クリスマスデート 千夏の場合 ①
「さっき取ったフィギュアと買ってた本が入ってます」
「あ、ありがとうございます」
3時間のデートが終わり、由布子さんから千夏さんへとバトンが渡った
「鉄は今度見せますね」
「お、お願いします!」
「え……鉄?」
由布子さんがなぜか興奮気味なことに意味が分からず、首を傾げる千夏さん。それが正しい反応で間違いない
「そ、それじゃあた、楽しんできてください」
「おう」
「由布子ちゃんまたねー‼︎」
フィギュアと本が入った袋を持って、由布子さんは帰っていった
「よし!じゃあ早速行きましょう!」
「どこに行くんだ?」
「服を見たいんですよねー。仕事用とプライベート用どっちも!」
「なら俺もちょっと見るかー。仕事用で」
ここで千夏さんは湊の手を握った
「デートなんで手を握ってもいいですよね?」
「別にいいけど……あの……手汗が」
「わ、わざとかいてるんです!それで私の体液を湊さんに……」
「それが本当ならやめような?」
「……嘘です。緊張のせいで汗止まんないです」
仕事場が同じなことで、湊と2人でいる時間が4人の中で最も多い千夏さん。ご飯を食べに行くことは多々あるが、こういう風にショッピングデートなどに赴くのは初めてだ
ましてや手を繋ぐのも初めてなはず……千夏さんはかなり積極的だ
「と、とにかく行きますよ!」
「入る服屋は決まってるのか?」
「店内の雰囲気で決めます」
「行き当たりばったりってわけね。まあいいけど」
千夏さんは一度手を離し、汗を拭いてもう一度湊と手を繋いで歩き始めた
「服見たいって、そんなに着る服ないのか?」
「ありますよ?ただやっぱり流行というものがありますし、今年、冬服1着も買ってないので見とかないとって。切ってくれる人がオシャレな方が、お客さんも安心出来るじゃないですか?」
「……確かにな。ちゃんと意識してるんだな」
「当たり前です!仕事大好きですから!1日たりとも休みたくないです!」
「そういう割にめっちゃ有給取ってなかったか?」
「あれは不可抗力なんです……信じてください……」
「いや意味わからんが……」
あれほど可哀想な理由で有給を消費したのは千夏さんが初めてじゃないだろうか
「……あ。ここ気になります!入りましょう!」
千夏さんが指差したお店は、内装が黒く、灯りも控えめなシックなお店だった
「ここ高いぞ?」
「オシャレにお金がかかるのは仕方ないです!」
♢ ♢ ♢
「は、8万⁉︎柄もない無地のTシャツが⁉︎こ、こっちのジーンズは48万⁉︎このコートなんて106万⁉︎帽子のクセに54万⁉︎」
お店の品の値札を見るたびに驚愕する千夏さん。このお店は日本でも屈指の高級ファッションブランド。いわば富裕層御用達店なのだ
「どれ買うんだ?」
「か、買いませんよ!てか買えませんよ!」
「オシャレにお金がかかるのは仕方ないんだろ?」
「許容の範囲を超えてるんですよ!」
千夏さんは湊を引っ張って急いで店の外に出た
「ハイブランドって怖い……」
「まああそこは特に高いから仕方ない。他の店行くぞ」
♢ ♢ ♢
「ここ私の顔ぐらいのサイズの服しかないんですけど⁉︎」
「そりゃあベビー用品店だからな」
「それ先に言ってくださいよ!」
「お前がふらーっと入ってくからだろ⁉︎」
お店の中にはベビーカーを押しながら買い物をするお客さんがたくさんいた
「いらっしゃいませー!何かお探しですか?」
と、ここで女性店員に話しかけられた
「あ、いえその……」
「今日はお子さんはお連れになられていない感じですか?」
「えっと……子供はいなくて……」
「ということは未来に向けて買うべき物とかを見ている感じですか?」
「そ、そういうわけでもなくて……そもそも付き合ってもいないというか……」
「えー⁉︎お2人お似合いなので付き合ってるように見えました!」
「お、お似合いですか?」
店員の言葉で頬が緩む千夏さん
「将来お子さんが産まれたら是非いらしてください!」
「もちろん贔屓店にします!」
千夏さんは店員さんとガッツリ握手を交わして店を出た
「お似合いですって!」
「そりゃありがたいことだな」
「私が可愛いから?」
「そうだよ」
「えっ……?」
茶化したつもりが真面目に返答が返ってきて焦る千夏さん
「なにその反応?おかしなこと言ったか?」
「ぜ、全然?私可愛いのは事実ですし?」
「性格は可愛くないんだよな」
「はぁ⁉︎何もかもがプリティーですけど⁉︎」
「……ふっ」
嘲笑われた千夏さん
「あーもう怒った‼︎湊さんに勝負を挑みます!」
千夏さんは湊に向けて指を刺し、勝負を挑んだ
「負けた方は言うことを一つ聞く!どうですか!」
「じゃあ俺が勝ったら千夏の残ってる有給貰おうかな」
「ほ、ほーん……ま、まあいいいいいいいですけどどどどど?」
余程良くない条件なのだろう。声が震えすぎておかしくなっている
「冗談だよ。まあ勝負の間に何か考えておくよ」
「まあ考えなくてもいいですよ?どうせ私が勝つんで!」
「自信あるみたいだな?何の勝負するんだ?」
「ふふん!実はですね。この前スーパーで面白いお菓子を見つけたんで、これで勝負しましょう!」
千夏さんは自身のカバンに手を突っ込み、取り出したものは……ガムだった
「このガム6個入りなんですけど、そのうちの1つだけ超酸っぱいガムが入ってるらしいんです!」
6分の1の確率でハズレがある……ちょっとしたギャンブル要素のある商品だ
「これを当てた方の負けでどうですか?あ、もちろん酸っぱかったのに平然なフリをするのは無しですよ?」
「……分かった。ただし条件がある」
「条件……?なんですか」
「この一個下の階に駄菓子屋のお店があるよな?その店で新しくそれと同じ物を買って、それで勝負しよう」
わざわざ目の前に商品があるのに違う物での勝負を御所望の湊
「な、なんでわざわざそんなことするんですか?ここにあるんですし、これでやればーー」
「……パッケージの裏側切って仕込んだんだろ?」
「ギクッ……」
どうやら湊の推測は合っているようだ
「……なんで分かったんですか?」
「千夏が勝負を挑む時は、大抵自分に地の利がある時だけなんだよな。だから確率が五分五分の勝負を持ってくるわけがない……そう思ったんだよ」
「くっ……反論できないぐらい正確な答えを出された……」
付き合いが長いせいで見破られてしまった
「まあさっき言った通り、新しく買ってきたやつでなら勝負してもいいぞ?」
「……いいですよ!勝負しましょう!」
半ばやけくそ状態になった千夏さんは勝負に乗った
そして2人はそのガムを買うために下に降りた




