質問とペナルティとネズミと
「じゃあ由布子ちゃん。質問続けるね?」
「は、はい……」
一時的に止まっていた質問タイムを再開させた
蘭さんは由布子さんを見る目が明らかに尊敬している人を崇める目をしていた
対して千夏さんは口からストローを離さずに、すこーしずつジュースを減らしていた
おそらくもう喋らないように口を塞いでおくための作戦だろう
「好きな食べ物は?」
「ぐ、グラタンです」
「好きな飲み物は?」
「飲み物……飲み物……りんごジュースです」
「好きな番組は?」
「テレビは高校卒業してから見てないです」
「好きな俳優は?」
「えっと……テレビ見てないので分からないです」
湊に関係のない質問を繰り返す初芽。さっきも言った通り、まずは蘭さんと千夏さんに、由布子さんのことを少しでも理解させる為だろう
「次の質問ね。湊さんのどこが好き?」
「全部です。……あ」
初芽はガッツポーズを出した。対照に由布子さんは恥ずかしさからか、顔を伏せて隠してしまった
「いやー。普通なら答えないと思って罠を仕掛けて良かったわ」
「……ひどいです」
「普通の質問を連続でした後、不意な質問を避けられなかったね。私の戦略勝ち!」
「うぅ……」
今回ばかりは妹に「でかした!」と褒めてあげたい
「にしても全部って……すごい惚れてるんだね」
「んんっ……んんっ‼︎あーそうですよ!すごい惚れてるんです‼︎悪いですか⁉︎」
何かが吹っ切れたように叫ぶ由布子さん。こんな由布子さんの姿を見たのは初めてだ
由布子さんは恥ずかしさに耐えきれず、顔を押さえてソファーに突っ伏してしまった
「……もう何も答えません。次の人に変えてください」
「まだ質問残ってたんだけど……まあいいか。じゃあ次は千夏さんにしようかな」
「おっ。もう喋っても大丈夫なんだね」
「あ、マイク持つ前に喋ったんで、1日追加で」
「初芽って本当に性格悪いと思うんだよね⁉︎」
「はい。2日追加ね」
「……」
……可哀想に。これでもう5日分だ
無言で由布子さんがさっき使ったマイクを取った
「まず事故紹介からお願いしまーす」
「椎名千夏でーす!本来は28の年だけど、遅生まれだから27歳です。仕事は湊さんと同じ職場で、美容師してまーす!よろしくねー!」
罰ゲームで5日も勝手に有給消化が決まっているのに、元気な挨拶をする千夏さん
「はい。質問していきますねー。好きな食べ物は?」
「カレーかな」
「それはなぜですか?」
「なぜって……辛くて美味しいから」
「キムチではダメなんですか?」
「キムチも好きだけど、カレーとはまた違うじゃん?」
「でも同じ辛くて美味しい食べ物ですよ?」
「そうだけど!辛さの系統が違うっていうか」
「それでも同じ辛くて美味しい食べ物ですよ?」
「……だー‼︎カレーが好きなの‼︎この質問は終了‼︎一つの質問の回答に更に質問するの今後禁止‼︎」
おかしいな……初対面の時は初芽がイジられる側だった気がするが……この数日間で2人の関係が逆転している
千夏さんは初芽をイジることが出来る貴重な存在だと思っていたのに……そんな私の期待はあっさりと壊された
「わがままだなぁ……じゃあ次は……好きな四字熟語は?」
「……そんなの聞いて意味あるの?」
「早く答えてください」
「絶対ないじゃん……んー?天地雷鳴?」
「なんでよりによってそれなんですか……」
「う、うるさいな!パッと思い浮かんだのがそれなの!」
呆れ顔をする初芽。これに関しても千夏さんに非はない
「それじゃあ、湊さんの好きな所は?」
「そりゃあもちろん、カッコよくて優しくてイケメンで誠実で美形で声がカッコよくてーー」
「あ、もうその辺でいいですよ」
長ったらしく好きなところを述べる千夏さんの言葉を遮った
「えー!まだあるのに……」
「もう伝わったんでいいです。あと、2回に1回顔のこと言ってるからね?言い方変えただけだからね?」
湊の容姿がそれだけ良いということだ
「はい。次は蘭ね」
「やっぱり私もやるのね……」
「当たり前でしょ?」
「はぁ……まあいいわ。やらなきゃ居候させてもらってる件で色々とチラつかされそうだし」
「よくわかってんじゃーん」
今は初芽の手のひらの上に、蘭さんは立っている。
少しでもつつかれれば落ちる……そんな不安定な状況だ
実質初芽に弱味を握られてるようなもの。千夏さんとはまた違った意味で可哀想だ
「それじゃあ始めるね。好きな食べ物は?」
「これは共通で聞くのね。そうね……キャビアかしら」
「キャビ……これまた高級な食材を……」
「え?キャビアって高級なの?」
「そうだった……良いとこのお嬢様だった……」
キャビアが高級食材という認識がない蘭さん。もしかしたら一般家庭における、納豆の位置に蘭さんのキャビアはいるのかもしれない
