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クリスマスデート 初芽の場合 ③



「遅いなぁ」



湊が中々トイレから戻ってこない。もう5分は過ぎている



「もしかしてウーー」


「周りに聞こえないからってはしたないこと言わないで」



初芽に言葉を遮られたところで、ちょうど湊が戻ってきた



「ごめん。待たせた」


「全然大丈夫です……けど。その袋は?」



トイレから帰ってきた湊は何故か袋を持っていた



「まさかトイレが混雑してて、我慢出来なくなって袋にウーー」


「本当ちょっと黙っててくれ」



掠れ声並の小声でまたも遮られた。さっき姉らしく背中を押してと頼まれたばかりなのに邪魔をしてしまった。これは反省だ



「さっき店員さんに渡されたんだ。パンケーキを頼んだ()()()()につくステッカーらしいんだけど、渡し忘れたからって」


「カ、カカカカップル⁉︎」



クリスマスに動物園で男女2人の大人がデート。カップルに見紛うことになんらおかしなことはない

むしろカップルに見えない方がおかしいまである



「俺はあんまりこういうの興味ないんだけど、いる?」


「カップル……カップルかぁ……えへへ」



だらしない顔でにやける初芽。これぐらいのことでニコニコになれるのだから、恋愛初心者は羨ましい



「……どした?」


「はっ!な、なんでもないです!それよりステッカーは私が貰いますね!」



初芽は湊からステッカーの入った袋を受けとった



「一応余裕を見て、30分にはここを出ましょうか。なので15分ぐらい私の話に付き合ってください」


「一応室内で観れる動物がいるみたいだけど、それはいいのか?」


「いいんです。それよりも私は湊さんと話したいんです


「……そうか。じゃあ初芽ちゃんが話しながら片手に摘めそうなものでも買ってこようか」


「も、もうお腹いっぱいですよ⁉︎私のこと食いしん坊キャラだと思ってます⁉︎」


「4人の中じゃ1番食べるよね?」


「それは……まあ」



初芽は女性の平均値よりは食べていると思う。実際、旅館に出されたご飯を完食し、お腹がいっぱいで食べられなくなった由布子さんのご飯も初芽が平らげていた



「も、もうご飯はいらないので、座ってください!」


「はいはい」



湊は席に座った



「で?話って?」


「……何話しましょうか?」


「決めてないのか⁉︎」



話したいと言いながら、話題を持っていなかった



「話したい気持ちはあるんですが……改めて何か2人で話すってなると難しいです」


「てっきり用意されてると思ってたよ」


「湊さん何かないですか?」


「ええ……そうだな……昔の話でもするか?」


「どこら辺の話ですか?」


「出会って間もない頃とか?」


「てことは必然的に姉の話題が出るということですか……避けたいな」



避けるな。この2人の昔話に私は避けては語れない



「今思い出したけど昔はまともに話もしてくれなかったのに、2人で出かけるまでになったって考えると、ちょっと感慨深いものがあるな」


「あの時はまだ子供でしたから……でもまああの頃の私に、「将来湊さんのことを好きになるよ」って言ったら全力で否定されそうですけど」



それどころか「目を覚まして‼︎」って言いながらビンタされそう



「……あのさ。俺のどこがいいんだ?」


「いっぱいありますよ。全部語ると時間足りないですけど」


「そんなにあるの⁉︎」



初芽は残ったコーヒーを一口啜り、一呼吸ついて話し始めた



「私が湊さんを好きになったのは、湊さんが家に来て半年ぐらいの頃でした」


「えっ?でもその時って1番冷たかったような……」


「冷たかった理由は簡単ですよ。好きになってはいけない相手だと分かっていたからです」



首を傾げる湊。どうやらその意味がわかっていないらしい



「その頃からバカ姉のことが好きだったでしょ?しかもこっちは7歳も年下の小学生ときた。こんなの負け戦確定でしたから」



大人になった時、7歳差というのはそれほど気にするものでもないかもしれないが、子供の頃の7歳差はあまりに大きすぎる差だ



「バカ姉は本気で私を恋のライバルだって思ってたみたいだけど……全然だった。同じ土俵にすら立ってない。そもそも私の前にスタートラインは引かれていない。スタートラインがないのに、ゴールなんてありはしないんです」



私が湊を好きになった時から、初芽には闘争心剥き出しだった。負けたくないって思ったし、奪われたくないって思った



「だから諦めるために冷たくしました。冷たくすれば構われることはなくなって、一緒にいる時間が減ると思ったから。……まあ湊さんは冷たくしても構ってきましたけど」


「あはは……どうしても仲良くしたかったからさ」


「いい迷惑でしたよ。一緒にいると辛くなるから構わないで!って」



あの頃の初芽がなぜ湊に冷たくするのか分からなかったが、そういう理由があったとは……



「あ、好きになった理由を言ってませんでしたね」



ここでもう一度、初芽はコーヒーを啜った



「私の両親が「お金の面は気にしなくていい」って言ってたのに、大量にバイトして家にほぼ全額のお金を入れてたところとか、家事の手伝いも積極的にしてくれるところとか。あの頃は千夏と変わらないぐらい料理が下手でしたけどね。……まあここら辺が好きになった理由でしょうか」


