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六話「さっきの人」

レオンとライアスは砦の中を二人で歩いていた。

レオンはキョロキョロと周りを見ながら言う。


「中も広いなあ、この砦」

「重要拠点だからな。防衛費がジャブジャブ掛けられてるってワケよ」


二人で会話しながら砦内を歩いていた時だった。

背後から一人の兵士が声を掛けてきた。


「ライアス様、本日の訓練も滞り無く終了しました」


敬礼を取りながら兵士はライアスに向けて話しかけてきた。

ライアスは表情を整え、兵士に返事をする。


「うむ。ご苦労。しっかり休めよ」

「はっ!」


兵士は返事をすると、その場から立ち去っていく。

立ち去る兵士を見ながら、ライアスは思いついたようにレオンに話しかける。


「そうだ、レオン。ちょっと時間をくれないか? 兵達にお前を紹介したいんだ。士気を上げたくてな」

「ん? ああ、構わないが……」


レオンが返事をするなり、ライアスは立ち去っていく兵士の背に向けて声を掛けた。


「待て! 少し頼みがある!」

「はっ! いかがいたしましたか?」


呼び止められた兵は振り返り、ライアスへと向き直った。

ライアスは兵に向けて話す。


「皆を……そうだな、訓練広場に集めてくれないか? 全員に伝える事がある」

「承知しました!」


兵はそう返答すると、すぐにどこかへと走り去っていった。

レオンは兵を見ながらライアスに向けて語りかける。


「なあ、大丈夫か? 一応俺は犯罪者という事になってるんだが……」

「心配するな。むしろ兵達の間じゃお前は伝説の存在だよ。王家やお偉いさん達はえらくお前を憎んでたけどな」

「ああ……そうだろうな……」


レオンは無意識にかつての裁判の記憶を思い出そうとしていたが、雑念を振り払うかの様に一呼吸し、自身を落ち着かせた。

ライアスはそんなレオンの様子を見ながら語りかけた。


「中でも陛下……お前にはアトラス王子と言ったほうが伝わるか? とにかく陛下はお前をかなり恨んでいた……」


そう語るライアスに、レオンは何も言えなかった。

ライアスは続けて語るが、少し様子が変わった。


「でもな、妙なんだよ……」

「妙……?」


ライアスは顎に手を当てながら考えるかの様に語る。


「何と言うか、お前の話をした途端に人が変わるというか……。陛下だけじゃない、他のお偉いさん方もそうだ。中には普通にレオンの話をする方々もいるんだが、変わる人は急に態度が変わっておかしくなるんだよ」

「そうなのか……」

「……あれは一体何なんだ? どう見ても普通じゃないぞ」


ライアスはレオンに向けて問いかける。

レオンは一呼吸置いた後にライアスに答える。


「ああ……。明日ソフィさんを加えてまとめて説明するよ。まあ、簡潔に言うとそれも悪魔王の呪いのせいだ」

「なるほど……わかった。明日まとめて聞こう。とりあえず兵達に顔を見せてやってくれ」

「ああ。行こうか」



-------------------------------------



砦内の手洗い場にて、エステルは濡らしたタオルを顔に当てていた。

ソフィはそんなエステルの様子を見つつ話す。


「どう? 落ち着いた?」


ソフィに声を掛けられ、エステルはタオルを顔に当てたまま話す。


「うん……良くなった」


エステルのその声を聞き、ソフィは安心した声で話し始める。


「よかったよかった。急にギャン泣きするからびっくりしたよ」


エステルは変わらずタオルを顔に押し当てたまま、話し続ける。

普段の聖女の振る舞いとは異なり、普通の年相応の女の子の様な話し方で、タオル越しのこもった声をソフィにかける。


「うん。ごめんね。いつもはこうじゃないんだけど」

「まあでもちょっと懐かしい感じしたかも。エステルってすぐ泣くから」

「……しかたないじゃん。ずっと会いたかったんだもん」

「うん。僕もそうだったから、泣くほど喜んでくれるのは嬉しいよ」


ソフィにそう言われ、ため息を吐きながらタオルを顔から離すエステル。

エステルの顔を見ながらソフィは言う。


「うわあ、目真っ赤だね。泣くといつもそうなるよね」

「目がしょぼしょぼする……」


目を赤く腫らしながら、エステルはうつむき、呟く。


「はあ……こんなに泣くと思わなかった……」

「やっぱりディヴィニアの生活って辛かったの?」

「うん……めっちゃ辛かった……」

「大変だったねえ。よしよし」


ソフィはそう言いながらエステルの頭を撫で始める。

エステルは目を細めながらソフィに言う。


「ん~、撫でるのはもうちょっと力強めに、スピードをもうちょっと早く」

「ええ、注文多いな~」


ソフィはそう言いながらもエステルの指示通り手を動かす。

エステルはソフィの手の動きを感じ取りながら話す。


「あ~そうそう。結構おじいちゃんに近いかも」

「そりゃ光栄だあ」


ソフィとエステルは和やかに笑みを浮かべながら会話を続ける。

お互いにリラックスし、ソフィはエステルの頭を撫でつつ、エステルは頭を撫でられつつ、脱力しながら話す。


「頭撫でるの上手い人多くて助かる~。レオン様……レオンさんもめっちゃ撫でるの上手いんだよね~」

「レオンさん? だれそれ~?」

「さっき私と一緒にいた人だよ~。五代目剣聖様なんだけど、私の頭撫でるのめちゃくちゃ上手いんだよね~」

「あ~。さっきの人か~。雰囲気エステルのおじいちゃんに近いかも~」


エステルとソフィはしばらくの間変わらず脱力しながら話を続けていた。

が、少し経ってから、ソフィが手の動きをピタリと止めた。

そして、エステルに問いかける。


「……え、ちょ、今なんて?」

「あ~。もっと撫でてよ~」

「いやいやいや、今なんか言わなかった?」

「ん~?」


相変わらず脱力するエステルに対し、キビキビとした動きを取り戻すソフィ。

少し緊張感のある表情でエステルに問いかける。


「え? 今聞き間違えた? 剣聖とか言ってなかった?」

「ん? 聞き間違えてないよ~? 五代目剣聖様だよ~」

「え、ちょ、え。いやいやいや。え?」


さも当たり前のように答えるエステルに、信じられない物を聞いたかの様に目を見開くソフィ。


「え、エステル? マジで言ってんの?」

「え? ……あっ」


急に様子の変わったソフィを見て、改めて事の重大さに気がつくエステル。

慌ててエステルはソフィに話しかける。


「そうだった!! 剣聖様と出会ったの!!」

「いやいやいや!! そうだったとかじゃないでしょ!?」


慌てた様子のエステルに対し、ソフィもまた慌てた様子でエステルに問いかける。


「え、マジなの!?」

「うん、マジだよ!! 本物の剣聖様だよ!」

「いやいや、こんな事してる場合じゃないでしょ!? ちょ、今からでも会いに行こうよ!!」


ソフィはエステルの手を引き、手洗い場を離れようとした。

その時、エステルは手を引かれながら話す。


「あ、ちょっと待って、今泣き終わった後だから目が……あんまり見られたくないかも」

「そんなのいいでしょ!!」



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