもない。

一日たりとも、陛下を、この国を思わなかった事は無い。

俺の命は、俺の剣は、今もこの国と共にある」


レオンは、強い眼差しでそう言った。

エルンストはただ黙って、その目を見ながら動かず止まっていた。

静寂が空間に流れる。

しばらくすると、エルンストが独り言のような口調で語り始める。


「貴様は、貴様は反逆者だ……。討たねば、討たねばならぬ、元帥として、討たねばならぬ……」


エルンストの様子が先程までとは打って変わって混乱しているかの様になった。

レオンに向けていた剣先は迷いがあるかのように細かく震え始める。

様子を見ていた他の3人も、エルンストの異様な様子に気づき始める。

セレナがエルンストの近くに寄り声をかける。


「エルンスト様、気を強くお持ちください。負けてはなりません」

「儂は……儂は……」


エルンストは、剣はレオンに向けながらも、空いている方の手で自分の顔を抑える。


「そうだ……そうだな、討たねばなるまい、お前の言う通りだ……」


顔を抑えながら、やがて独り言の様な物を始めていた。

まるで近くに見えない誰かがいるかのように会話を始めていた。

手を顔から離すと、レオンの方へと改めて顔を向ける。


「まさしくその通りだ……陛下を失ったこの苦しみは、此奴を殺さなければ晴れる事は無い……」


エルンストはそう言いながら剣に力込める。

だがむしろその剣先は先程よりも大きく震えていた。

そして、エルンストの視線もまた、どこか少しずれていた。

顔は確かにレオンの方を向いているが、その目はレオンの背後か、その隣か、何も無い空間へと向けられていた。

エルンストはその何も無い空間に向けて言葉を発した。


「そうだ……そうだ、王国に生きる者として、正しい事をしなければならない……お前の言う事が間違い無く正しい……」


何も無い空間に向けて会話を始めるエルンストに、ゼファーが声をかける。


「エルンスト様、気を確かに! 一体何と話しているんです!」

「そうだ……儂は元帥だ……成すべき事を成さねば……」


エルンストの背中に手を添わせながら必死に声をかけるゼファーであったが、エルンストは意に介さず、何者かとの会話を続けていた。

そんな中、レオンが再び口を開く。


「エルンスト。俺達はあの時、正しい事が出来なかった。

だからこそ、今から正しい選択をしないといけない。

逃げずに、真正面から、自分自身の心と戦わなくてはならない」


エルンストはその言葉を聞くと、視線をレオンへと向けた。

その目に、その表情に、もはや怒りは無く、焦燥感や恐怖心の様なものがあった。

レオンは更に言葉を続ける。


「エルンスト。俺はもう逃げない。命を賭けて、俺は……戦う!!」


レオンは力強くそう言った。

その言葉には強い信念が宿っていた。


「儂は、儂は……!!」


エルンストは両手で剣を握りしめた。

そして、足に力を込め始める。

セレナが必死に声をかける。


「エルンスト様!! なりません、どうか、どうかお気を確かに!!」


だがセレナの制止は効かず、エルンストは駆け出した。

ゼファーが叫ぶ。


「エルンスト様ーッ!!」


剣先が、レオンの眼前へと迫っていった。

レオンは動くこと無く、その目で剣を見つめていた。



----------------------------------------------



大広間は、静寂に包まれていた。

その広間の入口扉近くに立つレオンの首に向けて、エルンストは剣を突き立てていた。

ゼファーが絞り出すような声を出す。


「エルンスト様……! なんて、なんて事を……!!」


ゼファーの視点からは、エルンストの影に隠れてしまいはっきりとは見えないが、レオンの首に剣が刺さっているように見えた。

絶句するゼファーに向けて、対象的に少し落ち着いた様子のセレナが話す。


「いえ、ゼファー様、大丈夫です。何も問題ありません」

「え……?」


ゼファーは少しだけ移動し、改めてエルンストとレオンの様子を見直す。

位置を変えると、セレナの言っている事が理解出来た。

エルンストの剣はレオンの首筋を掠めてはいたが、しかし首には一切傷はなかった。

エルンストはレオンには全く攻撃を加えず、レオンの後ろの何も無い空間に向けてその剣を突き立てていた。

先程まで、エルンストが見えない何かと会話していたときに見ていた場所だった。

ゼファーがその無の空間を見つめていると、静かにエルンストは語りだす。


「レオンよ……お前にとって、グラディオン王国とは何だ?」


その問いかけに、レオンもまた静かに語りだす。


「……命に代えても、守らなければならないものだ」

「…………」


その言葉を聞いたエルンストは何も言わず、剣を握る手をゆっくりと下ろした。

剣を下ろすと、もう片方の手をレオンの方に添える。


「レオン、その顔を見せてくれ……」


そう言いながらレオンの顔をまじまじと見つめる。

レオンもまた、エルンストの顔を見つめる。

エルンストのその目には、涙が浮かんでいた。


「ああ、レオン……!! すまぬ、すまぬ……!! 許してくれ、許してくれ……!!」


エルンストはそう言うと、持っていた剣を投げ捨て、両の手でレオンの体を強く抱きしめた。

その瞬間、レオンの脳内でかつての記憶が駆け巡る。



----------------------------------------



小さい子供の頃だった。

瓦礫だらけの街をずっと一人で彷徨っていた。

その時に出会った、豪華な鎧を着込んだ、とても強そうなおじさん。

そのおじさんに手を引かれ、大きな馬に乗せられた。

馬に乗って、やがて大きな城に付くと、温かい食べ物と柔らかいベッドが与えられた。


それから毎日が楽しかった。

おじさんにタダ飯食らいはイカンと言われ、

兵士の訓練もさせられたけど、それもまた楽しかった。

一緒に訓練をしていた同じ年の仲間、ライアスとも出会えた。

毎日ライアスと一緒におじさんから剣を教えてもらった。


そんなある日。おじさんに連れられて、ライアスと一緒に王様に会わせてもらった。

そして、おじさんに教えてもらった。

この人はとても大事な人なのだと。

温かい食べ物と、柔らかいベッドがあって、毎日豊かに暮らせるのも、全てこの人のおかげなのだと。

だからこそ、この人の為に命をかけて戦わないといけないのだと。


――エルンストから、そう教わった。



----------------------------------------



「エルンスト……!」

「レオン……!! レオン……!! 儂は、儂は大馬鹿者だ……!! 本当にすまぬ……!!」


レオンの肩を抱きしめながら涙を流すエルンスト。

レオンもまた涙を流し、エルンストの肩を抱く。


「エルンスト……馬鹿なのは俺だ……。俺の心が弱かったんだ……。エルンストのせいでも、誰のせいでもない……」

「いや、儂も、儂の心も弱かったのだ……! 儂は勝てなかった……!! 陛下を失った怒りに飲まれ、儂は……! 儂は……!!」


エルンストはレオンの肩から手を離す。

涙混じりの目で、レオンの顔を再び見る。


「ああ、レオン……! レオン……!! よく生きていてくれた……!!」

「エルンスト……!!」


レオンは、かつての師との再会に涙した。

セレナとゼファーと、そしてレオンを信じずっと静かに待っていたソフィもまた、涙を流しながらその様子を見つめていた。


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