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第十九話 敵か味方か

「ああー、いい気持ちだな。マイナスイオンが漂っている気がするぜ」

「なんやかんや言って五月でも暑いですからね」

「流石に今から川に入ろうとしている愚か者は我ぐらいしかいなさそうであるがな。だが、着替えやタオルといった準備はばっちりだ。この気温なら風邪をひくこともないであろう」


 遠くで鳥の鳴き声が響き渡る。今俺たちは学園から少し離れた場所の渓谷近くにある川へ来ていた。ここは学園の中でも知る人ぞ知る穴場スポットで、夏には涼をとるために訪れる人が少しいるくらいの場所だ。

 この学園の近くには何もないため、遊びに行くときには足が必要となる。いくら学ぶことこそを本業としている学園側も生徒に息抜きはしてほしいと思っており、自転車の貸し出しを行っている。

 おかげさまで街まで行かないのであれば、このように自転車だけで事足りることもあるのだ。その代わり、移動で汗が出るのは我慢しなくてはならない。


「ああー、いい気持ちだな。マイナスイオンが漂っている気がするぜ」

「なんやかんや言って五月でも暑いですからね」


 遠くで鳥の鳴き声が響き渡る。


「……瞳術どうじゅつか!?」

「大丈夫だ。別に世界はループしてるわけじゃない。ただ、ちょっと呆けてて同じセリフを言っただけだ」

「デジャブを感じるととある忍者作品が頭に浮かぶのは完全に影響されてますね」

「ほとんどの人が通る道であるからな。仕方ないのかもしれぬ」

「……ああー、いい気持ちだな。マイナスイオンが漂っている気がするぜ」

「……なんやかんや言って五月でも暑いですからね」


 遠くで鳥の鳴き声が響き渡る。


「やはり瞳術ではないか!? どこから攻撃されているのだ!?」

「すまん、ちょっとふざけた。別に運命を決めたいわけじゃないから安心しろ」

「すみません、私もふざけてしまいました。そろそろ本題に入りましょうか」

「そ、そうであったか。あんまり驚かせるでないぞ。ふぅー、そうであるな。本題に入るとしよう。汝らも分かっていると思うがもう一度確認するぞ。今から我らがやる企画は、『最終的に水風呂入って外気浴すれば、サウナじゃなくてもととのうんじゃね?』である。こちらも準備は万全だ。温泉でよく見かけるインフィニティチェアもなんとか持ってこれたし、撮影機材もばっちりである」

「後はサウナの代わりに何をするかだな。そっちも一応は大丈夫だろう。色々と持ってきてはいる」


 俺たちはゴールデンウィークを使って動画撮影をしている。俺や夜月のアドバイスで変えられるところは変えていった結果、動画の再生回数やチャンネルの登録数が順調に増えていった。十六夜は天岩学園の生徒だけあって呑み込みが非常に早い。十六夜の編集スピードや技術も上がったことで、ある程度の投稿頻度を保ったまま高品質な動画を投稿することができている。

 今日俺たちが川へ来たのは先ほど十六夜が説明した撮影をするためだ。水風呂と外気浴を同時に行えて、誰にも迷惑のかからない場所を考えたときに候補として挙がったのがここであった。人のいないこの場所でなら映り込みや身バレを気にせずに撮影を行える。何より、他人が映ったときのモザイク処理はかなり面倒なので、それを気にせず撮影できるのはかなりのプラスポイントだ。


「それでは、運動から始めるか。運動をして体があったまれば、サウナに入ったのと同じ状態になるはずだ。そこから水風呂に入り、外気浴すればととのうと思う。まずは、成功しそうなものからやっていこう。時系列は十六夜の状態でばれてしまうかもしれんが、編集でどうとでもなる。どちらにせよ、動画の最初にはこれは絶対に成功するだろうってやつを持ってくるのがいいと思う。冒頭のあいさつはまだ撮ってないんだよな?」

