10年の積み重ね
「あうっ⁉︎」
千夏さんの奇声に初芽以外の目線がこちらへと向いた。初芽は私が身体を乗っ取ったのを見ているので、わざわざ反応を示さなかった
「な、なんでもないからね‼︎それより私の質問は……2番の人に結婚願望について聞こうかなー!」
初芽は軽くため息をついていた。そして2番の人が反応する前に、湊の方を見た
「俺か……」
樹里の教えてくれた通り、2番は湊が持っていた
「結婚願望って具体的に何言えばいいんだ?」
「そうだなー!」
千夏さんのテンションを演じるの疲れる……
「じゃあ好みのタイプと、結婚するつもりがあるのかを聞かせてもらいたいなー‼︎」
私が現状気になっている2つを質問として挙げた。一個のルールだが、結婚願望って括りにしたから2つ答えさせても文句は言われないだろう
「好みのタイプか」
全員が食い気味で湊の言葉を待っている
「特にないな」
全員がドテッと軽く身体を転ばせるような動作をしたが、私は昔と変わらない答えに安心した
好きなタイプが出来て、それに見合う子がいないから結婚しないものだと思っていた
と、ここで私の能力のタイムリミットがやってきた。千夏さんの身体から追い出され、千夏さんは意識を取り戻した
「あれ……また私ーー」
由布子さんもそうだが、私が身体を乗っ取る前と追い出された後でその間の記憶がないことが一瞬で理解出来るらしい。多分気絶した感覚と一緒なんだと思う
戸惑う千夏さん。だが初芽が上唇に人差し指を付けて、シーッとポーズを取っていたのを見て、これ以上の言葉を発することもなく、湊の言葉に耳を傾けた
「湊さん。もう一つの方は?」
初芽がもう一つ目の質問の湊に問うた
「……あるよ」
私はこの言葉を聞いて、飛び跳ねるほどの喜びを見せた。生きていたら、私の脳天で天井を貫くほどの大ジャンプで
多分この言葉を聞いた4人も同じ気分だろう
「でも、まだしばらくはいいかな」
私は天国から地獄へと落とされた気分だった
血液が沸騰するぐらいに喜んだというのに、今はその血もカチカチに凍ってしまった
……血通ってないけど
「もし時間が経って、こんな俺を受け入れてくれるような人が居てくれたら、その時には結婚したいなって思うよ」
受け入れてくれる子、最低でも4人いるぞ!しかも今同室にいるぞ!
「よかったですね李華さん。結婚する気あるみたいですよ」
「……それが本心ならね」
私が思うに、多分この言葉はウソだと思う。湊は残念ながら、鈍感系主人公ではない。蘭さんはどうかは分からないが、他3人から好意を寄せられていることには気がついている
わざとあんな言い回しでこの場を凌ごうとしているのだ
「……それで?本当はどうなんですか?」
初芽は大きくため息をつき、湊に問いかけた
「再婚……する気ないでしょ?」
初芽もどういう訳か湊がウソをついていることを見破った
「私は残念ながらバカ姉ほど湊さんの事、詳しくありません。それでも私は湊さんに出会ってからもう10年以上経つんです」
私と同じ日に出会い、私が死んでからも初芽は湊と会っている。歴だけで言えば私より初芽の方が圧倒的に長い
「10年の積み重ね。あんまり舐めない方がいいですよ」
湊は観念したのか、初芽よりもさらに大きなため息を吐いた
「……そうだな。再婚は考えてない」
湊の言葉にその場にいた4人の表情は固まった。当然、私も同様だ
「お姉ちゃんのことが忘れられないから……ですか?」
「……うん」
「代わりにはなれませんか?」
「代わりとかないよ。それに、代わりなんかにしたらその子が可哀想だろ」
「そうですか……じゃあ代わりにはなりません。上書きする存在になります」
「上……書き?」
初芽の言葉に全員の表情が明るくなった
「バカ姉との思い出なんて霞むほどの濃い思い出を湊さんと作ります。湊さんの隣に居るために」
後ろの3人もやる気の様子だ。意外にも1番燃えているのは由布子さんみたいだ
