警視庁エイリアン犯罪対策課
20XX年、突如襲来した宇宙人によって地球は占拠された――のは遥か昔。
なんやかんやで宇宙社会と平和条約を結んだ今、エイリアンは珍しい存在ではなくなった。
そうなると当然新たな問題が出てくる。
例えばそう、職質だ。
エイリアンなんかみんな怪しいので誰に声を掛けていいか分からない。
ちょうど犬のフンを始末しなかった銀色の二足歩行生命体がいたので注意がてら話しかけてみた。
答えたのは犬だった。
「これはエイベリアン星人の習性です」
犬がリードを口に咥えながら器用に喋っている。よくよく見れば銀色の人形エイリアンの方に首輪がついていた。
二足歩行生物こそ知的生命体だと我々地球人は判断しがちだ。しかしそれは地球の常識でしかない。
知的生命体は人前で野グソをしないというのもきっと地球の常識なのだろう。
「大地のものを食べ、大地へお返しする。それが我々エイベリアン星人の文化なのです」
「いや、でもここは地球なので……」
「我々の文化を冒涜するのですか? あなたの所属は? お名前をお伺いしても?」
俺はしゃがみ込み、四足歩行の賢いエイリアンに警察手帳を提示する。
「警視庁エイリアン犯罪対策課、星宮進で~す」
*****
むしゃくしゃしながら対策室へ戻るも、部屋に残っているのは事務作業をしている課長だけだった。
さすがに上司の仕事を邪魔するわけにはいかない。仕方がないので目についた椅子を蹴り飛ばしながら喚いていると課長の方から面倒くさそうに声をかけてきた。
「近頃は色んな惑星のエイリアンが滞在していて、戸惑うことも多いよね。でも彼らの文化にも良い面はある」
課長が顔を上げる。
老眼鏡を下げ、上目遣いでこちらを見た。
「互いを知ることから相互理解は始まる。そう思わないかな?」
なるほど。
確かにエイリアンがもたらしたのは悪いことばかりじゃない。
科学は飛躍的に進歩し、武器の威力はうなぎのぼり。
そして警官は市民の皆さんの安全のため、宇宙人襲来以前よりもはるかに簡単にそれを出せるようになった。
こんなふうに。
俺は懐から取り出した銃を課長のこめかみに突きつける。
「そこは人間様の席だ。汚ぇケツどけろ」
「私のケツは地球人より綺麗ッスよ。見ますか?」
中年男の姿がみるみる萎み、若い女へ姿を変えた。
ヤツはシェイプシフター型エイリアンだ。
わざわざ美女の姿を取るのは、この姿だと地球人から殴られにくいということを分かっているからだろう。
しかし俺は男女平等主義だ。
「ちょっと先輩、それ実銃じゃないスか。冗談言うときはせめてノンリーサル使ってくださいよぉ」
「いいや冗談じゃないぞユニ。今日はなぜ遅刻した」
「はい! 家が火事になりました」
「昨日はひったくり犯の捕獲で、今日は火事。明日はキャトルミューティレーションされたとでも言う気か?」
「そうならないよう祈ります!」
地球はエイリアン共からの圧力に屈し……もとい、銀河系社会への貢献のため、犯罪異星人を受け入れて社会復帰のための職を提供している。
その一つがここ、警視庁エイリアン犯罪対策課。
バディが得体のしれねぇ前科持ちエイリアンだなんて最悪だと思ったが、悪いことばかりじゃない。
「俺の好きなゲームを言ってみろ」
「はい! スペースインベーダーです!」
「そうだ。宇宙人をブチ殺していくのが気持ち良いからだ。俺の好きな映画は?」
「はい! エイリアンVSプレデターです!」
「そうだ。宇宙人共が殺し合っているのが笑えるからだ」
しかし現実はクソである。ゲームや映画のようにはいかない。
“異星人保護法”が制定され、簡単にエイリアンに手出しすることができなくなった。
とはいえどんな法にも抜け穴はある。
正当防衛による攻撃は認められているのだ。
