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七話「剣聖の所作」

砦内の訓練広場にて。

訓練広場はそれなりの大きさが設けられており、様々な武具や訓練用設備が配置されていた。

そしてその中央には多くの兵が整列して集まっていた。

整列する兵達のその視線の先に、ライアスとレオンが立つ。

ライアスは兵達に向けて大声で語りかける。


「諸君! 既に聞き及んでいるであろうが、ついに聖女様が本砦に到着した!」


ライアスの言葉に、兵達は感嘆の声を漏らす。

一人ひとりの声は小さいものの、人数が多く訓練広場にざわつきが反響する。

ライアスは制止するかの様に手のひらを兵達に向けた。

兵達はざわつきを止め、改めてライアスに注視する。

落ち着いた兵達を見ながら、ライアスは続けて語る。


「だが、それとは別にもう一つ知らせがある! ここにいる彼の事だ!」


ライアスはレオンに手のひらを向ける。

一斉に兵達の注意がレオンに向けられる。

レオンは少し気まずい表情を浮かべながら視線を受ける。

ライアスは兵達を見ながら、少しだけ語気を強めて言う。


「彼の名はレオン! 我が国が誇る英雄、五代目剣聖だ!!」


そう言った瞬間、再びざわめきが反響しはじめる。

しかしざわめく兵達の表情は決して悪くはなく、むしろ興味や期待を抱く表情であった。

レオンはライアスに困惑の視線を向けるが、ライアスは何も言わず頷き、手を兵達に向けるだけだった。

彼らに自己紹介をせよと言わんばかりの表情でレオンを見る。

レオンは観念したかの様に少し息を吐くと、兵達へと視線を向けた。

兵達はすぐにざわめきを止め、レオンの言葉を待つ。

レオンは気まずい表情のまま、語り始める。


「あー……ご紹介に預かった、レオンだ。聞いての通り、五代目剣聖だ。よろしく頼むよ」


イマイチ覇気のない自己紹介であったが兵達は全く気にせず、むしろその表情は期待を膨らませるかのような表情だった。

ライアスは小声でレオンに話しかける。


「おいおい……もうちょっと気の利いた事は言えないのかよ、剣聖様」

「無茶言うなよ……俺はエステルみたいな事はできんよ……」


ライアスはレオンにぶつくさと不満を言うが、しかしその表情は明るかった。

続けて兵達に叫びかける。


「ちょうどいい機会だ! 諸君、この剣聖に手合わせしてもらえ!」


その言葉に、兵達はいよいよ歓声を上げ始めた。

レオンは慌ててライアスに声をかける。


「おいおい、待ってくれよ、ライアス。さっき言いそびれたが、俺には悪魔王の呪いがかかってて、能力が封じられてまともに戦えないんだ」

「なにッ!?」


レオンの言葉に、ライアスは驚きの顔を見せた。

レオンの近くにいた兵達もその言葉を聞き、驚愕する。

兵達はざわめきながらお互いに声を掛け合う


「あ、悪魔王の呪い……って今言ってたよな……?」

「ああ、俺も今確かに聞いたぞ」

「す、すげえ……アイツの呪いかけられてんのか……」

「さすが剣聖様だ……」


兵達は感嘆の声を上げつつ、レオンを見ていた。

あの悪魔王を撃退し、更にその呪いを受けてもなお生きている英雄に、誰もが感銘を受けていた。

レオンはライアスと兵達に視線を向けつつ話す。


「そんなわけだから、手合わせとか、手ほどきとかはちょっと無理だ。すまん」

「そうだったのか、こちらこそすまない、レオン」

「いいんだ。……ああでも、エステルがいれば何とかなりそうではあるけど……」


レオンはそう言いながらふと視界の隅に視線を向けた。

訓練広場の出入り口には二人の人物がこちらを見ながら立っていた。

その人物はエステルとソフィだった。

レオンはエステルに向けて、呼びかけるように声を掛けた。


「エステル! ちょうどいいところに! ちょっと皆に剣を教えてやりたいから、解呪の魔法をかけてくれないか!」


その言葉を聞き、ライアスと兵達は皆、エステルの方へと視線を向けた。

エステルは皆の視線を受けながら、レオンの方へと歩き始めた。

優美に歩くその姿に、誰もが目を釘付けにされる。

ソフィはその場から動かず、兵達同様にその視線をエステルに向けていた。

