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五話「人々への決意」

「おや、お帰りお父さん。お嬢さんもか。いい町だったろう?」


レオンとエステルが宿に戻ると、主人が昨日と同じく明るい笑顔で出迎えてくれた。

だが、レオンとエステルの表情は暗い。

主人の問いかけにレオンは静かに返事をする。


「ああ……そうだな、良い町だと思うよ……」

「おや? なんかあったのかい?」


明らかに宿を出る前と様子が違う二人に気付き、心配そうな表情になる主人。

レオンは暗い表情のまま主人に返答する。


「いや、大丈夫だ……ちょっと旅の疲れで……」

「そうかい。休憩が必要なら延泊も出来るよ」

「いや、予定通り昼には出るよ……」

「あいよっ。体調管理はしっかりね!」


主人に見送られながら、二階へと上がっていくレオンとエステル。

二人は何も言わず静かに部屋の前へと進んでいった。

部屋の前に着いた所で、エステルが口を開く。


「準備が済んだら、オーガを討伐しに行きましょう」


静かに、しかし意志のこもった声でレオンに語り掛けた。

レオンもまた、同じく意志のある声でエステルに返す。


「ああ。もちろんだ」


レオンがそう言った所で二人は各々の部屋に戻り、出発の準備を始めた。

オーガを必ず討伐する。二人の意志は全く相違なく合致した。



----------------------------------



「鍵を返却いたします。お世話になりました」


荷物を整理し終わり部屋を出て、主人に部屋の鍵を返そうとエステルが主人に話しかけた時だった。

主人はエステルとレオンに問いかけた。


「なあ、聞いたよ。アンタら、偽物なんだってな?」


主人のその言葉を聞いたレオンとエステルは一瞬、心臓の強い鼓動を感じた。

何も言わない二人に主人は続けて語る。


「お嬢さん、すげえ美人だよな。そうやって人の気を引いて、騙してんだな。アンタは」

「わ、私は……」

「何とも思わねえのかい? オーガに家族を殺されてるやつだっているのによ」


気まずい表情で固まる二人に、主人は苛立ちの様子を表情と語気に含めながら語る。


「俺も前にそれなりの金払ったんだ。女房がやられてよ。宿の受付は元は女房の仕事だったんだ」


怒りや悲しみなど、色んな感情が混ざった表情を浮かべながら主人はそう語った。

そんな主人に二人はもはや何も言えず、頭を下げて宿を後にした。


宿を出ると、道行く人々がレオンとエステルに視線を向けた。

二人の顔を見るなり、ひそひそと話し始め、鋭い視線を向ける。

二人はその視線に耐え切れず、目を背けるように下を向く。

エステルは何かを言いたそうに拳を握りしめるが、

何も言える状況でもなく、ひたすらに歯がゆい表情で下を向きながら歩いていく。

レオンはそんなエステルの肩を軽く叩いた。

お互いに言葉は交わさず、そのやり取りだけをして無言で町の出口へと向かった。


だが、何も言わないレオンではあったが、彼の心は既に決まっていた。

人々の視線を避け、下を向きつつも、彼の目には強い意志が宿っていた。



----------------------------------



「オーガの住処を探しに行こう、エステル。地図は持ってるかい?」


町から少し離れた平野にて、レオンはエステルに問いかけた。

だが、エステルは地図を取り出そうとはせずに、呟き始めた。


「……私、悔しいです」

「エステル……」


拳を握りしめ、震えるエステル。

震えながら言葉を続ける。


「本当は、レオン様は強いのに……!」

「エステル、もういいんだ。オーガを倒せばすぐに解決するさ」

「解呪を使えばきっと皆さんもレオン様の強さをわかってくれます、今からでも……」

「いいんだ、エステル。そんなのは身体強化の魔法でも似たような事は出来るだろう。

それだけじゃ彼らの信頼は取り戻せない。

この町の人達に必要なのは強さの誇示じゃない。オーガを倒す事さ」


レオンに諭され、握りしめた拳を解くエステル。


「そうですね、ごめんなさい……。私らしくなかったです……」

「俺のために言ってくれたんだろう? いいんだ。さあ、オーガを倒しに行こう」

「はい……」


エステルは改めて背中に背負ったカバンから地図を取り出し始める。

取り出された地図が広げられ、レオンはその地図の一部を指さしながら語る。


「おそらくだが、オーガの巣はこの辺なんじゃないかな? 奴らは森に拠点を構えるんだ」


レオンは地図上の森の記号が示されたあたりを指さしていた。


「そうなのですね……。ですが、この位置だとちょうどここから町の反対側ですね」

「町に戻って反対側の出口から行ったほうが全然近いな……。失敗したな。

町にいるのが気まずすぎてその辺を考える余裕がなかった……」

「そうですね……慌てて町を出てきてしまいましたが……もう一度町に戻りましょうか?」

「その方がいいかもしれないな。ここから遠回りする余裕はあんまり無いし、戻ろう」


二人はそこまで話すと、改めて町の方向へと向きを変え、改めて町へと歩き始めた。

その時だった。


「レオン様……? あの煙……」

「あれは……?」


町があるであろう位置から、煙が高く上がっていた。

実際に町中で何が起こっているかは今いる場所からは分からないが、少なくとも何らかの非常事態が起こっており、

それを知らせるための発煙筒が発火されたのであろうと推測がついた。


「……まさか、オーガか!?」

「町が襲撃されているのでしょうか……!」


町の方角へと意識を向けると、様々な音が微かに聞こえてきた。

金属がこすれあう音、何かがぶつかるような衝撃音。

そして、人の叫び声らしき音。

明瞭に聞こえはしないが、意識を向ければ町で何が起こっているのか分かるような音が、確かに聞こえてきた。


「……エステル! 俺に魔法をかけてくれ!」

「はい、レオン様!!」


レオンは背中の大きなカバンを地面に下ろし、腰の剣を引き抜いた。

引き抜かれた剣は、煌めく光を放ち始めた。

そして同時にエステルが杖を高く掲げ、詠唱を開始した。


『我が声が聞こえるでしょうか。愛しき女神。我らの希望よ』


レオンは目を閉じ、思い浮かべた。

何故助けてくれないのかと嘆く少年の、悲痛な叫びを。

家族を奪われ、悲しむ人々の声を。


『穢れ無き魂が今、呪縛に苦しみ嘆きの声を上げています』


この町では多くの者が救いを求めていた。

しかしそれらは決して叶わず、誰もが悲嘆に暮れていた。


『どうか、彼らを解き放つ鍵をお与えください』


そんな人々の目を、レオンは思い浮かべていた。

レオンは強く想った。


『救済の光となる純白の鍵を、我らにお与えください』


彼らを救いたい。そう強く思った。

剣から放たれる光はレオンの意志に鼓動するかのように輝きを増していく。


『魂の鎖を解き放つ、貴方の光を』


剣聖としての使命を果たす。

レオンは光り輝く剣を強く握りしめ、強い意思を持ち、祈りを込めた。


『全ての魂に救済あれ。第十次元神聖魔法、解呪≪クリアランス≫』


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