「飯は食ったか?」
「いいえ!」
「仕方ねぇな。来い。安くてデカくてクソ甘いパンを買ってやろう」
「ヤッター! 安くてデカくてクソ甘いパン大好き!」
エイリアンからの攻撃を誘えれば、合法的にヤツらをブチ殺せる。
そのためにユニの力は使える。いざとなれば囮にも盾にもできる。
「気合入れろ。次でエイリアン討伐記録100体目だ!」
と、意気込んで行ったは良いものの得られた成果はしょっぱいモンだった。
コンビニで安くてデカくてクソ甘いパンを買っている最中、怪しいエイリアンを発見。
プロレスラーを彷彿とさせる屈強な肉体に、腕が6本。
注目すべきはその動きだ。
清流を往くアユのような滑らかな動作。一本一本が意思を持っているかのような複雑な動きを持って、その腕は冷蔵庫の中の酒を掴み、カバンの中へ放り込んでいく。
それは一つのダンスのように俺たちの目を惹きつけてやまない。
まるで千手観音だった。俺は今、宇宙の神秘を目の当たりにしている。
とはいえ万引きは万引きなので現行犯逮捕。
なんか学ランっぽい服着てんな、と思ったら本当に学生だった。しかも中学生。
大事にしたくないというコンビニ店主の意向もあり、ひとまず母親を召喚。
やってきたのは少年よりもさらに一回り屈強で、腕が12本もあるエイリアンだった。
思わず懐に手を入れるも、母親は屈曲な体をバックヤードに押し込んでさめざめ泣くだけだった。
「こんなことをする子じゃないんです!」
まだ地球に来て日が浅いようだ。
翻訳機の型が古い。声に細かなノイズが走っている。
「母星では評判の真面目で優しい子だったのに」
母が子を想う気持ちは宇宙共通なのだろうか。
とはいえ、母親が思うほど子供っていうのは真面目でも無ければ優しくもない。
地球にはまだ慣れていないらしい。千手観音万引きボーイは言い訳をすることもなくその巨体を丸めてパイプ椅子に座り、視線を事務机に落としている。
問題はその腕だ。6本ある腕のうち1本だけが机からひょっこりと顔を覗かせている。
顔って言うか、指だ。中指。
机の縁から煙突よろしく中指が飛び出ている。
母親は気付いていない。
「地球の学校に入ってから様子が変で……そうだ、悪い友達ができたんじゃない? ねぇそうなんでしょ」
中指が引っ込んだ。
泣いている母親に縋られ、さすがに良心が痛んだか。
……いや、違う。
中指が増えた。二本。己の存在と反社会を誇示するように高く高くそびえたっている。
店長が間に入っていなかったら中指をへし折っていたところだ。
「子を見る親の目ってのは曇るもんだな!」
結局は厳重注意で釈放。
すごすご帰っていく親子の屈強すぎる背中をコンビニの中から見送る。
「お陰で無駄に時間食っちまった」
「本当ッスよ。おかげでお腹いっぱいッス」
俺はユニの頭を引っ叩いた。
店内で安くてデカくてクソ甘いパンを齧っていたからだ。
「テメェなに勝手に食ってんだ。会計済んでないだろ」
「先輩も食べたいんスか?」
「いらねぇよそんなカロリー爆弾。それはアホみたいに食う子供の腹を最安値で黙らせるために親が買うもんだ」
万引エイリアンの補導の直後に警官がレジを通していない商品をその場で食っているなんて、ネット民大歓喜の炎上ネタだ。
俺は善良な警官でいなくてはならない。
愛と勇気と国家権力という後ろ盾があって初めてクソエイリアン共をブチ殺すことができるのだから。
俺は慌てて辺りを見回すが、無駄な足掻きだった。
店長はすぐ後ろにいたからだ。
「あの」
「ひぃ! すいませんすいません、お金払いますから」
しかし、店長は別に俺たちの行動に文句をつけにきたわけではないらしい。
ずいぶん小さくなったエイリアン親子二人の背中を一瞥し、吐き捨てる。
「侵略者め」
思わずギョッとする。