「うむ。ゆえに今から撮るつもりだ。我が撮影する場所を決めたら、八雲はカメラの位置が正しいか見てくれぬか?」

「おう、分かった。任せておけ。夜月、周りの状況把握は任せてもいいか?」

「大丈夫ですよ。こっちが一応本業ですからね。一般人にしろ、襲撃者にしろ、誰かくれば撮影を中断させますよ」

「非常にありがたいな。そっちは任せたぞ」


 俺たちはそれぞれの役目にとりかかる。十六夜が企画を遂行し、俺がカメラを操作、夜月が身の回りの安全を確保する。場所を決めたらしい十六夜が所定の位置まで歩いていく。


「よし、十六夜。その位置で大丈夫だ。スタートって言ったら録画ボタンを押すぞ」

「すまぬ、頼んだぞ」

「それじゃあ、よーい、スタート!」

「……皆のもの、今日もこの日がやってきた。十六夜の中二病記録へようこそ。突然だが、皆はこんなことを考えたことはないか。ととのうためにサウナって本当に必要であるのか。ということで今日の企画は、動画のタイトルにもある通り、『最終的に水風呂入って外気浴すれば、サウナじゃなくてもととのうんじゃね?』である。今日はサウナの代わりに色んなものを用意してある。まずは、絶対にととのうであろう運動から行っていく。それでは、レッツ、ショータイム! ……冒頭のあいさつはこれで終わりだ。録画を停止してくれぬか?」

「あいよ、停止したぜ。それじゃあ、十六夜的に大丈夫なのか確認してくれ。セリフも噛んでないし、取り直さなくてもいいと思うがな」

「分かった。それでは確認するのでちょっと待っていてくれ」


 動画を確認中の十六夜から離れ、俺は夜月の元へと移動する。俺はカメラを確認しながらも、周りへの警戒を怠っていなかった。そして、俺の警戒網に二人ほど引っかかったのだ。それなのに夜月から中断の合図は出なかった。どういう意図があるのか確認するために夜月へ確認をする。


「夜月、お前はとっくに気づいているんだろう? 周りに二人ほど、こっちの様子を窺っている奴がいる。明らかに一般人じゃねぇ。どうするつもりだ?」

「確かに一般人ではないと思います。私たちへばれないように隠れていますから。ですが八雲先輩、もう一度気配を探ってみてください。撮影に集中力を使っていない今なら分かるはずです」

「ううん? 分かった、ちょっと集中すんぞ」

窺っていると

 風の流れ、音の響き、木の揺れ方、魔力の動き、感覚を研ぎ澄ませる。……二人いるのは間違いない。少数精鋭か気配を隠すスキル持ちがいるかもしれない。しかし、後者の場合はわざわざ二人ほど気配を漏らす必要があるのか?

 それに、二人のうち一人は巧みに気配を薄くしているが、もう一人はバレバレだ。そもそもアンノウンの情報は外部どころか研究希望者以外には漏れないようにしているはず。狙ってくる奴がいるとしたら、同じ学生。それも戦闘経験の浅い研究希望者か。

 外部に情報を漏らしている奴もいるかもしれないが、そんなことしたら最悪退学だ。もっと綿密に計画を練るだろう。こんな明るい時間、それも気配をさらすような初歩的なミスは犯さないはず。


「相手は同じ学生で襲われる可能性は低いと考えてるってことか? 元々は話し合いに来ただけで、顔の知らない俺たちがいるから様子を窺っていると」

「決めつけは危ないですが、そうだと思っています。ですから、こちらから誘えば出てきてくれると思いますよ」

「うーん、分かった。それじゃあ、一旦撮影は中止して、話し合いをしてみるか。おーい、十六夜! ちょっといいか?」

「どうかしたのか? こちらは次の撮影に取り掛かろうとしていたが、襲撃者でも見つかったのか?」

「それよりかは穏やかに事は済むと思っている。十六夜は十六夜に用事がありそうな二人組に心当たりがあるか?」

「……あるな。我に用事がありそうな者には心当たりがある。ちょっと、待っていてくれ。我が呼びかけよう……おーーい、そこに隠れている者! 汝ら、桜庭さくらば長内おさないではないか? そこにいることは分かっている! 出てきてくれぬか!」

