李華と由布子
その後、ご飯を食べ終えた由布子さんは書斎へと戻ってきた
いつ声が聞こえてくるのだろうとビクビクしている様子が側から見ても分かる
「ゆーうーこーさん‼︎」
フレンドリーに両肩に手を置いて話しかけてみた
「ひぃやあああああ‼︎」
案の定驚かれた
「ど、どうしました⁉︎」
そして湊が由布子を心配して書斎の扉を開いた
「窓に虫が引っ付いててビックリしてしまったって言いなさい」
「ま、窓に虫がくっついてたんです……それに驚いてしまって……」
「そうですか……また何かあったら呼んでくださいね」
「あ、ありがとうございます……」
湊はまたリビングへと戻っていった
「はぁ……」
「よく出来ましたー。あ、時間ないからまた5分後に話しかけるね!その間、お仕事ファイトー‼︎」
「ふぇ?ちょ、時間ないってどういうことですか⁉︎」
効果時間が切れて、由布子さんに私の声は届かなくなった
「……喋らなくなっちゃった」
私の4つ目の能力の効果は30秒。インターバルは5分だ
ナトちゃん曰く、声を聞こえるようにするのは、憑依や触れたりするよりも簡単らしく、効果時間が少し長めになっている
ただ注意するべき点として、この声は誰でも聞こえるし、録音とかされていれば、ちゃんと残ってしまう
湊には絶対にバレないようにしておきたいから
「……5分後か」
そう呟きながら、由布子さんは作業に戻った
♢ ♢ ♢
5分が経過し、私の能力のインターバルが終了した
ついでに肩に触れたので、1つ目の能力の方もインターバルが終わった
「由布子さーん」
「……あ。もう大丈夫なんですか?」
「うん。30秒話すごとに5分空けないといけないから、この後また5分待ってもらうことになるけど」
「……それであなたは何者なんですか?」
警戒している様子の由布子さん。まあそりゃ誰もいないのに声が聞こえてくれば誰だってそうなる
「言わなくてもわかってるんでしょ?」
「……確証がないので聞いてます」
「そうですか。まあ多分予想通りだと思いますが……私は湊の元妻の月代 李華です」
「……やっぱりそうでしたか」
「はい。やっぱりそうでした。急に現れてすいませんね」
「いえ……それは別にいいんですが、私に何か用があるんですか?」
「はい。大事な用事があります。よく聞いてくださいね」
「は、はい」
「……と思ったんですが、時間がないのでまた5分後で」
「えっ?あ、はい……」
大事な話に入る前にまたも時間が来てしまった。連続で話すのには労力がいる
♢ ♢ ♢
「さて、さっきの続きを話しますね」
「あ、はい」
由布子さんは作業する手を止め、私の話に耳を傾けた
「……どこまで話しましたっけ?」
5分前のことをもう忘れてしまっていた
幽霊になったとしても老いていく歳には勝てないみたいだ(生存してても29歳)
「えっと、大事な話があるってところです……」
「あー!そうだった!そうだった!じゃあ率直に言うね?」
わざわざ由布子さんの肩に触れながら、私は言った
「湊を幸せにしてあげてほしいんです」
私の言葉を聞いて、由布子さんは首をかしげた
「湊さんを幸せに……なぜ私にそれを言うんですか?」
「ん?だって私が見るに湊を幸せに出来るのは由布子さんかなって」
「……そんなことないですよ。そもそもただのお隣さんってだけですし、そんなお願いされるほどのことは出来ません」
「だから湊と結婚してほしいの‼︎」
「けけけけ結婚っ⁉︎」
またも大声をあげてしまう由布子さん。その声に反応した湊がまた2階へと駆け上がり、書斎の扉を開けた
「ど、どうしました⁉︎」
「あ、そのえっと……い、今ちょうど結婚の話を書いてて……それでキャラのセリフを大声で読んじゃいました……うるさくしてごめんなさい‼︎」
「あ、ああ……そうでしたか」
湊はまた1階へと戻った
「ききき急にな、何言い出すんですか⁉︎」
「……」
「あ、時間切れ……」
♢ ♢ ♢
「いやー。急にこんなこと言ってごめんね」
また5分後に、続きを再開した
「本当ですよ……」
「まあでも冗談じゃなくて心の底から思ってることなの。由布子さんが良ければ、湊を貰ってほしいな」
「……逆じゃないですか?私が貰って頂く側です。それに……私は良くても湊さんが困りますよ」
「なんで?」
「なんでって……こんな冴えなくて暗くて頭も良くなくてブスでポンコツな私なんて……」
「ずいぶん自分のこと卑下してるね……」
由布子さんは自分に自信がないようだ
こういうときは第3者視点から自分がどう見えているか教えてあげた方がいい
それで自分の価値観が変わったりするものだ
「大丈夫!暗くて頭も良くなくてポンコツかもしれないけど、冴えてないことはないし、断じてブスではないよ!あなたは可愛い!」
「や、やっぱりポンコツに見えるんだ私〜……」
あ、ポンコツが1番ダメージデカいのね
「だ、大丈夫‼︎確かにポンコツーー」
……すごい所で時間が来てしまった。私のバカにしたかのような言い残しのせいで由布子さんはさらにショックを受けていた
「……ちゃんと謝ってくださいね」
「今の正直、私悪くないよね?」
♢ ♢ ♢
「さっきはごめんね!でも大丈夫!マイナスを補うほどの余りあるプラスが由布子さんにはあるから!」
「……だといいんですが」
憔悴する由布子さん。そんなにポンコツ扱いされてショックだったのだろうか?