侵略者はエイリアンたちへの最も強烈な蔑称だ。
地球に続々訪れるエイリアンは我々に富と技術をもたらした。
しかし彼らをよく思わない者も当然存在する。その数は決して少なくはない。
「アイツらがきてからますます物騒になって困りますよ。異星人お断りの張り紙をしたいくらいですが、下手なことをすれば報復を受けますから」
「ホント、怖いッスよね~」
ユニが地球人ヅラして頷いている。
こいつの変身は完璧に近い。その辺の人間がコイツの正体を見破るのは不可能だ。
「近所に学生の溜まり場になっている空き地があるんですが、最近そこに手がたくさんある制服のエイリアンが出るようになったそうなんです」
手がたくさんある制服のエイリアン。
そんなのが何体もいるとは思えない。
まず間違いなく千手観音万引きボーイのことだろう。
「学生たちが危ない目にあっているのを見過ごすわけにはいきません。パンは差し上げますから、見てきていただけませんか?」
パンをくれる善良なコンビニ店長の申し出を断る理由など無い。
夜、俺たちは指示された空き地へと向かった。
なんの変哲もない住宅街だ。電灯に照らされた道をユニと二人で歩いていく。
ある建物の前で俺はふと足を止めた。「立ち入り禁止」の黄色いテープに囲まれている、黒く煤けた建物。アパートだろうか。割れた窓から室内が見えるが、ひたすらに黒いだけでなにがあるのかよく分からない。
「なんじゃこりゃ。火事でもあったのか?」
「あ、ここ私んちッス」
「えっ、火事ってマジだったのかよ」
「だからそう言ったじゃないッスかぁ。私たちみたいなのが借りられる家は貴重だったのに」
どれが彼女の部屋なのか。こうなってしまうともはや推測することすらできない。
ユニが煤けた塀を撫でる。
黒いスプレーで“侵略者は出ていけ!”と描かれていた。
「静かに暮らしていただけなんスけどねぇ」
火事の原因は外部からの放火。
犯人はここがエイリアンの集合住宅だと知っていて火を放ったのだろう。
俺のように手順を踏んで正しくエイリアンをぶっ殺そうとする人間ばかりではない。
過激なエイリアン排除派には俺も迷惑している。そういうヤツのせいで規制が厳しくなってエイリアンを殺しにくくなるのだ。
そしてここにもまた、エイリアンに不当な暴行をしている不埒な輩がいるようだ。
信じがたい光景だった。
燃え落ちたアパートの隣の空き地。
プロレスラーを彷彿とさせる屈強な肉体と6本の腕を持つ宇宙人がひょろひょろの中学生たちに袋叩きにされている。
「酒を盗ってこいって言ったろうが。なに捕まってんだよ間抜け!」
「誰か灯油の残りを持ってこい。お前もアレみたいに燃やしてやるよ」
6本ある腕を踏みつけ、少年が焼け落ちたアパートを指差した。
万引きエイリアンの藻掻きが激しくなるが、数の差で押さえ込まれている。
「イジメられてんのか? なんでやり返さねぇんだ。本気出せば一撃だろ」
「地球人のいじめられっ子だって包丁でも持ち出せば一撃ッス。でもそれができるヤツは多くないでしょ?」
「警官に中指立てる勇気はあるのにか?」
しかしその疑問もすぐに解決した。
少年の一人が突然しゃがみ込む。エイリアンの中指を無理矢理立てさせ、ゲラゲラ笑いだした。
「言っただろ。これが地球のSOSサインだ。大人にこれをやったら助けてもらえるかもしれないぞ!」
彼は地球に来て間もない。
翻訳機は持っているだろうが、それも微妙なニュアンスや文化の違いまでは教えてくれない。
少年は信じたのだ。悪意を持った彼らの言葉をそのまま素直に。
「彼らはエイリアンが平和に暮らす権利を侵している」
ユニは動かない。
彼女は人間ではなく、厳密に言えば警察官でもない。
操作権はなく、俺の指示がないと動けない。
だからユニはただ、真っ直ぐにこちらを見上げる。