「……何よ。うちが隠れてんのばれてるんじゃない。もう、長内が隠れるのが下手だからよ」

「そんなこと言われても、俺はお前みたいなことできないって。研究希望者なのにそんなことができるお前がおかしいんだよ」


 現れたのは、肩にかかるくらいの薄いピンク色の髪をした気の強そうな女性と茶髪で黒眼鏡をかけており、面倒くさそうな表情をしている細身の男性であった。とりあえず、襲撃者ではなさそうだな。


「十六夜、二人は知り合いか?」

「ああ、そうである。同じ研究希望者の桜庭と長内だ。どうして、わざわざつけるような真似をしているのだ?」

「最初は十六夜と話し合いに来たつもりだったの。でも、あなたたちがいたからどうしようか悩んでいたのよ。流石にプライベートで遊んでいるところを邪魔するのは悪いでしょ?」

「かといって隠れるのはどうかって俺は思ったんだけどな。二人は知らない人たちだけど、ゴールデンウィーク前から放課後は十六夜とずっと一緒にいた人たちだ。そもそも、三人いるのは分かっていたことじゃないか」

「でも、ここんところ一人になるタイミングが全然ないじゃん! 授業中や夜は生徒会と一緒にいて、放課後はこの人たちと一緒にいる。話し合うタイミングがありゃしないわよ!」

「その、桜庭さんと長内さんだっけか? 俺の名前は八雲隼人。戦闘希望者の二年生だ。こっちは同じ戦闘希望者一年生の夜月咲耶。君たちは何の用事で十六夜に会いに来たんだ?」

「ご丁寧にどうも。うちは研究希望者二年生の桜庭双葉さくらばふたば。こっちは同じ二年生の長内遊星おさないゆうせいよ。あななたち、戦闘希望者ってことは、もしかしなくても十六夜の護衛?」

「話が早くて助かる。俺たちもアンノウンのことを知っているから、話題にしてもらって大丈夫だ。二人はアンノウンに用事があるってことでいいか?」

「そうよ。うちは未だに納得していないの! 十六夜がアンノウンを保持していること。うちたちにだってもっと触れさせてほしいわ!」

「そうは言っても、十六夜先輩のスキル的に仕方のないことではないでしょうか? 学園の指示でそう決まったんじゃないですか?」

「あー、実はな、研究希望者は基本三人一組なんだ。それで、俺と桜庭は十六夜と同じチームなんだよ」

「……十六夜、それは本当か?」

「事実である。別に隠していたわけではないが、この話はとうの昔に決着がついているはずだ。今更話し合うこともないと思ったのであるが」

「それでも、うちは納得できないの! 護衛がついてるってことはもう少しで解明しちゃうんでしょ! その前にもっと謎を解明する作業をしたいのよ! だって特級魔道具よ! 人生で一度関われるかどうかの代物なのよ! せっかくうちのチームに任された話なのに、特級魔道具と触れ合えないなんてあんまりだわ!」

 

 これが本当であるなら、確かに二人は不憫ではある。でも、十六夜のスキル上、十六夜が常に持っておかないといけないという話でもある。つまり、なぜ十六夜と二人が別行動をしているのかを解明する必要が出てくる。それでも、まずはやることがある。公表している予定通りなら、今は電話をかけても大丈夫なはずだ。


「すまない二人とも。俺たちは生徒会長から君たちがチームだという話は一言も聞いていないんだ。どういう意図があるのか、これからどうすればいいのか、判断を仰いでも構わないか?」

「そうしてくれると助かる。俺は別に今のままでもいいと思っているんだ。生徒会長直々の言葉であるなら、桜庭も納得するはずだ」

「ちょっと! なんであんたはそんなに熱量がないのよ! ……まあ、突然の事態であなたたちには話が難しいとは思っているわよ。二人は十六夜の護衛だけ任せられているんでしょ? うちらがチームであってもイレギュラーな事態には違いないわ。……生徒会長に判断を任せるわよ」

