不幸事
とある理由で、初芽は男性恐怖症を患っている
最近は男の前で悪態を付けるほどには治っていた。だが桑名のせいで恐怖心が呼び戻されてしまった
空手を習っていた初芽が反撃できなかったのは、その男性恐怖症のせいだと思う
だから私は、桑名を許さないことに決めた
私がこの男に出来ることなんて沢山ある
触れる能力で、刃物を使ってブスリと一刺し。身体を乗っ取る能力を使っての身投げ。道端にいるとき、能力で極限に酔わせた状態にすれば、飛び出しで車との接触事故を起こすことも出来るだろう
他殺の線を消すなら接触事故を負わせるのが1番か。加害者には申し訳ないことをしてしまうけど
……なんて考えたりもしてしまうほど、今はこの男の存在が邪魔すぎる。さすがにしないけどね
今現在、桑名は昔の蓄えと親のお金だけで生活しており、職に就いていない。ということは社会的に抹殺することはほぼ出来ないと思っていい
ならば、湊及び、湊の周りの人達に近づかせないようにするしか方法はない
それも……ちゃんと懲らしめてやる形で
ということで早速私は、樹里にも手伝ってもらいながら、行動に移すことに決めた
まずは手始めに頭を叩いてやった
「痛っ⁉︎だ、誰だ⁉︎」
1人のはずの部屋で急に頭が叩かれた感覚があれば、幽霊がいるんじゃないかと恐怖するはず
私は時間制限を迎えるまで、何回も桑名の頭を叩いた
「痛って‼︎な、なんだよこれ⁉︎」
怯えている様子はないが、さすがに困惑はしている様子。手を振り回して、辺りに何かいないか確認したところで、透けてしまう私に触れることは出来ない
そして時間制限を迎え、5分のインターバルが必要になった
「な、なんなんだよ……クソが」
さすがにイラついている様子。まあこれに関しては誰でもイラついて当然だと思う
「なんか頭の病気にでもかかったか?畜生が」
幽霊の仕業とは全く考えず、病気のせいだと思い込んでいるみたいだ。どう考えても最初に行きつくのは幽霊の存在だと思うが……常人とは考えがズレている
「実行してから言うのもなんですけど、こんなことしても湊さんに近づかせないことは出来ないと思いますが……」
「分かってるわよ。これは個人的な鬱憤晴らしだから」
この事象が起こるのは湊のせいだと、すごい勘違いをしてくれれば抑制にはなるかもだけど、あまりに関連性がなさすぎてあり得ないだろう
「でもこういう不幸事を積み重ねていって、その事象全てが湊のせいだと思わせることが出来れば、自然に離れてくれると思わない?」
「なるほど……李華さんのくせに頭がいいですね。あ、もしかしてリーナさんか、タナトス様に入れ知恵されました?」
「私1人で考えたわ‼︎」
「おー‼︎えらいえらいよく出来まちたねー‼︎」
「あーもう怒った‼︎樹里の足ちょん切ってやる!」
「いや、足ないですから」
「あ、そうだったわ」
年下から赤ちゃん扱いされたことに、少し悲しみを覚えた
「でも確かにそうですね。能力を応用すれば、嫌がらせ程度ならいくらでも出来るでしょうし、バレる可能性もほぼ無いに等しい……対策が出来るとすれば、初芽さんがお世話になっている霊媒師に頼るぐらいですかね?」
「この男にそんなお金あるわけないじゃん。100万超えるんだよ?」
「128万7200円ですよ。128万7200円」
「そうだった。128万7200ーーってまたループするからやめとこ……」
過去の経験から、私は途中で言いやめることにした
「……とりあえずちまちま不幸事を起こしますか」
♢ ♢ ♢
「クソ‼︎なんなんだ今日は‼︎どうなってやがる‼︎」
部屋の物に当たりながら喚き散らかす桑名。そのやかましさから、隣人から思いっきり壁を叩かれ、スッと大人しくなった
「うんうん。効果あったね!」
「……あれだけのことをされたら、まあ荒れますよね」
今日は丸一日部屋から出ることのなかった桑名。頭を叩かれるし、ティッシュの中身が全部部屋に飛び散ってるし、勝手に電気が付いたり消えたりするし、点けていた暖房が冷房に変わるし。他多数
これだけ色々と謎現象を起こした。さすがの桑名も途中から「幽霊の仕業か?」と存在を疑い出してくれたから良かった
「さてと……あとはこれを湊のせいで起こる現象って事を伝えて、「湊及び湊の身近な人を巻き込むような事があれば、更なる不幸が待ち受けている……」これを桑名に伝えればオッケーかな」
「でも伝えるってどうするんですか?声を聞こえさせることは出来るかもしれませんけど、李華さんの声ってバレるんじゃ?」
「確かに……声を変えて喋ったとしても気付かれる可能性は0じゃない」
出来ればバレる可能性は0で抑えたい。ここで取れる作戦は1つだった
♢ ♢ ♢
「……なんだこれ?」
外出しようと外に出た桑名は、扉の前に貼ってあった紙を見つけた
「今日起こった不幸事をは全て私が起こした物だ。湊及び湊の身近な人間に迷惑をかけるようなら容赦はしない。by湊に取り憑く悪霊より」
筆記にすればバレることはない。そしてこのコメントを見れば、相手は悪霊。自身では太刀打ち出来ないことぐらい理解してくれるだろう
桑名はその張り紙を見た瞬間、紙を外して部屋の中へと戻った
「さすがに怖くなったのかな?」
「まあ怖いでしょうね。未知の現象が起こり続けてたんですから。私がこの人の立場だったら泣いてますよ」
「だよね。これで諦めてくれるかなー!」
私はウキウキした気持ちで、もう一度桑名の部屋に戻った
桑名は自身のベッドに座り、私の書いた紙をじーっと見ていた
「何してるんですかね?」
「さあ?」
じーっと見たかと思えば、今度は天井と電気に紙を透かして見ていた
「暗号書いてるって思われてるんじゃないですか?」
「え……文章そのままの内容なのに?」
訳の分からない言葉、配列ならばそうする意味もあるだろうけど、ちゃんとした文章を書いているのに、それをする意味が分からない
「……やっぱり」
桑名は私の書いた紙を置き、そう呟いた
「李華!ここにいるんだな‼︎」
「……っ⁉︎」




