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七話「聖槍」

『炎よ……炎よ……! 我が元に集まり嵐となれ……!』


町の出入り口付近にて。

既に出入口の状況は壊滅的であり、何人もの自警団が倒れていた。

そんな中、青いローブを身にまとった、魔導士と思わしき風貌の初老の男性が、木の杖を掲げ魔法を唱えていた。

彼の視線の先には、出入り口の外からやってくる多数のオーガと、それを抑えようと奮闘する自警団の戦士達。


「くそ!! くそおッ!!」

「くたばれ、くたばれよ、このデカブツ共ッ!!」


戦士達はオーガが振り回す巨大な棍棒に当たらぬように立ち回り、

スキを突いてはハンマーや斧で攻撃するが、いずれの攻撃も効かず困窮する。

戦士達はオーガから少し距離を取って叫ぶ。


「ちくしょうッ!! 全然びくともしねえ!」

「爺さん! 魔法はまだか!?」


戦士の一人が魔導士に向けて声を上げた。

魔導士は声を上げた戦士に向かって少し頷くと、杖をオーガに向け、声量を上げて叫んだ。


『第七次元魔術、ファイアストーム!!』


その声とともに、炎の竜巻が出入口を封鎖するかのように舞い上がる。

数体のオーガがその竜巻に巻き込まれ、姿がかき消されるかのように飲み込まれていく。

それを見た戦士達は期待のこもった声を上げる。


「やったか!?」


しばらく経つと竜巻は収まり、そして巻き込まれたオーガ達の姿が露わになっていく。

巻き込まれたオーガ達は、まるで何ともなかったかのようにその場に変わらず立っていた。

戦士達はその姿を見て驚愕の声を上げる。

 