「分かった、少し時間をくれ」


 俺はスマホを取り出し、生徒会長に電話をする。電話をかけるとすぐに繋がった。


「天岩学園の生徒会長、天王寺帝人だ。八雲くん、何か問題があったかね?」

「いえ、問題というほど深刻ではないのですが、帝人先輩に判断をお願いしたいことがありまして」

「ふむ、言ってみたまえ」

「現在、桜庭双葉という女性と長内遊星という男性から接触がありました。話を聞くと、二人は十六夜と同じ研究希望者で同じチームのメンバーと言っていますが、これは事実ですか?」

「事実だ。なるほど、二人が接触を図ったのか。私が聞いた話では、教師も交えた話し合いで十六夜くん一人とその他二人の別行動ということで合意を得たということであったが、解明間近になって我慢ができなくなってしまったようだね。二人は、特に桜庭くんはどんな主張をしているかね?」

「今聞いた話によると、アンノウンの解析並びに、アンノウンの保持をしたいということです。十六夜のスキルの関係上、アンノウンの保持は認められませんが、話し合いの末に行動を共にすることは可能ではないかと思います。帝人先輩が最初に説明しなかったということは、接触の可能性は低く、行動を共にすることはないだろうと考えていたと思いますが、どうしますか?」


 ここで帝人先輩が別行動の指示をしてくだされば、話は早い。最初にそう思っていたからこそ、俺たちには二人の説明が無かったと考えている。さて、どちらを選ばれるのだろうか。


「同伴するか、別行動にするか。判断は八雲くんに任せようと思う」

「え? 俺ですか?」

「現場でしか分からないこともあるだろう。二人が有用であると考えたのであれば、行動を共にするといい。これでいいかね?」

「分かり、ました。二人のスキルや十六夜との関係性を見て、俺と夜月で判断したいと思います。最後にもう一つ聞きたいことがあるんですが、よろしいですか?」

「何かね?」

「十六夜を含めた三人は信頼できる人物ですか?」

「うん? 私としては少なくとも十六夜くんは信頼できる。他の二人は実際に接触したことや素性を詳しく調べたことがないので分からない。今出会った二人のことはともかく、八雲くんは十六夜くんを信頼できないのかい?」

「いえ、俺は十六夜を信用しています。ですが、付き合いとしては一週間ほどしかありません。俺だけではなく、帝人先輩から見ても十六夜が悪い人ではないということを知っておきたかったんです。十六夜との協力関係はアンノウンの解析まで。その後のアンノウンの扱いについては決まっていないはずです。よって、十六夜がアンノウンの独占をしないことの信憑性を高める必要があると判断しました」

「……素晴らしい。実に素晴らしい」

「帝人先輩、今なんとおっしゃいましたか? こっちは川の近くで聞こえなくて」

「いや、なんでもない。今回の件、ご苦労であった。また、何かあれば連絡したまえ」

「はい、分かりました。ありがとうございます」


 俺は電話を切る。……俺の判断に任せるか。まあ、相手のことをよく知らないという条件であれば、実際に一緒に行動するかもしれない俺や夜月がプラスに働くどうかを判断した方が確実ではあるな。俺は夜月に身振り手振りで合図する。俺の意図を組んでくれた夜月が周りの警戒に当たる。


「それで、生徒会長は何て言ってたの?」

「俺と夜月の判断に任せるだとさ。ということで今から順を追っていくつか質問をしたいと思っているが、構わないか?」

「いいわよ。正直、無理なことは承知で強引にやってきたんだもの。少しでも可能性があるなら、それでいいわ」

「じゃあ初めに、どうして十六夜と二人は別行動することになったんだ?」

「それはこの状況がもやもやしたから。私は休日でもアンノウンの解明のために動きたい。けど、十六夜は休日は動画投稿の活動をしたいって言うの。それ自体は否定しないわよ。それでも、アンノウンの解析をしているときぐらいは我慢してほしい。それなら、私がアンノウンを保持して解明の作業をしたい」

「最初はそうして三人で一緒に活動していたのである。だが、いくら頑張っても証拠らしい証拠は集まらず、解明を進めるための手掛かりは見つからない。どうせ、我のスキルで時間が経てば解明することができるなら、好きなことをやらせてくれと主張したのだ」

