クリスマスデート 蘭の場合 ①
「ようこそいらっしゃいましたね。我が家へ」
「だから蘭さんの家じゃないでしょって」
居候が私の実家でおもてなしをしている
「そういえばお義父さんとお義母さんは?」
「旅行に出かけてますわ。新婚旅行だー!って」
「そ、そうか」
何が新婚だ。結婚してから35年ぐらい経つくせに
……まあそんなジョークを言うくらい2人は仲良しということだ
「それで何するんだ?」
「机の上を見ればわかりますわ」
蘭さんは台所の机を指差した
「……餃子?」
「そうです。初芽から聞きましたわ。羽付き餃子がお好きだと」
「……ニラは?」
「ニラ?なんですのそれは」
机の上に置かれていた材料は市販の餃子の皮と挽肉とごま油しか置かれていなかった
「もしかしてこの3つで出来ると思ってる?」
「出来ないんですの?」
「出来ないことはないけど……羽はどうするんだ?」
「そんなの皮が勝手に溶けて羽になってくれますわ!」
その発想に至る辺り、この人は料理が出来ないのだと私でも理解できた
「……材料買いに行きましょうか」
「なっ⁉︎これじゃ足りませんの⁉︎」
「全然足りませんね。皮とお肉は十分すぎる量があるので大丈夫だけど、キャベツとニンニクと生姜。片栗粉……はありそうですね。あとは変わり種用にスライスチーズも買いましょう」
「そんなに足りませんでしたの⁉︎」
「全然足りません。とりあえず買ってくるので待っててください」
「いいえ!仕方ないので私も行きますわ!」
蘭さんはハンガーにかけてあったコートを羽織った
「初芽ー!ちょっと出てきますわ!由布子さんが来たら代わりに出てくださいまし!」
「はいよー」
2階から初芽の返事が聞こえた
「近くのスーパーでいいんですわよね?」
「おう。あそこで全部揃うよ」
「わかりましたわ」
玄関を開け、2人は冬空の下へと足を踏み入れた
「……まだ6時だというのに寒いですわね」
「そうだな。この調子だと雪も降りそうだな」
「あら。幻想的ですわね。でもこれ以上寒くなられるのは困りますので、さっさと買い物を済ませましょう」
2人はスーパーに向けて歩き始めた
辺りはすっかり暗くなっている。住宅街の為、街にあったイルミネーションのようなものはない。ただクリスマスを祝うべく、家の周りを飾り付けをしているのが何軒かあった
「この家の飾り付けすごい凝ってますわね。あ……ツリーもある」
「この家の人は毎年飾り付けしてるな」
「毎年やってますの⁉︎」
「そうそう。この道を通る子供たちに喜んでほしいからってさ」
「そうなんですのね。サービス精神に溢れた良い家族なんですのね」
私が小学生の頃からこの家は毎年イルミネーションをしている。これだけ長く続けられるのはすごいことだ
「……俺らも何か飾るか?」
「……いいえ。電気代もかかりますしやめておきましょう。それに由布子はともかくとしてあの2人に風情を求めるのも無理な気がしますわ」
知らない所で酷い言われようをされる2人
♢ ♢ ♢
「これで一通り揃ったな」
スーパーに着いた2人は、ショッピングカートの中に必要な物を入れていった
「粉がもういらないんじゃなかったんですの?」
「皮自作しようかと思って」
「好きだとは伺ってましたが、皮を自作するほど好きなんですのね……」
湊の作る餃子の皮は冗談抜きで美味しい。梅などを練り込んだりして皮で他の餃子との差分を作ったりする
私が初めて湊の作った餃子を食べた日、私は店を開業すべきだと本気で思ったぐらいだ
「……皮作りは簡単ですの?」
「簡単ではあるけど、1枚1枚形取るから時間はかかるな」
「では今回は市販のものだけにしましょう。相当量を作らないといけませんから」
「確かに……じゃあ粉は返してくるよ。ここで待ってて」
「ええ」
湊は皮の材料を持って商品棚に戻しにいった
「……お嬢さん!ちょっといいかい?」
「……私ですの?」
蘭さんはお店の男性店員に声をかけられた
「……やっぱり蘭お嬢様でしたか!」
店員は蘭さんの前に膝をついた
「ちょっ⁉︎こんな店中でやめてくださいまし⁉︎」
「おっとそうですね……お嬢様が変な目で見られるわけにはいきませんね」
「……で。なぜ私のことを知っているんですの?」
「それは私が環凪家に仕える者だからです」
蘭さんはそう言われて、男の顔をじっと見た
「……去年入った新しいコックでしたっけ?」
「おお!こんな一端の人間の存在を覚えてくれていたとは……嬉しい限りです!」
「一端だと言わないでくださいまし。あなたの作る料理は美味しいものでしたから」
「あ、ありがたき言葉です!」
男は感動からか、目頭を押さえながら上を向いた
「……それで、環凪家に仕えるあなたがこんな所で何をしているのです?」
「クリスマスケーキの出張販売でございます」
「出張販売?今までそんなことしてましたか?」
「今年からこのスーパーが環凪グループの傘下に入り、その催しの1つのようです」
「そうですか……」
グループに傘下……お金持ちからしか聞かないような言葉が出てきた。やはり生粋のお嬢様だ
「あの……」
「戻りませんわ」
「ご心配なされてるんですよ?」
「なら元気にやっているとだけお伝えしておいてくださいまし」
おそらく家に帰ってこいという話だろう。だが蘭さんにその気は全くないようだ
「……わかりました」
「あら。えらく聞き分けの良い人ですね。もっと粘られると思いましたわ」
「私の言葉で帰ってくるだなんて思っていません」
「そのあっさりした考え方。嫌いじゃないですよ」
「……これどうぞ」
店員は蘭さんにケーキボックスを渡した
「いいんですの?」
「中身はチーズゲームなんです。ショートケーキとチョコケーキと同じ量を作ったのですが、やっぱり2つ程は売れずに残ってしまってる分なので。残り物を渡して申し訳ないなのですが」
「いいえ。もらえるだけありがたいですわ」
「……いつでも戻ってくださいね」
「……気が向いたら帰りますわ」
店員は頭を下げて店の奥へと離れていった
「……お待たせしましたわ」
蘭さんがそういうと湊は品棚からひょっこりと出てきた
「聞くつもりじゃなかったんだけど……」
「聞かれて困る内容でもないので良いですわ。それよりタダでケーキ頂きましたの!晩御飯後にでも頂きましょう」
「そうだな」
カートの下の置き場所にケーキの箱を置いた
「あ、餃子の餡の代わりにミカンとか入れてみるのはどうでしょう?」
「……やめた方がいい気がするな」
蘭さんの提案は拒否された




