蘭の覚悟
初芽と別れ、急いで2人の元へと戻る私。ただもう既にある程度の話は終わっていたようで
「なるほどね。経緯はわかったわ」
と、湊の話を聞いて納得している様子だった
「……私と7歳ぐらいしか変わらないのに、結構壮絶な人生を送ってきたのね」
「壮絶ってほど壮絶じゃないですが……」
「私から見れば壮絶よ。壮絶で……とっても苦しい人生だったでしょう」
「……」
湊がどこまで蘭さんに話したのかは分からない。でも、5分足らず湊の過去を聞くだけで、平穏な生活を送った人からはそう言われるのだ
……更に壮絶にしたのは私のせいでもあるんだけど
「教えてくれてありがとう。それと、辛い話をさせて悪かったわ」
「い、いやいや!蘭さんが謝るようなことじゃ……」
「にしてもあの女……こんな過去をわざわざ話させるように仕向けるなんて」
「良いんですよ。話したくない話題って訳じゃないですから」
「そうなの?こういうのって隠したいものじゃないの?」
「俺は特にそういうことは……言って思い出したくないとか言う人もいると思いますけど、俺は常に覚えちゃってるんで。だから気にしてないです」
「ふーん……そういうものなんだ」
常に覚えてる……そのせいで湊は新しい恋をしないのかもしれない
「暗い話をしてすいません。まだ服買いますよね?そろそろ出ませんか?」
「……いいえ。今日はもう帰りましょう」
「え?もう良いんですか?」
「ええ。この分だけで5回分の仕事は乗り切れるもの。それにストックが無くなったらまた一緒に来てもらうから」
「ま、またですか?」
「何よ。なんか文句あるの?」
「い、いえ。全くないです」
「……なら良かった。じゃあ今日はここで解散ね。また連絡するから、その時はお願いね」
「分かりました。その時に休みの日程を伝えますね」
「ありがと。じゃあまた美容室でね」
「はい。ご来店お待ちしております」
湊は蘭さんに頭を下げ、蘭さんを見送った
♢ ♢ ♢
その夜。私は樹里を連れて蘭さんの家に訪れた
初芽の言うように、ショックを受けているかもしれない。それを確かめる為にだ
「豪華な家ですね……この家何坪なんだろう……」
「さあ?でも気になるのは分かるよ。広すぎるし」
パッと見、田舎の小学校の運動場ぐらいの敷地がある環凪家。初めて訪れた時は、蘭さんの部屋を探すのに10分近くかかってしまったのは良い思い出だ
家の中でも端の方にある蘭さんの部屋に入った
蘭さんは何か考え事をしているようで、枕を抱きながら仰向けにベッドで寝転んでいた
「ぼーっとしてますね」
「考え事をしてるんでしょ」
あまりショックを受けてる様子はない。ただ心配だからもう少し見守ることにした
♢ ♢ ♢
「大丈夫ですかこの人……2時間ぐらいずっとこの状態ですけど」
私達が着いてから、蘭さんはずっと枕を抱いて仰向けのまま動かない。私達が来てから2時間だから、本当はもっと時間が経っているだろう
「もしかして寝てる?目を開けながら寝るとかいう器用なことしてる?」
瞬きもこの2時間で10回してるかしてないかぐらい。見てるこっちが少し心配になる
「……湊さん」
私と樹里は喋ることをやめ、蘭さんの近くで耳を立てた。それぐらい今の蘭さんの呟き声が小さかったのだ
「……普段からちょっと暗めなのは、過去のせいなのかな?」
蘭さんは湊の性格が暗い……というよりクールなのが過去が原因だと考えているようだ
「そうなんですか?」
「いや、湊は昔っからあんな感じだよ」
私は高校からの湊しか知らない。けど、高校の頃に湊と小学校が一緒だった子がいて、その子から聞いた話でも、小学生とは思えないぐらい落ち着いていたらしい
「湊さんのお嫁さん……か。どんな人だったんだろう」
顔だけでいえば今日見たんだよなぁ
「顔はいいけど、頭がおかしい人ですよー」
「おい樹里。さすがの私でも怒るよ?」
「分かりました。訂正しましょう。頭がちょっとおかしい人です」
「度合いがちょっとマイルドになっただけじゃん‼︎」
蘭さんには聞こえないが、樹里が蘭さんの疑問に答えた
「妹さんがあれだけ美人だったし、お姉さんも相当な美人だったんだろうなぁ」
初芽のことを美人だと思ってくれていたようだ。
自覚はあったが、やはり有名なモデルさんからそう言われるのは嬉しい
「でも……そりゃそうだよね。あれだけ優しくてカッコいいのに、29歳になるまで相手が居なかったわけないよね」
そうなんだよねぇ。相手なんてかなりの量居たよ。この7年の間にもいたし、私と結婚してた時も、指輪してるのに言い寄ってくる女の子もいた
ただ、湊が相手にしなかっただけ。そのおかげで私は悩んでいるのだが
蘭さんは湊が元既婚者だということに多少なりともショックを受けている様子だ
初芽の言う通り、少しは牽制にはなっているのかもしれない
私からすれば、候補者を1人減らされそうでお怒り状態だ
「相当ショック受けてますよ」
「んー。でも湊と付き合うっていうなら、私とのことも乗り越えてもらわないといけないから。どちらにしても、いずれにしても通る道だったし、早めにバレて良かった気もするわ」
もし蘭さんと婚約を結ぶことになって、その後にこの事実が蘭さんに明かされた。蘭さんはそれを受け入れられず、婚約破棄。こうなるよりかは断然マシだ
私との約束が直前でダメになるより……遥かにマシだ
「……そうだ‼︎
そう呟いた後、急にベッドの上で勢いよく立ち上がった蘭さん
拳をグッと握って天に向かって突き立てた
「な、なにしてるんだろう?」
「かの超有名なラ○ウの真似じゃないですか?」
「今ここで?突然?」
唐突な行動に驚く私達。そして蘭さんは今までのような小声ではなく、普通の音量で宣言した
「私が湊さんを幸せにしてあげればいい!今までの苦労なんて気になんて出来なくなるぐらい!」
……初芽。牽制は失敗だったみたいだよ
「気合い入ってますね」
「うん。蘭さんにも頑張ってもらわないと」
気合十分。期待十分。これから蘭さんが湊にどんなアプローチを仕掛けてくるのか楽しみだ!
「その為にはまず湊さんと普通に話せるようにならないと……って考えただけで無理だよぉ‼︎」
蘭さんは夏場なのに、布団にくるまってしまった
前言撤回。不安だ……




