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クリスマスデート 由布子の場合 ①



「お洒落なカフェだな」



由布子さんが連れてきたのは、とあるビルの4階に位置するカフェ。内装の華やかさもさることながら、少し高い位置から見える街の景色が良いお店だ



「ら、蘭さんから晩御飯の方はガッツリとした物を用意されると聞いたので、軽めに食べられそうなここにしました」


「気遣いありがとう。ここは由布子さんの行きつけ?」


「そ、そんなわけないです!わ、私なんかこんな所に一人で入る勇気ないです……ただ時雨さんがここをオススメしていたので、こ、この機会に一緒にと思って……」



由布子さんがここ数年、1人で外出するところは見たことがない。あるのは湊達と出かける時と、時雨さんが「ずっと家に閉じこもってないでたまには外に出てネタを探しに行きますよ‼︎」と言って無理矢理連れ出したパターンしか記憶にない



2人は席に座ってメニュー表を見る



「店長オススメステーキ丼……カフェなのにこんなのもやってるのか」


「さ、サーモンといくらたっぷり丼とかもありますよ?す、すごいレパートリーの幅が広いですね」



ファミレスレベルの幅の広さだ



「んー……美味しそうだけど晩御飯はガッツリみたいだし、パスタにでもしようかな?」


「わ、私もそうします」



湊はナポリタンを。由布子さんはリンゴジュースとタラコスパゲッティを頼んだ



「……」


「……」



無言の時間が続く2人。お互いに話を切り出すタイプではない為、話題に困っているのだろう



「……あ、あの!」



なんとここで先に言葉を発したのは由布子さんだった



「す、すすすすすすす!」


「す?」



え?いきなり好きだと伝えるのか⁉︎もうとっくにバレてるけど改めて好きだと伝えるのか⁉︎



「す……好き!……な食べ物はな、なんですか?」



幽霊なのに盛大にずっこけてしまった



「餃子が1番好きですね。モチッとしたタイプも好きですが、パリッとしてるタイプの餃子が良いです」



生前に宇都宮市という餃子が有名な場所へ行った時、わざわざお土産用に売られている餃子を入れるためのキャリーケースを持って来たのには驚いたものだ



「わ、私も餃子……好きです!でも最近食べてないです」


「餃子メインのお店はあまり近くでは見かけませんからね。ラーメン屋とか中華料理屋なら置いてあるんですけどね」


「家でも少しは自炊したり……しますけど、餃子とかあまり凝った物を作らなくて……」



自炊(インスタント類。冷凍食品等々)



「じゃあ今度作るのでご馳走しますよ」


「ほ、本当ですか⁉︎」


「ええ。お店のと比べるとしょぼい味になってしまうとは思うんですけど」


「そ、そんな!つ、作って頂けるだけで嬉しいです!」



早速次の予定をこぎつけた由布子さん。出だしは好調だ



「……」


「……」



話が終わってシーンとする時間が長いことに目を瞑ればの話だけど



♢ ♢ ♢



それらしい会話もなく2人が注文した物がテーブルに並んだ。少食な由布子さんでも十分に食べきれる量だった



「美味しいですね」


「うん。時雨さん良いお店知ってるね」


「ランチタイムは外で食べることが多いそうです。それで色々なお店に行ってるみたいです。こ、ここはその中でもオススメのお店だって教えてくれました」


「へぇ。また会った時に良いお店教えてもらおうかな」


「が、外食はよくするんですか?」


「週2ぐらいかな?仕事の日とかのお昼休みに行ったりしてます」


「そ、それは千夏さんと?」


「大体は千夏と一緒ですよ」


「そ、そうですよね。お仕事一緒ですもんね」



やはり仕事仲間という立場は強い。お隣さんと違ってわざわざ理由をつけなくても会えるのだから



「あの……また髪を切ってもらってもいいですか?」


「いいですよ。前と同じぐらいの長さにします?」


「ま、前よりす、少しだけ前髪を短めに……切って欲しいです」


「あっ!もしかして頂いた賞の?」


「し、知っててくれたんですね」


「雑誌で見ましたよ!それで壇上に上がって話すことになったんですね?」


「そ、そうです。というかよくそこまで知ってますね」


「去年、同じ賞をもらっていた人が挨拶したって雑誌のインタビューで答えてたんです。だからそれかなって」



湊が勤務する美容院には、待ち時間の時間潰しに雑誌が置かれている。それもちゃんと最新号が出る度に変えている

湊が雑誌を買っているところを見たことがないので、おそらく情報源はそこだろう



「本当は前に立ちたくないんですけど……時雨さんに「出ないと今度勝手に雑誌のインタビュー組んで、シノ先生のだらしない生活を赤裸々に開示しますからね」って脅されて……」



絶対に立たせたい確固たる意志を感じる発言だ



「そ、それは大変ですね」


「……挨拶なんて、何を喋ればいいのかわからないです」


「確かに難しいですね。……今後の意気込みとか、作品に対する想い……とか?」


「意気込み……想い……ですか」



由布子さんの顔が曇った



「……悩みでもあるんですか?」


「……少しだけ。でもこの悩みは初めてじゃなくて、もう4回目ぐらいです」


「……筆止まってるの?」


「ほ、本当に察しが良いですね……」



作家ならではの悩みを抱えているようだ



「最近展開が思いつかなくて……考えを巡らせれば巡らせるほど、頭も真っ白になって……こ、この作品をどうしていきたいとかわからなくなってしまって……」



最近パソコンの前に座っていても文字を入力する様子もなく、ただひたすらにぼーっとしていたのはそのせいだったのかな?



「……私の作品の読者として、何かアドバイスとかありませんか?」


「アドバイス……ですか。すいませんが特に思いつかないです」


「そ、そうですよね……」



作家の苦しみを理解するのは難しい。執筆経験がないなら尚更だ



「なので気分転換しましょう!」


「気分転換……?」


「次の行く場所とか決まってますか?」


「あ……えっと……実は何も考えてなくて……。ただ千夏さんの集合場所がショッピングモールの中の施設で……」


「ちょうど良かったです。ならショッピングに向かいましょうか!」


「な、何するんですか?」


「着いたら分かりますよ!」



湊は席を立ち上がった



「わ、私まだパスタ食べ終わってないです!」


「あ、俺も食べ終わってなかった」



湊は再び着席し、残ったパスタを食べ進めた

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