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十話「戦況」

翌日、応接室にて。

レオン、エステル、ソフィ、ライアスの四人が座って向き合っていた。

ライアスがレオンに向けて声を掛ける。


「レオン、まず現状の戦況から説明しようと思うんだが、どこまで知ってる?」

「とりあえずあの後長城がまた奪い取られたってところまではエステルから……」

「そうか、なら改めて北方大陸全体の戦況から説明しよう」


そう言ってライアスは立ち上がると、壁にかかっている地図に手を向けた。

その地図上には、三角形の様な形の図が描かれていた。


「まず17年前、お前の活躍によって長城は一度は奪還出来たのだが、お前の言う通りその後しばらくしてまた奪い取られてしまった」


ライアスはそう語りながら、三角形の中心の辺りを指さした。

そこには三角形を横に分断するかのような、『グラティウム長城』と書かれた一本の長い線が描かれていた。


「当時は剣聖も聖女も不在。賢者の様な突出した人材もいない。徐々に領土は侵略されていった」


三人に視線を向けつつそう語る。


「だが、一年前。マギステルムからソフィ様が王都にやってきた。聖女出撃の知らせと共にな」


ライアスとソフィが目を合わせた。


「聖女の出撃に合わせて、ディヴィニア、マギステルム、グラディオンの三国は北に向けて進軍を開始することになった。目的はグラティウム長城全ての奪還だ。これが半年前の出来事だ」


ライアスはそう言いながら、三角形の左角の『ディヴィニア神聖教国』と書かれた部分を指差す。


「最初に、ディヴィニアからは神殿騎士団が長城西部に向けて北上。現在は長城西部の近くで西部前線を敷いている」


ライアスは更に指先を右側へ動かしていき、三角形の左角と右角の間、『マギステルム魔導国』と書かれた箇所で指を止める。


「次に、マギステルムからは魔導師団が、長城中部に向けて北上。現在は長城中部の近くで中央前線を敷いている」


そう言いながら指先を更に右側へ動かし、三角形の右角を指差す。

そこには『グラディオン王国』と書かれていた。


「そして、我々グラディオン王国軍は長城東部に向けて北上。そしてここ東部前線で軍を敷いている。こうして三国はそれぞれ北上して長城全部の奪還に向けて進軍している」


ライアスはそう言いながら改めて地図に書かれたグラティウム長城を指さした。


「剣聖が不在の今、悪魔王の討伐は難しいとされている。それでも長城だけは奪還して次世代に繋げるのが我々の役目だ。だが……」


そこで、ライアスはレオンに向けて視線を向ける。


「剣聖は不在ではなくなった。昨日、既に各国に向けて連絡を出している。北方大陸の戦況は大きく変わるだろうな」


エステルも、ソフィも、レオンに視線を向けた。

三人の視線を受けながら、レオンは語る。


「ああ、エステルのお陰で俺はもう一度剣を振るう事が出来る様になった。今度こそ奴と決着を付けるつもりだ」


レオンのその言葉に、三人は頷いた。

その後、ライアスはエステルへと質問を投げかけた。


「ところで、エステル様はどうなされたのです? 当初は護衛部隊と共に東部前線に向かう予定だとソフィ様から聞きましたが……」

「はい、当初はたしかにその予定でしたが……。ディヴィニアを発ち、マギステルムに到着後、そこで私は女神の啓示を受け取ったのです」

「啓示……?」


エステルは目を閉じ、静かに語る。


「女神は、私一人だけ別れて移動する様に言いました。そして寄り道しながら進みなさいと。私は啓示通り、単独で寄り道をしながら東部前線に赴きました」

「なるほど。護衛部隊だけここに来た時は何かあったのかと驚きました」


そこまで話が進むと、エステルは再び目を開く。


「そしてその寄り道途中、悪魔王の呪いから漏れ出る強烈な邪気を感じたのです」

「その邪気に引かれてレオンと出会ったわけですね」

「はい。邪気を放つレオンさんを魔族と勘違いして攻撃を仕掛けてしまいましたが……」


エステルは少し気まずそうな表情で、ちらりとレオンの方へと視線を向けた。


「ああ。あれにはびっくりしたよ。本気で殺されるかと思った」

「本当にごめんなさい、レオンさん」

「大丈夫だって、お陰で剣技が使えるようになったんだし」


苦笑いを浮かべながら答えるレオンに、ライアスは質問を投げかけた。


「殺されかけてピンチで剣技が復活したのか?」

「いや、解呪の神聖魔法を打ち込まれてな。それで一時的に呪いが解けて剣技が復活したんだ」

「なるほどな。解呪の神聖魔法……。昨日見た魔法か」


ライアスのその言葉にエステルが答える。


「はい、解呪の神聖魔法は魔族に打ち込めばその存在を消し飛ばせますが、人に打てば呪いの解除の他、強化の効果も与えます。ですが、この魔法は不完全な様でした。レオンさんの呪いは今もなお残ったままです。ソフィの知恵も借りたいのだけれど……」


エステルはそう言いながらソフィに視線を向けた。


「うん、今軽く見てるんだけど、厄介だね。この呪い。まるで生き物みたいに魂そのものに根を張ってる。こんなの初めて見たよ」


レオンはその言葉を聞き、少し怯えた表情でソフィに尋ねる。


「やっぱそんなヤバいもんなのか、これ……」

「はい、レオン様。少なくとも一日二日でどうこうできる物ではないです。新しい解呪の神聖魔法の開発が必要になるかと……」


新しい解呪の神聖魔法。その言葉にエステルが反応する。


「そんな魔法が作れるの? 今のでも先代聖女が何十年もかけて作ったものだけど……」

「今すぐには無理だけど……数ヶ月あれば出来るかな。昨日見たけど、今の解呪魔法には穴があったんだよね。そこを埋める形で別の魔法を融合させれば、割と簡単に出来ると思う」


ソフィのその言葉に、エステルは感嘆の意を含めて話す。


「さすがソフィ……。ソフィの書いた融合魔法理論、難しすぎて未だに理解できてないんだよね」

「魔力核理論は知ってる? 魔力核の融合が発想元になってるんだけど」

「ああ、なるほど。先にまず魔力核理論をしっかり覚えておかないといけないんだね」


二人が専門的な話を開始する。

そこで、レオンが割って入りつつソフィに話しかける。


「待って。難しい話やめて。脳ミソ破裂しちゃう」

「あ、ごめんなさい、レオン様。魔法とかの話になるとつい……」

「あぶないあぶない。危うく脳に深刻なダメージを受けるところだった」


一同の笑い声が応接室に響いた。


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