表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

川底の死体

作者: セロリ

幅約15メートルの川に架かる橋を渡っていたとき、橋の上から、死体が見えた。底の浅い川に寝るそれはうつ伏せで、上流から来る水を受けて白い髪がなびいている。

肝が冷えた。川の上に架かる橋の欄干に両手を置いて身を乗り出す。本当にそれが死体であるかどうかを確認するために、目を凝らす。日が沈み始めて出来た闇に輪郭を曖昧にさせられた死体は、よくよく見れば川沿いから覗き込むように並んだ木々から落ちたであろう太く長い枝だった。水流になびく白髪は、枝に引っかかったビニールから成るものだった。

「ああ、よかった」と、そう思った。川底に横たわる死体も、死体を無視する通行人もいなかったのだ。ただ自分一人だけが、偶然そこにあった木とビニールに死体を投影していただけだったのだ。安心して欄干から手を離し、橋を渡った。


それからひと月経った。出先からの帰り道、再びあの橋を渡る。約28日ぶりに見下ろす死体は、腐敗したように色は黒ずんで崩れていた。枝には大きな変化はなく、だが色は黒に近づいており、こちらを見て口を開いているようにも見える。白髪のようだったビニールはそのほぼ全てが流れ去り、残った僅かな欠片たちも暗い深緑を纏っている。本物の死体がどうであるかは知らないが、きっとそれに比べれば川底のそれはゆっくりと、しかし確かに腐っていくのだろう。

川底に死体があるように見えたのも、ひと月経って腐敗したそれがこちらに何かを言おうと口を開いているように見えるのも、全ては自分一人が投影したものだったのだ。最も恐ろしいものはやはり、想像力なのだろう。欄干から手を離し、最後に枯れ木を見つめ、橋を渡った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