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第八十一話 特異点

 どうして世界は分岐してしまったのか。俺には心当たりとなるものが二つあった。

 その二つを確認するために、前回までと同様雫と出会い、一緒に暮らすところまで話を持って行った。

 まずは一つ目を確認する目的で、俺は二人に断りを入れて単独行動をすることにした。

 最初は驚いていた二人であったが、『女性二人の方が弾む話もあるだろう』と言うと、なんとか納得してくれた。


「さてと、聞き込み調査を開始しますかね」


 心当たりの一つ目。それは、夏白島で近づいてはいけないと言われている木に囲まれた小高い丘のことであった。

 なぜ近づいてはいけないのか。その理由こそが、世界の分岐に関わっていると考えた。


「すみませーん、ちょっとお尋ねしたいことがあるんですが、よろしいでしょうか?」

「ここらじゃ見かけない顔だね。どうかしたのかい?」

「この住宅街の奥にある別荘の者です。この夏白島のことについて研究をしておりまして、少しお話を伺いたいのですが」

「ああー! あそこの別荘の人だったのね。いいわよ、ちょっとお待ちなさい」


 古くからこの島にありそうな由緒ある家のインターホンをならし、直接話を伺うことにした。

 別荘に住んでいる人の近所付き合い。それも、夏白島を知りたいという理由であれば、怪しくは思われないはず。

 研究と言う理由づくりに関しては雫に感謝だな。


「おはようございます。別荘に滞在することになった八雲隼人と申します」

「あら、ご丁寧にありがとう。立ち話もなんだから、家の中に入ってちょうだい」

「ありがとうございます」


 住民の方に招き入れられ、家の中へ入る。家の中にはたくさんの写真が飾ってあり、中には白黒の写真まである。まるでこの島の歴史を見ているかのようであった。


「写真が気になるかい?」

「はい、昔から随分と栄えていたんですね。てっきり、最近のことだと思っていました」

「それがそうでもないのよ。この夏白島はねー、ずっと昔から栄えていたの。それも、当時の最先端をいっていたのよ」

「不思議ですね。どうしてこんなにも栄えているのでしょうか?」

「それが誰にも分からんのよ。この島に神社があるけどね、その神社の御利益は航海安全が主なのよ。漁に出る人たちの安全を願って昔建てられたそうだからね。発展とは関係ないはずなのよ。私もこんな離島がなぜ栄えているのかさっぱり分からないわ」


 この島の人にとっても、夏白島が栄えている理由は分からないのか。だとしたら……あれは一体何だ?


「すみません、気分を害したら申し訳ないのですが、別荘の奥にある小高い丘については何かご存じですか? 近づいてはいけないと言われているもので」

「あー、あそこね。興味本位で近づいちゃ駄目よ。この島の禁忌とかではないんだけどねー、あそこは魔力濃度が高いのよ」

「魔力濃度、ですか?」

「そうなのよ。魔力濃度が高いから、あの丘に近づくと気分が悪くなっちゃうのよ。そういう意味で近づいたら駄目ってわけ」

「あそこには何かあるって話は聞いたことがありますか?」

「いやー、ないわね。あそこは地元の人でも一部しか知らないし、中に入れるほど強い人もいないからねー。この島に古くからいる出雲いずもさんなら、何か知ってるかもしれないわ」

「そうなんですね。ありがとうございます。それじゃあ、他の話も聞いてもよろしいですか? もっとこの島について知りたいんです」

「大歓迎よ! 最近は島の子も歴史を知ろうとしないからね。私が知っていることを教えてあげるわ!」


 俺はお茶をもらいながら、一時間ほど談笑をした。話を聞いて分かったことは、おかしなところはあの魔力濃度の高い丘だけ。

 話を終えた俺は挨拶をすると、別荘まで戻ることにした。


「うーん、怪しいのは怪しいが、世界の分岐とは関係ない気がするんだよな。おばあちゃんも、この島でおかしなところは栄えていることだけって言ってたしな。……だとすれば、本当に信じたくないが、二つ目の可能性の方が高いか。この島にとってのイレギュラーは、観光客の方だもんな」


 別荘に戻った後は、三人で一緒に遊園地に行った。それから数日間は、今までと何も変わらない日々を過ごした。

 一夏の思い出。何度夏を繰り返そうが、俺たちの思い出は変わらない。


---


 夏白島六日目。


 雫と出会って五日目。今日はパワースポットを巡った。


「こんなところに神社があるとは思いませんでした。それも結構立派ですね」

「……今は誰もいないみたいだし、ひとまず参拝をしようか。雫、お金はあるか?」

「はい、大丈夫なのです。小銭入れは失くしていませんから。えっと、五円玉、五円玉……」


 五円玉を探している雫、その手には小銭入れ。俺の推理が間違っていなければ、きっとあるものが入っているはずだ。


「雫、あそこにあるものって何だろうな?」

「えっ? あそこにあるものですか?」


 視線を誘導して、小銭入れから目を逸らさせる。次の瞬間、


「おらよっと!」


 俺は小銭入れを雫から奪うと、辺りに中身をぶちまける。


「ちょっと!? 八雲先輩!? 一体何をしているんですか!?」

「八雲さん!? これはどういう……」

「二人とも動くな!!」


 いきなりの俺の怒声に二人の動きがピタっと止まる。雫を見つめると、その体が徐々に震えだした。

 俺は固まっている二人をよそに、落ちている小銭を確認する。……本当に、入っているとはな。


「何してるんですか八雲先輩!! 雫が怖がってるじゃないですか!!」

「……夜月、俺が持っている十円玉を、左から順に確認してくれないか?」

「十円玉? それが一体どうしたって言うんですか?」


 訝しげな表情で俺を見ながらも、夜月は十円玉を受け取る。


「駄目なのです……待ってください!!」

「うん? 雫の様子がおかしいですね……確認してみますか。ええーと、昭和58年。平成6年、令和24年……令和24年!?」

「最後にこの十円玉を確認してくれ」

「……分かりました。ええーと、えっ? なんですかこれは!?」


 今までにないくらい目を開いて驚く夜月の手には……『青春あおはる37年』と書かれた十円玉があった。


「いつか十六夜が言ってたんだ。令和の次の元号は『青春あおはる』だってな。俺が並行世界の記憶を共有するようになった理由。すなわち、世界が分岐した理由。雫が、何度も過去にタイムリープをしているからだ。そうだろう? 未来人・・・の、雲雀雫」

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