好きな子にはイタズラしたくなる
結局あれから15分ほど経過したが、2人はまだ『ハロウィン以外でカボチャを食べて何がいけないの⁉︎』の展示コーナーで盛り上がっている
グッズを手に取っては、そのポーズがどのシーンで再現されたかを語っていた
よく飽きずに話してるなーと思っていると、2人はアクリル製で出来たキーホルダーを持って、お会計の列に並んだ
「そういえばさー。湊さんと普通に喋れるようになってたね」
ここにきて話題に湊が出てきた。待った甲斐があったもんだ
「……そうだと良かったんですが。残念ながら改善されてませんわ」
千夏さんの言葉を蘭さんは否定した
「そう?側から見てたら普通に話せてた気がするけど」
「よく思い出してみてください。……って鳥頭の千夏さんに言っても思い出せないでしょうけど」
「何で今私バカにされたの⁉︎」
「……いいですか?今日私と湊さんで会話したシーンはありません」
ずっとついて見ていた私も今日1日を回想する
「そうだっけ?」
私も同様、そうだっけ?と頭をかしげた。普通に馴染んで話していたイメージがあった
「会話の輪の中に入ってはいるものの、直接会話はしておりませんわ。ハロウィン以降、少しはマシにはなったとは思いますが……」
自分が好意を寄せていることを伝えられても、この状態が変わらないことには、湊との関係は縮まらない
「何で悪態ついちゃうんだろうね?好きだったら普通良く見せようと思わない?」
「普通はそうだと思いますわ。でもどこかで聞いたことがあるのですが、好きな子にイタズラなどをしてしまう人種もいると……私はその類なのだと思いますわ」
「そっか……」
悪態というより生意気なお姫様といった感じに変わるのは蘭さんぐらいだろう
「ですがこの旅行中に、私は普通に会話出来るようになってみせますわ」
ぜひともこの意気込みは達成してほしいものだ
「ならさ?ここに私と来てないで一緒に行動するべきだったんじゃない?こんなところで油売ってる暇ないんじゃない?」
「……いいのです。ここは由布子さんに任せるべきなのです」
「任せるって?」
「私の目的は、湊さんと普通に会話が出来るようになることですが、この旅行の目的自体は湊さんを元気づける為のもの。……見たでしょう?湊さんの顔を」
「……うん。嬉しそうだった」
「私も初めて見ましたわ。あまり表情を顔に出さない人ですから尚更に。だからここは邪魔したくなかったんですわ」
確かにあまり見せない表情をしていた。私が生きていた時でも両手で数えられるぐらいしか見せなかった顔だ
「湊さんをちゃんと理解出来ているからこそのチョイス……私は他の人に比べて、随分と差をつけられているようですわね」
由布子さんは家がお隣さん。千夏さんは職場が同じ。初芽は元嫁の妹+通い妻みたいなことをしている。そう考えると確かに不利な気がする
「まあまあ落ち込まないで!そりゃあ1番先頭を走ってる私と比べればかなり差がついてるとは思うけどね!」
「あら?あなたは私とそんな変わらない位置にいると思いますわよ?50歩100歩ですわ」
「え……うそ……蘭から見て私の位置付けってそんなに下なの?」
「由布子さんは分かりませんが、初芽も多分そう思ってますわよ」
ガクッと項垂れる千夏さん。非常に申し訳ないが、私もそれぐらいの位置づけでいる
「そっか……そうなんだ……」
ぷるぷると肩を震わせている。相当ショックを受けた様子だ
「まあいっか!これから上げていけばいいし!」
「……その超ポジティブ精神。見習っていいものか躊躇うレベルですわね」
ここが千夏さんの良いところだ。元気で明るくポジティブになれるというのは、大人になればなるほど難しいもの。湊とは真逆な性格だけど、それはそれで相性が良さそうな気もする
♢ ♢ ♢
その後、話は『ハロウィン以外でカボチャを食べて何がいけないの⁉︎』に戻り、湊の話題がこれ以上出なさそうだったので、私は湊達の方へと2人より先に戻ることにした
ただ……3人は別の場所へ移動しており、『鉄パイプは舐めるとマズイ』の展示場所と由布子さんの作品の場所では姿が見当たらなかった
人も多く、広いこの空間で3人を見つけるのは骨の折れる作業だ
「どこに行ったかなぁ……あっ」
私はとある物が目に入った
「『ジャリージュリージョリーの大冒険目次録だ!まだ連載してたんだ……」
私が生前にハマっていた作品。引型文庫の作品なのは知っていたが、まさかまだ連載されていたとは……
「連載開始から30年記念⁉︎あの展開からさらに7年も続けたの⁉︎」
この作品の大まかなあらすじは、父親、母親、そして5人の兄弟の7人家族で平和な生活を送っていたある日。長女のジィリーと次女のジェリーが魔王に気に入られて連れ去られてしまった。2人を助ける為に、3人の兄弟達が魔王を討伐する為に旅に出るという話だ
「私が死ぬ前に魔王を討伐して、2人の兄弟を助けて平和を迎えてたはずだけど……こっからどうやって7年も……」
すごい気になる……でも早く見つけないと……でも……
余命宣告された時、まだ『ジャリージュリージョリーの大冒険目次録』だけは完結まで読めて良かったと思ってたのに、そこから7年分の物語があると思うと……
「ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ……」
私の幽体は、『ジャリージュリージョリーの大冒険目次録』の作品展に赴いた