「いやいや!居候させてもらってる身なんだから、それぐらいは俺と同じ立場になったらみんなしてるって!」


「……いいえ。そうしなきゃ。と思っても実際に出来る人はそう多くないと思います。学校に行ってそのままバイトに行って帰ってきたら家事の手伝いをする……こんなスケジュールを毎日こなせる人は少ないですって」



そんな多忙スケジュールのせいで湊は一度倒れている。あの時の湊を叱った母の顔は今でも焼き付いている



「それと……家庭環境の話を聞かせてもらった時ですね。複雑で辛い生活を送ってた話を聞いて、そんな中で頑張って生きている姿勢が凄いなぁ。って感じたのと同時に、こんなちんちくりんな子供の私でも、湊さんの支えになれないかと考えた時には好きになってましたね」


「……そうなんだ」



湊の家は複雑だ。その証拠に、湊が家を出てから10年以上経ったというのに一度も音沙汰がない。居候が決まった際、私の母が連絡を入れたそうだが、無関心で他人事だったらしい



「好きになる理由が重なって重なって……最後は小学生なのに母性をくすぐられて……好きになった。こんな感じですかね?」



曖昧な答えに聞こえるが、人を好きになった瞬間が明確にある人の方が少ない気がする。私も湊をいた好きになったのかと聞かれると答えに困る



「嬉しいよ。ありがとう」


「私ばっかり喋っててなんか恥ずかしいですね……湊さんもバカ姉を好きになった理由を教えてくださいよ!」



それは私も知りたい話だ



「好きになった理由……あれだけ手厚く面倒見られたら誰でも好きになると思わないか?」


「お節介なところに惹かれたってことですか?」


「それもあるし、他の女の子とは違って素だったから」


「素?」


「うん。俺は月代家に住まわせてもらうまで、告白してきた女の子の家を転々としてたのは知ってるよね?」


「はい。聞いた時はびっくりしました」


「で、やっぱり人って良い部分を見せびらかしたくて、悪い部分はひたすらに隠そうとする。俺もそうだしな。でも……李華ともう1()()の女の子はそんなことなくってさ」



そのもう1人というのは、千歌ちゃんのことだろう



「裏表がなくて話しやすい。好意を持ったのは結構早かったよ」


「そう……ですか」



初芽の顔が少し暗くなった



「……どうした?」


「……湊さんがバカ姉のことを好きな理由が顔や声だったら、私にとっては大きなアドバンテージだったのになぁって思っただけです」



容姿、身長、声に髪。私の生前の姿に超が付くほど似ている初芽だが、性格は私とは全然違う



「……容姿も好きだよ?可愛いし声も好きだった」


「なら私も……?」


「まあそうだね」



暗転した表情から一転してパッと明るくなった



「今だけは姉に感謝……」



なんか変なところで感謝された



「容姿に関してはお義母さんに感謝した方がいいんじゃない?」


「確かに……取り消します。感謝の気持ち」



しかも無かったことになったし



「あ……もう時間ですね。そろそろ出ましょうか」



最初に定めた時間ジャストに2人は動物園を出た



「どうする?前にコンビニあるけど、ストッキングぐらい売ってるんじゃない?」


「いいんですよ。生脚で誘惑が目的なんで」


「……でも俺ストッキングフェチだよ?」


「今すぐ買ってきます‼︎」



初芽はコンビニに駆け込んだ



「……ウソばっかり」



この言葉はウソだということを私は知っている



♢ ♢ ♢



「由布子ー!連れてきたよー!」


「あっ……ありがとうございます」



11時55分。初芽とのデートは終わり、由布子さんにバトンタッチとなった



「お昼……食べちゃいました?」


「いや、食べてないよ?」


「でも初芽さんのお腹が……」



通常時よりもちょっとだけぽっこりとしたお腹を隠す初芽



「こ、これはこの服が大きいだけだから!」



絶対パンケーキのせいだ



「そ、そうですか……」


「ほらっ!もうさっさと店入りなよ!」


「は、はい!初芽さん。連れてきてくださってありがとうございました」


「そういう約束なんだからお礼なんていらないわよ」


「初芽ちゃん。今日は楽しかったよ」


「……なら良かったです。今度は水族館にでも行きましょう!」


「また知識付けとくよ」


「……はい!」



初芽は手を振ってその場から立ち去った



「色々話せて良かったじゃん」


「……結局、一回も背中押してくれなかったね」


「……押さなくて良かったもん」



初芽にとってこのデートは大成功といっていいはずだ

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