俺の決断を待つように。
「どっちが本当の侵略者なんスかね」
ポリタンクがひっくり返され、灯油がエイリアンの体を濡らす。
瞬間、悲鳴を上げたのは地球人の方だった。
とうとう我慢の限界を超えたのだ。
人間の世界でもたまに見る。反撃に打って出るいじめられっ子。
なまじ喧嘩慣れしていないせいで加減が分からず、椅子を振り回して同級生の頭をかち割ったりする。
しかし今回の被害はそれくらいではすまなさそうだ。
ただでさえ屈強な体が一回りも二回りも膨張する。
皮膚は赤黒く変色し、筋力も上昇。
腕を押さえ込んでいた少年たちが宙を飛び、地面に叩きつけられる。
「あ、あんた警官か?」
いち早く異変を察知し、空き地から飛び出てきた少年の一人が俺たちに気付いた。
「助けて。エイリアンが暴れてる。銃でブッ殺してくれよ」
確かにヤバい状況だ。
エイリアンの暴走はとどまるところを知らない。
コンクリート壁をぶっ壊し、アパートの火災跡に侵入。逃げ惑う少年たちを追いかけ回している。
明らかに地球人の命が危機にさらされている。
正当防衛に当たる状況だ。
まぁそれはそれとして俺は少年を殴りつけた。
「お前は傷害罪」
頭を押さえてキョトン顔の少年を捨ておき、俺は歩き出す。
壊れたコンクリート壁をまたぎ、アパートの敷地内へと侵入。
エイリアンの巨体を見上げて叫んだ。
「お前も傷害罪と器物破損。どいつもこいつもしょっぱい罪状だな!」
暴れ回るエイリアンがゆっくりとこちらを振り向く。
俺は警棒を取り出し、素早く駆け出した。
「泣いて暴れてるいじめられっ子なんて俺の100体目に相応しくねぇ!」
この警棒はただの警棒じゃない。
殴りつけた衝撃でエネルギーが発生。電撃が放出される対エイリアン用特殊警棒だ。
強力な電撃はエイリアンの腕と逆鱗に見事命中。
キレたエイリアンは俺を引き剥がし、煤けたアパートの壁にぶん投げた。
ふーん。なるほどね。
俺はエイリアンに銃口を向けた。
「公務執行妨害で死刑」
「ちょっとちょっと!」
ユニが横槍を入れた。銃を掴みエイリアンから逸らす。
「なにすんだよ!」
「良いんスか? 家族で地球に移り住むなんて、どっかの星の大使かもしれないッスよ」
「むむ……」
俺は頭の中でババっとそろばんを弾く。
もし本当に政府関係者だった場合、警官である俺がヤツを殺せば外交問題に発展しかねない。
そうすれば俺は職を失い、安定してエイリアンをぶっ殺せなくなる。最悪だ。
熟考の末、俺は渋々銃を懐にしまう。
「仕方ねぇな。ユニ、あのキショいヤツやれ」
「ウッス!」
意気揚々と返事をして、ユニは行動を始めた。
彼女が向かったのは暴れるエイリアンの元。ではなく、その辺で腰を抜かしている地球人の少年。
エイリアンを散々殴りでもしたのだろう。その手には黒い血がべったり付着している。
「ちょっと失礼!」
ユニは少年の腕をつかみ拳をべろりと舐めた。
エイリアンの血を味わうように口をむにゃむにゃ動かす。
俺も少年もドン引きだ。しかしユニも別に趣味でやっているわけじゃない。多分。
ユニは遺伝子情報を取り込み、解析することができる。
「やっぱり地球人に近い作りしてるッスね。中枢神経が発する電気信号が骨格筋を動かしてるッス。それと、あの状態は――」
ユニが目を凝らす。
エイリアンの肉体は徐々に赤黒さを増しているようだ。筋肉の膨張も止まらない。
「命の危険にさらされたときの防御反応ッスね。でもまるでコントロールできてないッス。多分あと5分で死にます」
「マジかよ。なら喋ってねぇでさっさとやれ!」
ユニの能力はもちろん遺伝子情報の解析だけじゃない。
遺伝子は肉体の設計図だ。ユニはそれをもとに自分自身を“変化”させられる。