「とはいえ、俺と桜庭はアンノウンの正体をただ単に知るだけじゃなくて、徐々に謎の正体に近づいていくその感覚を味わいたかったんだ。だから、手掛かりがなくても探し続けるということを止めたくなかった」

「それで、意見が食い違ったために教師を交えて話し合った結果、自由に動く十六夜と手掛かりを探し続ける二人のチームに別れたということだな。……うーん、話は分かった。次は確認だ。十六夜は二人のことが二人は十六夜のことが嫌いか?」

「我は嫌いではない。我のyoucube活動も応援してくれているし、理不尽なことをされたことはない。別行動をするしかなかっただけで、負の感情は一切持っておらぬ」

「うちも嫌いじゃないわよ。うちが我儘言ってるのは分かってるし、十六夜はいい奴って知ってるから。だけど、もうちょっとだけ、アンノウンに触れさせてほしい」

「俺も嫌いじゃないよ。たまたま今回は食い違っただけで、アンノウンの解析が終われば普通に元のチーム行動へ戻ろうと思っていたくらいにな。どっちかというと俺は中立だ。十六夜の主張も桜庭の主張も分かるからな」

「……了解した。もう一回少し考えるから、時間をくれ」


 お互いの関係は悪くない。俺の二人に対する印象も悪くない。戦闘に対する熱意が解析に変わっただけと思えば、気持ちは分かるしな。ただ、感情論だけで決めるわけにもいかない。今回の目的は特級魔道アンノウンの正体の判明に加えて、無事に保護して生徒会へ届けることが目的だからな。


「今のところは五人で行動してもいいと思っている。しかし、俺たちの役目は十六夜とアンノウンの護衛だ。俺たちは戦闘希望者だが、護衛のプロではない。何かあったときに足手まといになってもらっては困るということだ。いいか、これは君たちを馬鹿にしているわけではない。何かあったときに君たちの安全の保障ができないということだ。俺たちはもちろん、十六夜、アンノウンの安全を優先する。よって、君たちが俺たちのチームに加わるならば、何かプラス要素を持っているか、自衛をできることを証明してもらわなくては困る。要は身の安全を守れたり、護衛の役に立つスキルや能力を持っているのかということだ」

「まあ当然のことだな。それなら、俺がまずスキルを披露させてもらおう。八雲、近づいてもらってもいいか?」

「ああ、分かった」


 長内の近くで待機する。隠密行動も上手くなかったし、戦闘が得意とは思えない。サポート向きのスキルでも持っているのだろうか。


「じゃあいくぞ。【月の輪郭と満天の星空ルナティックプラネタリウム】」


 スキル名が聞こえると共に、半径二メートルほどのドーム状の空間が広がる。そのドームはまるでプラネタリウムのようで、ところどころに星のようなものが瞬いていた。


「これが俺のスキルだ。半径五百メートル以内に存在する、魔力を持った人や物を感知できる。見方は難しいがひとまず、この星が魔力を持った存在だと思ってくれ」

「ほー、索敵系のスキルか。それも半径五百メートルは凄いな。星的にも、今は俺たちしかいないということか。この星の輝きの強さは魔力の大きさに比例していると考えていいのか?」

「そのとおりだ。さらに、敵が隠密のスキルを発動していても魔力までは隠しきれない。相手がどう隠れていようが、必ず索敵できる優れものだ。普段は魔力を持った魔道具の捜索などに使っているが、索敵にも役に立てると思うぞ」

「うーん、はっきり言って合格だ。護衛をするためには敵の発見が一番大事だからな。そのスキルは俺たちにとって有用すぎる。逆に俺たちの方が手を借りたいくらいだ。協力してもらってもいいか?」

