プラン
「李華さん!居たら出てきてください!」
由布子さんは誰もいない部屋で私を呼んだ
「呼ばれてますよ。反応しないんですか?」
「ちょっと困らせてやろうと思ってねー」
「悪趣味な……」
私が反応を返さないので、李華さんは戸惑っていた
私を呼ぶ理由は分かっている。旅行の件で私からアドバイスをもらいたいのだろう
「いない……かぁ。そう都合良くいないよね……私じゃなくて湊さんのこと見てるんだし」
そう都合良くいるんですけどね
パソコンと睨めっこしながら旅行先を探す由布子さん。検索履歴が旅行先の欄でどんどん埋まっていく
「はぁ……あーー‼︎どこが良いのか分かんないよぉ‼︎世間の陰キャのイメージを集結させたら私が出来上がるぐらいインドア根暗オタクの私には荷が重いよぉ……」
自分のことを信じられないほど過小評価をする由布子さんは頭を抱えて机にもたれかかった
「……さすがに声掛けしてあげてくださいよ。かわいそうです」
「うーん……もうちょっとだけ見守ってあげよ?由布子さんの成長の為にもね」
陽キャになってほしい……とは思ってないけど、由布子さんはもうちょっと積極的になってもらいたい。湊も奥手なタイプだから、このままでは磁石の同じ極同士……くっつくことは出来ないと私は思っている
♢ ♢ ♢
「……李華さんのせいですからね」
「ええ……私のせいなの?これ」
机に突っ伏し動かなくなった由布子さん。頭からプスプスと音と共に黒い煙が上がっているように見えるのは幻覚だろうか?
「まさかこんなに悩むとは……」
かれこれ1時間近くずーっとページを開いては戻り、開いては戻りを繰り返す由布子さん。温泉に行くことは決定事項みたいだが、日中にすることが思い浮かばないようだ
旅行に5人で行くとなると、さすがにやることはアウトドアになるだろう。まあ例えばだが、蕎麦打ちの体験みたいなものならばインドアな行事でも良いと思う
ただその考えが頭に入ってないのか、検索内容は 『旅行 アウトドア』 『旅行 行事』 『旅行 良い雰囲気に持っていく方法』
……最後のは関係なかった。まあこのようにアウトドア関連でずーっと検索をかけているのだ
「李華さん」
「はいはい。分かったわよ」
ここはズバッと私がアドバイスしてあげる必要があるみたいだ
「……ふー」
由布子さんの耳元に優しく息を吹きかけた
「ひぃやぁあぁぁぁぁぁあぁあぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
今までで1番長く、1番大きな声が上がっていた。多少の防音性能のあるマンションで良かった。まあそれでもマンション内どころか外の通行人にも多少聞こえただろうけど
椅子ごと後ろに倒れそうになる由布子さん
「おっとと」
私は咄嗟に触れる能力で、由布子さんの後頭部にたんこぶを作らずに済んだ
「ごめんね。また驚かせちゃって……ってあれれ?」
由布子さんは気絶してしまったようだ
「……やりすぎです」
「さすがにこれは反省してます……」
そっと由布子さんを椅子から下ろす。このままベッドへ運んであげたいところだが、触れたのは椅子なので、5分間は由布子さんに触れることは出来ない
代わりに乗っ取りの能力を使い、由布子さんの身体をベッドで寝かせた
本人の意識は途絶えたままでも、身体を動かすことは出来るし、目も開く。そもそも乗っ取っている時は、その人の意識を途絶えさせているので、元々途絶えてようが関係ない
寝てても乗っ取って動かせるし、不謹慎だが、死んだ身体でさえ動かせる。死後硬直のせいで動きづらくはあるのだけど
「目覚めるまで待ちね」
「本当に余計なことしましたね」
「だからごめんってば!」
♢ ♢ ♢
「……んっ。……あ、あれ……?私いつの間に寝て……」
気絶してから約1時間近くで由布子さんは目を覚ました
「おっはー。よく寝れた?」
「ひっ‼︎あ、り、李華さん……」
姿が見えない為、どうしても唐突に話しかけることしか出来ない。驚かせる気がなくてもこうなってしまうのは仕方がないか
「さっき呼んでたでしょ?用件は?」
「は、はい!そ、それがですね……あれ?」
「どうしたの?」
「私が李華さんのことを呼んだのって、李華さんが話しかけてくる1時間ぐらい前の話ですよね?」
「……」
私はその言葉の返事を返さなかった
「時間切れ……かな?まだ半分くらいだと思ったんだけど……」
正解。由布子さんの質問に答える時間ぐらいは全然残っていた
「樹里」
「はい?」
「うなじ辺りにチョップ入れたら失神するってのは本当かな?」
「実際にしたら死んじゃう可能性があるので絶対しないで下さいよ」
♢ ♢ ♢
「よし!で、話ってなんだっけ?」
インターバルが終わったタイミングで、また由布子さんに話しかけた
「あ……それが、今度湊さんも交えて旅行に行こうって話になりまして……湊さんが好きそうな場所とか旅行でする行事とか分かりませんか?」
由布子さんはおそらくさっきの質問の続きをしたいだろうが、私の限られた時間を無駄にしない為か、今度はその話はされなかった
「そうね。でも時間がないし検索場所に内容打つから、自分で検索して良いところを見つけてくれる?」
「わ、分かりました!」
「あ、検索欄にマウスのマーカーだけ当ててね」
由布子さんは私の指示通り、マウスで検索欄をクリックした
そして私は、慣れないキーボード捌きで検索欄に打ち込んだ
「よし。これでデートプランも固まるでしょ。あとは……」
由布子さんがちゃんと湊を誘えるかどうかだ