「だ、だめだ、クソッ! クソおおおおッ!!」


業を煮やした戦士の一人がやぶれかぶれに突っ込むが、やはりオーガの攻撃に翻弄される。

オーガがおこなっている事としては技術も何もない、ただ巨大な棍棒を振り回すだけの動作であるが、

ただそれだけの動作ですら人間にとっては驚異的な攻撃となる。

オーガには打撃も斬撃も魔法も効かないが、オーガの攻撃は人間が一撃食らえばそれだけで即死する。

戦士達も魔導士も手は尽くしているが、結局はただオーガ達が暴れ回るのを見る事しかできなかった。


「くそっ、てめえらッ、そっちに行くんじゃねえ!」


オーガ達は目の前の人間が脅威でない事を悟ると、町の中へと進んでいく。

そして、町中へと向かうオーガ達に戦士が向かうと、それを守るかのように別のオーガが戦士の行く手を阻む。

こうして出入口は封鎖できないまま、もう既に多数のオーガが町中になだれ込んでいた。

だがそれでも戦士達と魔導士は死力を振り絞り、立ち向かう。


『雷よ……雷よ……! 我が手に結し、敵を伝い、討ち滅ぼせ……!』

「こっちだ! デカブツ!」


魔導士が詠唱を開始し、戦士達はそれを守るかのようにオーガを引き付け始めた。

一人の戦士が、町中に向かおうとするオーガの前に立ち、オーガの大ぶりの攻撃をかわしながら斧で攻撃を与える。

当然の如く筋肉の鎧に阻まれダメージこそ与えられないが、その代わりオーガは足を止め戦士に注視した。

連携の取れた動きで前衛が陽動と攻撃をおこない、後衛が高威力の魔法を叩き込むという、

統率された上級者パーティの様な動きでオーガ達に立ち向かっていく。


『第七次元魔術、チェーンライトニング!!』


魔導士がそう叫ぶと、杖の先端から一匹のオーガへ向けて電撃が走り、さらに別のオーガへと電撃が走っていく。

雷で出来た鎖のように電撃が次々と走っていき、オーガ達の動きが止まる。


「や、やったか!?」


今度こそ効いた、そう思い期待の声を再び上げる戦士達。

だが、それも一瞬の事であった。

オーガ達はまるで何も起こらなかったかのように再び進撃を始め、

そして戦士達と魔導士に向かって棍棒を構える。

戦士達は落胆と苛立ちが混ざった声を上げる。


「これでもだめなのかよッ!」

「ちくしょうッ!! ちくしょうッ!!」

「むぅ……ここで終わるのか……」


皆、もはやこれまでかと諦めの表情が浮かぶ。

その時だった。


『ホーリーライト!!』


突然背後から伝わってきたその叫びと共に、

一筋の光が戦士達の横を通過し、その先にいるオーガに命中した。


「な、なんだッ!?」


戦士が驚きの声を上げると、その光を受けたオーガは悲鳴を上げることも無く倒れ込んだ。

それを見た近くにいたオーガ達は怯み、進撃を止めて警戒を始める。

戦士達と魔道士は倒れたオーガを見ながら声を上げる。


「い、一撃で倒せたぞ!!」

「今のは……? 神聖魔法のようだが……」


戦士達と魔道士は後ろを振り返り、その先にいる人物を見て問いかける。


「あ、あんた、さっきの……」

「あの後帰ったんじゃなかったのか……」


戦士達は視界に入った人物の姿を見て、先程団長と揉めていた女性である事に気付く。

魔道士は何も言わず、女性の姿をまじまじと観察する。

その女性は落ち着いた様子で皆に語りかけた。


「細かい話は後にしましょう。まずはこの場を制圧します」

「あ、ああ……けどよ、これじゃあ数が多すぎてよ……」

「大丈夫です。私の大魔法なら倒せると思います。詠唱を開始しますので、援護をお願いします」


女性は力強い言葉と眼差しでそう答えた。

一撃であのオーガを倒す程の手練れの魔道士であれば、

もしかしたらその言葉は嘘ではないのかもしれない。

そう思わせる様な可能性を戦士達は感じ取っていた。


「まさか、さっきのより強い魔法があるのか……?」

「……わかった、敵を引きつけよう」


もはや他に打つ手も無い戦士達には、その女性の提案を受け入れるほか無かった。

だが、それは決して荒唐無稽な策では無いと、

そう思える強い意思を女性の眼からも感じ取っていた。

戦士達と魔道士は改めてオーガの方へと向き直し、構えを取った。


「わしの攻撃魔法は効かぬ様だ。補助に徹して時間を稼ぐとしよう」

「ああ、頼んだ、爺さん」


魔道士と戦士達が話し始めたところで、オーガ達が動き始める。

オーガ達は強力な魔法の使い手であろう女性めがけ、突撃を開始した。


「来るぞ! 押し返せ!」

「爺さん、魔法を!」

「うむ! フィジカルエンチャント!」


魔道士の叫びと同時に、戦士達の体が一瞬虹色の光に包まれる。

そして間髪いれず、素早い動きでオーガ達へ向かっていく。


「くらえ! バケモノ共!」


戦士達が掛け声とともにオーガに攻撃を加えていく。

変わらず戦士達の武器がオーガの皮膚を貫くことは無いが、

オーガは女性に向かう事が出来ず、足止めを食らっていた。

そんな中、女性の魔法の詠唱が始まった。


『女神、愛しき女神よ。我らの安寧を乱す者、此処にあり』


その詠唱を聞いた瞬間、魔道士は眼を見開いた。

すぐさま後ろを振り向き、女性の方へと視線を向けて呟く。


「い、今の冒頭文は、まさか……!」

「爺さん! よそ見しないでくれ!!」

「頼む、魔法を!」

「す、すまぬ……! シャープネス!」


戦士達に声をかけられ、慌てて補助魔法を行使する魔道士。

だが、再びすぐに女性の方へと視線を向けた。


『女神、愛しき女神よ。怒りに震える我らに力を与えん』


魔道士の視線の先では、女性の体の周りに青白い光が絶え間なく収束していた。

そして、女性の体がゆっくりと宙に浮かび上がっていく。

その姿を見た魔道士は悟ったかのように呟く。


「あ、ああ……! これは、これは……!」

「爺さん! よそ見すんなって……え?」


一人の戦士が苛立ちながら後ろを振り返るが、振り返った先の光景を見て唖然とした。

その視線の先には、宙に浮かび上がる女性と。

その周りに展開された幾重にも連なる無数の光の槍があった。


『その目に映るは我らの憤怒』


オーガ達も、その光景に圧倒され動きを止めていた。

戦士達も同様に後ろを振り向き、その光景に眼を奪われていく。

皆が視線を向ける中、やがてその無数の光の槍は、ゆっくりとその矛先をオーガ達へ向けていく。


『その身を貫くは無慈悲なる女神の神罰』


魔道士は、この間に思考を巡らせた。

眼の前で起こっている事が何なのか、理解しようとしていた。

魔道士は、これが何なのかを知っている。

だが。書物でしかその存在を知らず、その目で見た事は無い。

だが。確実に。これが何なのかを知っている。


『女神を畏れぬ背徳者。その魂が天に還る事は無い』


魔導の道を歩む者なら、誰もが一度は夢見る魔導の極地。

だが、誰もが自身の無才に気付き、その夢を諦める。

天に恵まれた才を持ち、その才を無心に磨いた者だけが辿り着ける至高の領域。

もはや見る事叶わずと思っていた奇跡にも近いそれが、魔道士のすぐ目の前で起ころうとしていた。


女性は青く輝く氷の様な眼で、最後の言葉を放った。


『一切の慈悲も無し。第十次元神聖魔法、聖光槍雨≪ディヴァイン・ランスフォール≫』


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