「簡単に言うなぁ。……李華を超えるのが難しいことは、初芽ちゃんも分かってるだろ?」
「簡単ですよ。バカ姉との線路はもう途切れたんです。でも、私達との線路はまだ続くんです。どれだけ先に伸びた線路だったとしても……終点に到着するほどの長さでも超えて見せますよ」
「良い言い回しね初芽。……私もその線路とやらを轢かせてもらおうかしら」
初芽の言葉に便乗する形で、蘭さんは湊争奪戦に参加することを表明した
「なら私もー!でも仕事が一緒な私が1番有利だから、3人とも諦めた方がいいんじゃない?」
「バカ。アンタが1番年取ってんのよ」
「その言葉はライン超えだろ‼︎」
千夏さんと初芽は取っ組み合いを始めた
「……あの。わ、私もその……み、湊さんの思い出のい、一部になれるように……が、頑張ります!」
由布子さんも湊に宣言した
湊は照れ臭そうに頭を掻いた
「気持ちが変わらないかもしれないぞ?」
湊の問いに答えるために、初芽は千夏さんとの取っ組み合いをやめた
「変わらなかったら私達の責任です。7年以上も前の思い出に勝てない私達の力不足です」
「だよなー。それは湊さんが気にすることじゃないよな」
「そうね。非は私達にあるわね」
「そ、そうならないように……頑張ります!」
……当初はこんなに進展するだなんて思っていなかった
ただコスプレ着た女の子達を見て、湊の好感度を少し揺るがすことが出来れば上出来だって考えてた
でも……今日が今までで1番……成果の出た日だと確信している
「いいんですか?李華さんとの思い出を上書きするなんて言ってますよ?」
「それでいいのよ。李華とかいう障害物は色褪せて片隅で邪魔するぐらいなら、ぶっ壊してくれた方がいいの」
湊は前に進まないといけない。まだ人生の半分どころか、3分の1も迎えていない。そんなところで時間を止めているぐらいなら……消していい。壊していい。無くしていい。そして……思い出さなくていい
「湊さんの隣にいるのが私達4人の誰かでも、その他の誰かでも……バカ姉だったとしても、私は湊さんの未来のために全力を尽くすことを、ここに誓いましょう」
「……重いよ。そんなに重くしなくてもいいって」
「私の愛は重いんです。こんなのは序の口です」
「これで序の口か……。まあそうだな……まだ前言は撤回しないけど……皆んなが俺のことをそんな風に思ってくれるなら、少しは前を向けそうだよ」
その言葉を聞いた4人は「いえーい!」と仲良くハイタッチを交わした
♢ ♢ ♢
ハロウィンパーティーがお開きになり、全員が家へと帰っていった
そして日課の私の仏壇へ湊はお参りをした
「……李華」
いつもは何も発さずに済ませるが、今日は声に出して私の写真に声をかけた
「さっきのやり取りの声。聞こえてたかもしれないけどさ……お前の最後のお願い……前向きに検討してみるよ」
わざわざ私の仏壇に報告を入れてくれたということは、本当にその気になってくれたという証拠だ
「進展しましたね」
「急にね。良い日だよ」
幽霊になってから今日ほど空が綺麗に見える日はなかった。半ば諦めていた私の願いが進展したことで、目の曇りが取れたようだ
なんて感慨に耽っていると、湊の家のチャイムが鳴った
もう23時を回る頃の訪問者。一体誰が……
湊が扉を開けると、扉の前には誰もいなかった
首を傾げながら扉を閉める湊。だが扉を閉める最中、郵便受けポストからカランカランと音が鳴った
「……ボイスレコーダー?」
入っていたのはボイスレコーダー。梱包されていないので、湊が注文した商品って訳じゃなさそうだ
湊は真ん中にある大きなボタンを押した
「ーーの大事な男の邪魔。そして私の大切な妹を傷つけたアンタを私は許すつもりはない!これ以上、湊とその他周りの人間に迷惑かけるようなら私はアンタを殺してやる‼︎もう絶対に近づくな‼︎」
……絶句した。それと同時に私の中のドス黒い感情が湧き溢れた
「……李華?」
このボイスレコーダーの持ち主は……桑名だ




