厄介事
反対側の下着売り場で友達とワイワイ雑談しながら、選ぶ千夏さん。いつもならなんとか気づいてもらえるように仕向けるのだが……今回は蘭さんがいるから、気づかれないように仕向けることにした
「……やば」
なんて考えている間に、千夏さんのグループが下着売り場から出ようとしていた
出てきたからといって絶対気付かれるというわけではないけど、ここに留まらせて置いたほうが、バレる確率は低い
「……となるとこれでいくかぁ」
私は千夏さんの友達の1人の身体を乗っ取った
「はぅ⁉︎」
「ん?どうしたの変な声だして」
「こ、この下着が可愛いすぎてさ!せっかくだから千夏が試着しなよ!」
私は近くにあった下着を手に取り、千夏さんに押し付けた
「え……でもこれ際どすぎるし……可愛いというよりセクシーだけど……」
焦って渡した為、布面積の少ない物を選んでしまった
「ち、千夏って好きな人いるんでしょ⁉︎じゃ、じゃあこの攻めた下着は買っておいて損はないよ‼︎」
「すっ……⁉︎た、確かにいるけど……話したことあったっけ?」
「みみみ見てれば分かるの!ほらっ!早く試着試着‼︎」
「で、でも見せる機会なんて……」
「見せる機会とかじゃなくて、見られてもいいようにしとくの!ほらっ!さっさと行った行った!」
私は無理矢理千夏さんを試着室に押し込んだ
と、同時に私は身体から追い出された
「……あれ?私何してんの?」
「何バカなこと言ってんの?アンタが千夏を試着室に押し込んだんでしょうが」
「え?そうだっけ?」
「僅か数秒前の出来事だったけど」
「なんか記憶が飛んでるような……変な感覚」
乗っ取られた本人は少し不信感を抱いている様子だが、乗っ取られたなんて非現実的なことが起こったなんて想像もしていない様子だ
「……あのー。着てみたけど」
カーテン越しに千夏さんの着替えが終わったとの報告がきた
「ほーい。じゃあちょっと覗くからねー」
友達の2人はカーテンをめくって、顔だけ入れて中を確認した
「ど、どうかな?」
そこには際どすぎる下着を付けた千夏さんの姿があった
「……なんて格好してんのよ」
「アンタが言ったんだけど⁉︎」
下着売り場ではしゃぐ3人。その間に蘭さんが服の会計を終わらせ、別の場所へと向かった
「ごめんね千夏さん……あ、でも下着姿は可愛かったよー」
私は千夏さんに届くはずのない謝罪をして、湊達の後を追った
「次はここよ」
「コンセプトは?」
「さっきと同じよ。あと1着は欲しいの」
「分かりました」
2人はお店の中に入った。私もそれに続こうとしたが……またも見つけてしまった
「げっ……由布子さんだ」
由布子さんと、担当編集者の時雨さんが店の方へと向かって歩いていた
店に入るかどうかまでは分からないが、このままでは見つかってしまう可能性がある……
「乗っ取りは使えないし……どうするか……」
乗っ取り能力のインターバル解除まで2分近くある。使えるとすれば、触れる能力と、リビティーナから貰った新しい能力か……
「……あ、あの男使えそう」
私は近くにいかにも女を手当たり次第にナンパをしそうなチャラ男を使うことにした
「ごめんねー。ちょっと私の役に立ってねー」
私はチャラ男に能力をかけた
「な、なんだ?急に頭がっ……うぇぇ……」
男は足元がおぼつかない様子。先程までと違って、フラフラした動きをしている
「おっ。効いてる効いてる」
私が貰った能力は「相手を強制的に酔わせる」能力だ
なーんでこんな無駄な能力もらった?と思われるかもしれないが、例えば湊が飲みの席とかで誰かにこの能力を使えば、湊はその子の介護をしなければならなくなる
必然的に、2人きりの状態。+そこに酔いつぶれた女性。いくら湊でも平静ではいられないだろう
だからこそのこの能力。まあお酒の席とか湊はほとんど行かないから、来客に炭酸ジュースでも飲ませた瞬間にこの能力使って酔わせるつもりでいる
「初使用がこんな形になるとは思わなかったけど……効果はちゃんとあるね」
