第二十九話 来るべき明日へ向けて
いよいよアンノウンの正体判明が明後日に迫った今日。俺たちは一日中警戒しながら行動していたが、長内のスキルにも夜月の探知能力にも引っかからない。俺としては無事に任務が終わるに越したことはないと思っているが、相手が仕掛けてくるかもしれないという緊張感がずっと続くのはかなり疲れる。
みんなも口には出さないが、疲れが表情に薄っすらと出ているように感じる。襲ってくるのであれば、早く襲ってきて欲しいものだ。
「一体どんなものが待ち受けているんでしょうかね? ちょっとアンノウンの正体を予想してみませんか? 私は武器ではないと思います。魔道具は武器ばかりではありませんからね。特級魔道具にも武器以外のものがあってもいいと思いますよ」
「俺からしたら、何の能力もいらねぇけどな。あんなやばそうな能力を持った魔道具がこれ以上増えたらたまったもんじゃねぇぜ」
「うちは新たな物質とか発見されて欲しいわね。そしたら、うちらの名前とか付けれそうじゃない?」
「あんな魔力を持った新しい物質が出てきてたまるかっての。あたいは無難に武器だと思うな」
「我もそう思う。あんな厳重に保管されているのであれば、間違いなく危ないものに決まっているのである。長内は何だと思うか?」
「俺は何でもいいさ。結局、俺たちが使うことはないんだろうしな」
「じゃあ、何だったら嬉しいのであるか?」
「……そうだな。過去に戻れる能力を持った特級魔道具とかかな。そしたら、お金を稼ぎまくれると思わないか?」
「そんなものが出てきたら、それこそ誰も使えねぇだろ。いっそのこと、実は魔力を封じ込めただけで中には何も入ってませんでしたーっていうオチの方が俺は嬉しいぜ」
俺たちは駄弁りながら決闘場へ向かっていく。来るべき日に備え、最近は毎日軽くトレーニングをしている。いつどこで襲われてもいい様に体をあっためているのだ。今日も決闘場へやってきた俺たち。さっそく準備運動を行い、戦闘に取り掛かる。
「それでは始めましょうか、八雲先輩」
「ああ、来いよ」
夜月が距離を詰めて近接戦闘を仕掛けてくる。夜月はブラフを使わない、強大な魔力と体術一辺倒のごり押しが特徴的なスタイル。素でも戦闘ランキング五十位以内の魔力量を誇る夜月へ対抗するためには先にスキルを発動しなければならない。
俺は【進んで戻れ】を発動。前回の時よりもスキル発動時の魔力が増している。ひたすらに特訓だけ重ねた成果を感じるな。練習と言えど、少しは本気を出さないと意味がない。夜月がどんどん攻撃のスピードを上げ、魔力を増幅させる。
俺はここ最近のトレーニングのおかげで魔力の質をさらに高めることに成功した。ある程度の魔力量の差ならひっくり返せるようになっている。それに、俺も相手の筋肉の動きを見ることや気配を感じたりなどの感覚が鋭い。体格や筋肉量の差もあってか、夜月の一方的な攻撃も受けきれるようになっている。それでも五十以内の魔力となると、流石に厳しい。
「夜月、終わりだ! これ以上は集中防御の上からでもダメージを食らっちまう」
「うーん、そうですか。本当はもっと本気を出したいですが、仕方がありませんね。私の近接戦闘をここまで的確に捌ける人って少ないですから」
「基礎的なスペックならかなり上位に位置してもいいと思うけど、相手が咲耶ちゃんなら仕方ないわね」
「結局はスキルと魔力量次第ってとこなのかね。スキルがもっと近距離戦闘向けで魔力量が多いなら、シングルにも行けると俺は思うけどな」
「逆にスキルと魔力量の差をここまで埋めれている八雲を褒めるべきではないか? それに八雲も体調が悪い状態であるならば、シングル並みの魔力になれるのであろう。我はシングルでもおかしくないと思うぞ」
「でもよー、その体調が悪いっていう条件が厳しすぎるんじゃねぇのか? 三十八度以上の熱を出さねぇと、シングル並みの魔力は出ねぇんだろ? そんな状態で正常な思考を維持し続けるのは難しいだろ。八雲の良さは機転が利くところでもあるんだかんよ。あたいは熱がある状態で八雲が今の夜月との動きができるとは思えねぇ」
長門の言う通り、熱を出した状態であるならば近接戦闘のキレの良さはなくなるだろう。相手の動きを的確に捌く判断力も鈍くなると思う。【不調で絶好調】があまりにも難しすぎるスキルなのだ。魔力量を優先するのか、その他の基礎的な能力を優先するのか、どちらか一つを選ばなければならない。
ゆえに、自分のスキルと向き合うということは他のスキルを上手く扱えるようになると共に、【不調で絶好調】の簡単な発動の仕方を模索しないといけないということなのだ。色々と試してみてはいるが、いまだに抜け穴的なものは見つけられない。敵がいつ来るかも分からない今の状態で【不調で絶好調】に頼るのはとても危険なことだろう。よって、今は初見殺しや別の魔力量を上昇させるスキルに頼らなければならない。