美女の姿がみるみる膨らみ、瞬く間に6本の腕と屈強な体を持つエイリアンへと姿を変えた。
向かい合う二人は鏡写しのようにそっくり。まるでドッペルゲンガーだ。
しかし屈強な肉体を手に入れても、それをうまく使いこなせるとは限らない。
今回も、ユニの動きは奇妙だった。
屈強な上半身の重みに耐えられず転倒。6本の腕と2本の脚を使って地を這う姿はまるで蜘蛛。
「うわっ! わはは! このキャラ操作ムズっ!」
ユニは格ゲーが趣味らしいが、この分じゃ腕前はお察しだ。
そもそも、同じ肉体ならば体の操作に慣れているオリジナルの方が有利。まともに殴り合って勝つことを期待しない方がいい。
ユニは地面を蹴り、エイリアンに飛びかかった。六本の腕で万引きエイリアンの体をホールドし、地面へ引き倒す。無様な動きだ。
「あああッ! もう無理ッス。助けて先輩!」
「うるせぇ! 黙って押さえてろ」
特殊警棒を大きく振りかぶり、飛びかかる。
俺はべろりと舌なめずりをした。
無抵抗のエイリアンをぶちのめす時ほどアガる瞬間はない。
電撃の出力は最大。もはや非致死性武器と言えるか怪しいそれを、多くの脊椎動物の弱点である首筋へと叩きつける。
衝撃。エイリアンの膨張した筋肉が痙攣するのが分かった。焦げついたような匂いがあたりに漂う。
あとから聞いた話だが、このときの電撃は象すら感電死させるほどの威力を持っていたらしい。
なにがノンリーサルだ。ふざけやがって。
万引きエイリアンが死ななかったのは不幸中の幸いだったといわざるを得ない。
*****
「あの子、やっぱり殺さなくて良かったッスねぇ。情けは人の為ならずってね」
寝ぼけ眼をこすりながらむにゃむにゃ呟くユニ。
俺はヤツのパジャマの襟首をひっつかみ、玄関から引きずり出して見慣れた廊下を歩いて行く。なぜなら出勤の時間だからだ。
「テメェなんでうちの隣に引っ越してんだよ。このマンション、エイリアンお断りだろうが」
「あの子のお父さんが偉い人で、色々手を回してくれたんスよ~。偽造身分証作ってくれたり」
「仮にも警察関係者が身分偽装すんな!」
万引きエイリアン少年の親父はやはりそれなりの大物だったらしい。
息子の命を救った礼として、住所不定エイリアンになりかけていたユニに住処を用意したのだ。
エイリアンは傷害と器物破損でしょっ引いたが、まぁたいした罪にはならないだろう。
問題はいじめっ子のクソガキ共だ。アパートの放火はやはりヤツらの仕業だったらしい。放火は大罪だが、塀の中にいた方が彼らにとっては良いかもしれない。エイリアンの報復は刑務作業よりも過酷だ。
「っていうかお前、ちゃんと自分で起きろよ。次遅刻したら本当にその頭ぶち抜くぞ」
「まぁまぁ。こうやって一緒に通勤するのも良いものじゃないッスか」
「朝からエイリアンの顔なんか見たくねぇよ」
が、エントランスを出た俺の視界に入ったのはエイリアンの顔より酷いもんだった。
見覚えのある銀色の二足歩行生命体がチワワ型エイリアンに連れられて散歩されている。
知的生命体にあるまじき“落とし物”の処理もせず、のうのうと歩いていた。
「アイツ、人んちの前でまた野グソしやがって……!」
「んん? あのエイリアン、解析したことありますよ」
ユニが眠気で開かない目を凝らすようにチワワを見た。
味を思い出すように口をむにゃむにゃさせている。
「確かエイベリアン星人じゃなく、シロマニヨン星人ッスよ。そんな習性も文化もないッス」
「じゃあなんで人の家の真ん前でクソするんだ」
「さぁ? 趣味じゃないッスか?」
「なるほどね」
確かにエイリアンとの通勤も悪いことばかりじゃないな。
エイリアンを知っているからこそできることもある。
俺は懐から取り出した銃をチワワのこめかみに押し付ける。
「警察で~す。ちょっとお話よろしいですか?」