人によってはポンコツをポジティブな面で見る人もいるというのに……
「それで、湊のお嫁さんになってくれる?」
「わ、私はその……湊さんのことがす……好きです。けど……湊さんが私をお、お嫁さんに貰ってくれるかは別です‼︎」
確かに湊次第ではあるのだが……私は由布子さんに湊との結婚の意思があるか聞けただけでも満足だ
「……好きなら応援するよ。ただ覚えていてほしいんだけど、少なくとも現時点で湊のことを狙っている女は由布子さん合わせて4人はいるからね」
「よ、4人もですか……」
由布子さんに千夏さんに蘭さんに初芽……正確に言えばもっといるが、大方の候補としてはこのぐらいだろう
「でも私は由布子さんを応援してるから!湊に猛アタックして、アピールして!そして結婚だ!」
「わ、分かりました!頑張ります!」
由布子さんから決意表明をいただけた。これで少しは前進したかな
「よし!なら私からのお話終了!」
「あ、なら私から聞きたいことがあるんですが……」
「あー。また5分後でいい?」
「分かりました。待ってます」
♢ ♢ ♢
そしてまた5分が経過
いちいちインターバルが面倒くさいが、こんなことが出来るようにしてもらえただけありがたいと思わないとね
「お待たせー。で?聞きたいこととは?」
「あ……えっとですね……」
湊の過去とか、私と湊の出会いとかそこら辺聞いてくるのかなー?それとも湊の喜ぶこととか好きな物とか聞いてくるのかなー?
「最近たまに意識飛んだりしてて、その間に勝手に物事が進んでる事象があるんですけど……なにか知りませんか?」
……私の起こしてる悪事について問われた
「そ、そんなことあったんだー。知らなかったなー」
私の完璧な演技でこの場は切り抜けるしかない
「なんで棒読みなんですか?」
「ぼ、棒じゃないしー?抑揚の付け方100点満点だしー?」
私の完璧な演技が見抜かれてるかもしれない……
「……それで、何か分かりませんか?」
「あ、悪霊の類じゃないかなぁ?」
「本当ですか?李華さんが何かしてるんじゃ……」
「そそそそんなことしないしない‼︎私が出来るのはー、こうやってちょっとの間喋ることとー、触ることだけだから!」
「そう……ですか……」
なんとか納得してくれたようだ
「あ……話は終わりです。ありがとうございました」
「うん……あ、最後に私から一つ。湊に私の存在はバラさないでね?」
「……分かってます。湊さんが来た時、わざわざ追い払うようなこと言わせてましたから」
「理解が早くて助かるよ。じゃあ……お仕事頑張って」
「あ、ありがとうございます」
ここでちょうど、私の能力の効果時間が切れた
「……触れるとか話せるだけって言ってたけど、幽霊なんだし普通にすごいことだよね」
由布子さんはボソッと呟いた
「……そこまで出来るってバレた上で、私じゃないって思ってるんだもんなぁ」
「……あれは確かにポンコツかもしれませんね」
「ねー。否定できないや」
由布子さんポンコツ疑惑はこうして証明されたのだった