「だから今回、俺は【不調で絶好調】は使わない。十六夜の護衛が終わるまで自ら体調が悪くなるようなことはしない。【進んで戻れ】だけで戦っていくつもりだ」
「うちもそれがいいと思う。八雲のそのスキルってここにいるみんなと生徒会の方しか知らないんでしょ? だったら、大丈夫だと思うわ。必ず一回目は刺さるはずよ」
「それに俺たちには八雲の他にも桜庭や長門がいる。何より、夜月がいれば戦闘で困ることはないだろう。戦闘ランキング二位は力任せだけでなれるもんじゃないはずだ。どんな相手が来てもこのメンバーならいけると思っている」
「我もそう思う。今回、八雲はサポートに徹するのが一番であると思うのだ。【進んで戻れ】の性能がばれても、面倒くさい能力であることには変わりないであろう。サポートなら【不調で絶好調】が無くても活躍できるはずである」
俺の【進んで戻れ】は遠距離攻撃に適したスキルだ。スキルを発動中だけ魔力弾が戻ってくるという性質上、どうしても魔力弾を使った攻撃が必要となる。魔力の上昇量的にも近接戦闘に向いているスキルではないため、夜月や桜庭に前衛を任せて後ろからいやらしく攻撃するのが一番活躍できるだろう。
「そもそも、本当に近日中に襲ってくるのかしらね? だって、アンノウンの正体が判明するのは近日中だってこと、うちらしか分からないでしょ? このまま何とかなるかもしれないと思わない?」
「まあ、そのとおりではある。だが、アンノウンがこの学園にあることを知っているのがもとより研究希望者しかいない。研究希望者ならそろそろ解明されることを把握していてもおかしくはねぇだろう。逆に解明されたら終わりであるということも知っているかもしれねぇから、焦っている可能性が高い」
「私たちは敵が襲ってくるのであれば、研究希望者が関わっていると思います。この学園を卒業して成功するよりもアンノウンを奪って利益を得る方がいいと考える人もいるはずでしょうし」
「あたいはそんなやつが研究希望者にいるとは信じたくねぇがな。ま、世の中意外なこともあるもんだ。解明する日まで合わせて残り三日、精進していこうぜ」
これでとりあえずの俺たちというより俺の方針が決まった。この選択がどんな未来を持ってくるかは分からないが、今はこうするしかない。俺たちの気の抜けない時間は長く、今日も襲ってくることはなかった。生徒会に十六夜を引き渡した俺と夜月が肩を並べて寮に戻る。
「……いよいよ、あと二日か。夜月はどう思う?」
「私が仕掛けるなら間違いなく明日ですね。当日は警戒が強くなって、生徒会が参入してくる可能性がありますから。あちらもこのままでは駄目だと思っているはずですよ」
「だが、そうなればせっかくの解明のチャンスを逃すことになる。ということは、アンノウンの正体に興味がなく、特級魔道具という価値にしか興味がない連中の可能性が高いか」
「それか、十六夜先輩も含めて略奪する可能性ですかね。こっちの方が高いと思います」
「だよなー。どうする夜月? 俺の作戦でいいと思うか?」
「私は正直どうかと思っていますが、完勝するのであれば、それしか方法はないと思います。他に思いつきませんしね。ですが、本当に勝てるんですか? 【不調で絶好調】なしで?」
「勝てる算段はある。後は相手にもよるだろうがな。釣り糸は既に仕掛けている。相手が乗ってくるかどうか」
「……乗ってこなくてもいいんじゃないですか。安全に終わればそれでいいじゃないですか。それが一番じゃないですか……八雲先輩」
「分かってる。分かってるよ。でも、既に始まってしまっているんだ。決着はつけないと駄目だろう?」
「……私だって分かってますよ。けど、わざわざ誘うような真似をする必要があるんですか?」
「……ないさ。それでも、敵が学園にいるのに何食わぬ顔して過ごしていくわけにはいかねぇだろ? 俺たちも、もう後には引けねぇんだよ……」
「八雲先輩……分かりました。ただし、この責任は私も背負いますよ。先輩だけに抜け駆けはさせませんからね」
「……ありがとな夜月」
「いえ……他でもない、八雲先輩のためですから」
素直じゃなかった俺たちの言葉は、春を過ぎてようやく雪解けをしたようだ。胸の中が温かくなるのを感じる。迷いは既にない。東雲先輩が奪ってくれたから。覚悟も決まった。夜月が与えてくれたから。
「それじゃあ、みんなに電話をかけるな」
「はい、お願いします」
東雲先輩は俺のことを優しいって言ったけど、違うんだぜ。俺は甘ったれなだけなんだ。俺はこの日の夜、四人に電話をかけて、一人ずつ話し合いをした。来るべき、明日へ向けて。