「もちろんだ。その代わり、一つだけ頼みがある」

「分かってるさ。十六夜、ちょっといいか?」

「うん? なんであるか?」

「十六夜たちが二つのチームに分かれてしまった理由は、それぞれが優先したいことがあったからだ。このまま一緒に行動してもそれが変わらなければ意味がない。だから、お互いが妥協する必要がある。十六夜が動画投稿をする日とアンノウンの正体に繋がる手掛かりを探す日の二つを交互に行う。その上、十六夜は一日に一回は桜庭にアンノウンへ触れさせる時間を設けること。これらを一緒に行動するための条件にしたい。了承してもらえないだろうか?」

「……了承した。我も今後も一緒に活動していくためには大事なことであると考えている。すまない、我も我のやりたいことを優先しすぎた。……これからもよろしく頼む」

「いや、こっちが我儘だったんだ。これからもよろしく頼むぞ」


 二人が固い握手をする。これで長内の方は何とかなった。自衛はできないかもしれないが、索敵は非常に有用なスキルだ。引き入れておいて問題はないだろう。後は……、


「次はうちの番ってことね。いいわよ、見せてあげる。だから八雲、少しうちと戦わない? うちが自衛できるってところ、証明して見せるから」

「分かった。ただ、学校外、それも決闘場じゃないところで本気でバトルするわけにはいかねぇから、軽くだぞ」

「ええ、それでいいわ。じゃあ、いくわよ!」

「おっと、気が早いな」

「こっちも必死なのよ!」


 急激に距離を詰めて、攻撃を仕掛ける桜庭。俺は体を捻って回避する。かなり鋭い一撃だな。隠密の上手さと言い、戦闘希望者と遜色ないぐらいだ。しかし、軽くとは言ったが、遊びでやるつもりはない。

 俺は小手調べとして魔力によるブラフを仕掛ける。左足に魔力を集中させて、横から蹴ろうとする……と思わせて、左足を踏み込み右手のストレート。対応が遅れれば当たるはずだが、


(っ!!)


 俺は途中でストレートをやめ、後方へ大きく退く。桜庭が反応していたのもある。だが、その前にこのまま攻撃すれば負ける未来が視えた。……桜庭の体から感じられる自信のようなものが俺を後退させた。


「あれ、どうかしたのかしら? 攻撃してこないの?」

「多分、あのまま攻撃していたら負けていた。そういうスキルなんだろ? カウンター系というよりは、上手く攻撃を受けることができたら勝ちに持ち込めるスキル。最初から近接戦闘に持ち込んだのもそのため。悪いが、これ以上は戦闘できない。軽くじゃすまねぇからな。桜庭の戦闘能力は認める。だから、後はスキルで判断させてくれないか?」

「……ふふっ! 流石はアンノウンの護衛を任せられる戦闘希望者なだけあるわね。いいわよ、教えてあげる。うちのスキルは【無抵抗ストロングゼロ】。掴んだり、触れた相手の魔力を使えなくさせることができるというものよ。さらに言えば、物体の抵抗を失くして、どんなものでも簡単に壊すことができるわ」

「想定以上だな。これなら、自衛どころか長内の護衛を任せてもいいぐらいだ。桜庭も合格だ。これから、よろしく頼むよ」

「ええ、よろしく頼むわ」

「少し気になったんだが、相手の魔力を使えなくさせるということは、桜庭に触れられた相手は長内のスキルで確認することができなくなるということか?」

「そのとおりよ。何? うちのこと疑ってるの?」

「すまない、念のための確認だ。ま、怪しいことはしないでくれってことだよ」

「気にしなくていいわよ。むしろそれぐらい用心深い方が信用できるわ。あなたは相当の強者とお見受けしたわ。戦闘ランキングは何位なの?」

「あっちにいる夜月は学園で二位だが、俺が学園で最下位だぞ」

「え? はあ!? どういうことよ!? なんであんたみたいな有能な奴が学園で最下位なのよ! 信じられないわ!」

「色々とあるんだよ、色々とな。それじゃあ、これからの予定を話し合おうぜ」


 ……お互いにな、とは言わなかった。研究希望者でありながら、戦闘希望者の上位に食い込めるほどの能力とスキルを持っている桜庭。判断を任せるっていうのは、このことも含めてかい、帝人先輩よお。 

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