効果は30分程度。インターバルは効果が長い分、かなり長めの1日だ
私は足取りのおぼつかない男の背中を押して、由布子さん達の前へと連れて行った
「ひ、人が……多い……」
「これぐらいでダウンしないでくださいよ。パーティにはもっと狭いところに人が密集するんですから」
「わ、私出る意味あります?」
「招待が来たんですからちゃんと行ってください。その為にわざわざ礼装を買いにきてるんですよ」
「じゃ、ジャージじゃダメ?」
「我が社の1番の売れっ子作家がジャージでパーティになんて出せませんよ‼︎」
「うぅ……」
どうやら出版社間でのパーティに、由布子さんはお呼ばれされ、その時に着ていく衣装を買いに来たようだ
そんな由布子さん達の前に酔ったチャラ男……私の見立てが合ってるなら、ここで……
「おっ!君可愛いねぇ‼︎」
……期待通りの働きをこの男は見せてくれた
「ひっ……こ、これが親父狩りってやつですか?」
「これがナンパってやつですよ。金銭要求されてないし、アンタはうら若き乙女でしょうが」
時雨さんは、由布子さんの前にバッと陣取り、紳士の称号を与えたくなる動きを見せた
「ちょっとちょっと。俺は後ろの子に用があるんだから、邪魔しないでくれるかなおばさん」
……あれ?モール内なのになんか異様にここだけ暗くなったような
「あぁぁぁ……貴方もう知りませんよ……」
由布子さんはその場からそそくさと物陰に隠れた
「……アンタ何歳だ」
「あん?」
「何歳か聞いてるんだよ」
「27だが?」
「私の方が一歳若いじゃねぇかぁぁぁぁぁ‼︎」
足をドンッと地面に踏み込み、そして相手の頭の上から右手のゲンコツが炸裂した
男はコンクリートの床に顔を減り込ませ、足をピクピクとさせていた
「ふぅ……次ババァなんて言いやがったら死後は超弱い魔法使いとして異世界転生させて、町中の笑い者扱いされるような人間にしてやるからな」
さ、さすがは2次創作を扱う会社の編集担当……例えが独特だ
「さて、シノ先生そろそろ行きますよー」
「君、ちょっといいかな?」
時雨さんは、警備員の男に話しかけられた
「なんですか?」
「なんですかじゃないよ。公共施設の床に穴空けておいて何事もないわけないだろ?」
「私は空けてません。空けたのはこの人の頭ですから」
「いやそんな屁理屈はーー」
「空いた原因を作ったのは、この男で、床に触れてるのもこの男。私に罪はなくないですか?」
警備員はしばらく黙り込んだあと、床に刺さった男を引っこ抜き、そのまま男をおんぶした
「今回はこの男に責任取らせます」
「賢明なご判断です」
警備員は男を連れて、その場から離れて行った
「ほら、早く行きますよー」
「え?警備員それでいいの?どう見ても時雨さんのせいじゃないの?」
「ちょっと何言ってるか分かりませんが、とりあえず早くしてくださいよ」
この騒動の間に、湊と蘭さんはお店を出て次の場所へと向かっていた
「ナイスナンパ男‼︎あと……ごめんなさい」
とんだとばっちりを受けた男に可哀想な気持ちはある。自業自得でもあるんだが……
とりあえず由布子さんに見つかる危機は逃れることが出来た
「……何してんの?」
聴き慣れた声が聞こえた。そして現状、一番聞きたくない声だった
「は、初芽……」
「バカ姉がいるということは、湊さんがここにいるということだよね?」
辺りをキョロキョロと見渡す初芽
「わ、私に話しかけてたら、周りから痛い子に思われるわよ‼︎」
他の人には姿が見えていないのだから、初芽は1人で何もない空間と喋っている子に見えている
「まあ気にしないからいいよ」
「気にして!世間体ぐらい気にして!」
さすがの私でも、妹が周りにヒソヒソと陰で何か言われるのはごめんだった
「なんでもいいからさ。湊さんのとこ連れてってよ」
「嫌よ」
「なら意地でも探し出してやろっと」
「なっ⁉︎待っーー」
私が待てと言う前に、初芽はショッピングモールだというのに、駆け足で湊を探し始めた
「……1番厄介なのきたよ」
私は初芽の後を追った