「……じゃあ次!好きな飲み物は?」
「ブラックアイボリーですわ」
「ぶ、ブラックアイ?なに?」
「ウチでよく淹れてもらえるコーヒーですわ」
「へー。そんなコーヒーあるんだ。知らなかった」
と、ここで千夏さんが初芽さんの肩をちょんちょんと刺激し、初芽の意識を自身へと向けた
「……なんですか?今は千夏さんの番じゃないですよ?」
千夏さんは黙って、初芽に携帯画面を見せた
「ああ……わざわざブラックアイボリーのこと調べたんですね。値段が……えっ?100gで50,000円?」
大体コーヒー豆の100gの相場は300円だ。おおよそ166倍近く値段が高くなっている
「……そんなの日常的に飲んでたのに、よくウチのパックのコーヒーを美味しい美味しいって飲んでたな……」
「え?美味しいよ?スッキリしてて」
「……高級の味に慣れすぎて、安物食べたら全部同じ食べ物に感じるような舌にならなくてよかったね」
「そうなったらもう舌を病院で診てもらうしかないですわね」
100g50,000円のコーヒー……飲んでみたかったなぁ……
……あ、私苦いのダメなんだった
「じゃあ次!モデルの収入は?」
「それは教えられませんわ」
「じゃあ高校の頃のお小遣いの値段!」
「お金は貰ってませんわ。黒いカードを渡されたぐらいですわ」
「ぐらいって……それで全部解決するじゃん……」
改めて次元の違う場所にいると感じさせられた話だ。湊が蘭さんと結婚したら、お金遣い荒くなるのかな?働かなくて良いじゃん。ってなって仕事辞めたりしないかな?
蘭さんと結婚したら、湊がダメ男になる可能性も十分にありえそうだ
「じゃあ最後に、湊さんのことはどう思ってる?」
「好きですよ?すごく好き」
と、ここで千夏さんがガタッと激しい音を立てながら立ち上がった
「……急になんですか」
何か言いたげな様子だが、喋るとペナルティがあることを学習している千夏さんはジェスチャーだけで意図を伝えようとしていた
「仕方ないですね。今は喋っていいですよ」
初芽から解除宣言が出され、千夏さんはジェスチャーではなく、言葉で意図を伝え始めた
「この人の好きはウソだと思う!」
「なんでそう思うの?」
「だってこの人!いつも湊さんに冷たく当たってるもん!」
「……そうなの?」
確かに、一緒の職場で働く千夏さんは、蘭さんの湊に対する態度はずっと近くで見ていた。第三者から見れば、確かに冷たくあしらっており、好きだと言われても到底信じられるものじゃない
「……まあそうね。態度は冷たいと思う」
「ほら!」
「でもそれは……その……は、恥ずかしくなってつい……」
顔を赤らめる蘭さん
「はーん。そういうこと。要するに照れ隠しなんだ」
「う、うん……」
初芽はちゃんと理解してくれたようだ
「て、照れ隠しって……はぁ。理由は分かったけど、冷たく当たりすぎ。さすがに湊さんが可哀想だから」
「うっ……そ、そうよね。反省してるわ」
反省もしてるだろうし、実際家では超絶落ち込んでいる蘭さん。いつか克服して、普通の態度で湊と接することが出来る日が来ることを私は祈っている
「とりあえず蘭は反省するってことで!質問終了!解散!」
ここで初芽からの唐突な解散宣言が出された
「急すぎない?」
「だって当初の目的は達成したしー?あとは各々帰ってもいいし、ここで時間いっぱいまで歌ってもいいよ?お金は私が持つからさ。ちなみに私はもう帰るつもりだから」
「逃すわけないよね」
少しトーンの低い声で逃がさない宣言をした千夏さんは、出入り口の扉の前で仁王立ちした
「な、何してるの?」
「私達には散々質問したんだから、次は初芽の番じゃん」
「いや、私の番は私のプログラムの中に入ってないから」
「アクシデントってのはいついかなる時も起こりうるものよ?初芽のプログラムにアクシデントが起きたせいで、今から質問することになったから」
「えっ?蘭までそっちにつくの?」
「わ、私も!初芽さんにはき、聞きたいことがあります!」
「由布子さんまで⁉︎」
3人に出入り口を固められ、逃げられない初芽。これが本当の袋のネズミってことなんだろうなぁ
♢ ♢ ♢
「……おはようございます」
「おはよう。5日間の休みは満喫出来たか?」
「……今日の太陽は今までで1番眩しく感じましたね」
「……そうか?」
あの日から5日間。本当に有給を使って休んだ千夏さん。友達を誘って旅行に行こうと考えていたが、さすがに急な話すぎて誰からもゴーサインが出なかった
結果……この5日間はずーっと家で籠るという、なんともいえない有給休暇となった千夏さん
「有給って……なんなんですかね?」
「この5日間で何があったんだ……」