エステルがレオンの横まで来た所で、レオンはそこで思い出したように兵達に声をかけた。


「あ、みんなすまない。紹介しておくよ。こちらは五代目聖女のエステルだ」


レオンはエステルに手のひらを向けながら兵達に説明すると、皆がその視線をエステルに向けた。

だが、兵達の表情は少しだけ暗かった。

理由は不明だが、真っ赤に目を腫らした聖女のその姿に、誰もが心配の表情を浮かべていた。

エステルはそんな彼らに向けて、姿勢を正し、信念を持った言葉で強く語りかけた。


「ご紹介に預かりました、五代目聖女。エステルです。

多くの人々が希望を失いつつありますが、私は必ずこの大地に平和を取り戻す所存です。

ここにいる剣聖と共に、私達は必ず悪魔王を討伐します。

希望を持って、私達を見ていてください」


その言葉を聞いた兵達は、先程まで浮かべていた不安な表情は全く無く、期待を込めた表情でエステルを見ていた。

レオンは頷きながらエステルに声をかける。


「ありがとう、エステル。本当に頼りになるよ」

「はい。共に頑張りましょう」


エステルはレオンに笑顔を向けた。

そんな中、ライアスがエステルに声をかけた。


「力強いお言葉、深く感謝します、エステル様。しかし、お体の具合が優れないご様子。どうかご無理はなさらない様に……」


気を遣ったライアスがそう言うと、兵達は改めて不安げな表情でエステルを見つめる。

エステルは兵達とライアスに向けて言う。


「いえ、大丈夫です。体調が悪い訳ではありません。この目には少し事情があるのです」


エステルのその言葉に、レオンもまた同調するかのように言葉を続ける。


「ああ、これも悪魔王のせいなんだよ。奴の呪いにやられてしまってね」


レオンのその言葉に、兵達は憤り始める。


「悪魔王……!」

「許せないな……!」

「俺達の聖女様を……!」


悪魔王に怒りを向ける兵達。

だが、ライアスは少し微妙な表情を浮かべていた。

また、エステルは何かを言いたそうな表情でレオンを見ていた。

何故かレオンはうまくフォローが出来たと言わんばかりの、自慢げな表情を浮かべていた。

レオンはそのまま近くにあった訓練用の木剣を手に取り、エステルに話しかけた。


「じゃあ悪いんだけどエステル、ちょっと頼むよ」

「はい、杖がないので簡易的な魔法になりますが、訓練なら十分だと思います」


エステルはそう言うと、手をレオンの方に向けた。

その手はすぐに光を放ち始め、誰もがその光を注視し、神聖な輝きに目を奪われていた。

そんな中レオンは目を閉じ、呼吸を整え、静かに待っていた。

そして少しずつ光は大きくなり、いよいよ眩い光となった頃、エステルは静かに呟く。


「……クリアランス」


その言葉とともに、光はレオンへと向かっていった。

光がレオンにぶつかると、今度はレオンの体が強い光を放ち始める。

その光は徐々に輝きを鎮めていき、最後には静かに消えていった。

エステルはレオンに向けて言う。


「出来ました。私は向こうで見ていますので、どうぞ始めてください」


エステルはそう言うと、ソフィの元へと戻っていった。

エステルがソフィの元に戻った頃、レオンは深く息を吐き、そして目を開けた。

兵達が皆、レオンのその目を注視する。その目を見た彼らは、誰もがその表情を険しくした。

鋭い眼光を放つその目は、先程までとは全く異なる雰囲気を放っており、その目を見た者は皆、無意識の内に身構え始めていた。

そしてレオンは静かに口を開き、語りかける。


「……待たせたな。誰から始める?」


そう言いながら、レオンは軽く木刀を振った。

そう、軽く振っただけのはずである。

だが、その木刀はまるで、金属の剣を振るったかの様な鋭い音を響かせながら、空間を断ち切っていた。


誰もがレオンの動作に目を見張っていた。

レオンの起こす一つ一つの所作が、只人ではない事を、その場にいる全員に感じさせていた。

この場にいるものはそれなりに死地をくぐり抜けた歴戦の勇士達である。

故に、彼らは直ぐに理解した。

眼の前にいるこの人物は、紛れもなく『剣聖』であると。


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