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6時間



「……で、由布子さんが今家に居ると」


「うん。そういうこと」



違う所へと出向いていた樹里が帰ってきたので、現状の報告をした



「その担当編集さんはちょっと頭のネジが飛んでる説ありますね」


「まあそのおかげでこんな絶好のチャンスが生まれた訳だし?今度その担当編集さんにお礼してあげないと」



これだけのことを企ててくれたのだ。感謝感激(かんしゃかんげき)雨霰(あめあられ)



「お礼って……どうやってやるつもりですか?」


「その担当編集さん。嫌いな上司がいるらしくて、ずっと「いつかビンタしてやりたい‼︎」って言ってたから代わりに私がビンタしてあげよっかなって」


「やめてあげてください」



やんわりと制止されてしまった



「それで缶詰めしてるのは分かりましたけど、いつから始めてるんですか?」


「うーん……今が夜の8時半だから……6時間ぐらいかな」


「6時間もですか⁉︎」



由布子さんはたまに片手でコーヒーを飲む程度で、ほぼ画面と向き合っていた

意外にも時雨さんの強引な手は間違っていなかった



「残ってたページ数の半分は1日で終わらせていたし、このペースがキープ出来るなら、早くて明日には終われそうね」


「でも根詰めるのは良くないんじゃ……」


「まあ踏ん張りどころだから多少は仕方ないよ」



それに湊にあんなことを言われたんだから、モチベーションが高まってるんだろう



「……喉渇いたなぁ」



ボソッと1人呟き、由布子さんは階段で一階に降りた



「おっ。休憩ですか?」


「少し喉が乾いて……お水貰えますか?」


「良いですよ」



湊はコップを取り出し、そこに水を注いで由布子さんに提供した


「どうぞ」


「ありがとうございます」



もらった水を飲む由布子さん。6時間の間にコーヒー一杯だけで過ごしていたためか、一口で半分ほどの量を飲み切っていた



「それにしても長い間缶詰めしてましたね」


「えっ?……ほ、ホントだ……6時間も……」



反応からして、由布子さんは6時間も作業していたことに気が付いていない様子だ



「気付いてなかったんですか?」


「えっと……缶詰めしてる時はなるべく時間を見ないようにしてて……携帯も電源切っちゃってますし、パソコンの端に時間書いてますけど、それも消していたので」


「集中するためですか?」


「はい。といっても本当に効果あるかはわからないんですけどね。私がちょっとでも効果があるならと思ってしてることなので」



由布子さんはコップに入った残りの水を飲み切った



「お水ありがとうございました」


「ただの水なんですから、お礼なんて言わなくていいです。……これからまた仕事に戻りますか?」


「うーん……少しだけ休憩しようと思います。さすがに少し疲れちゃったので」



6時間椅子に座りっぱなしでモニターをずっと見ていたら、身体全身が疲労感でいっぱいになるのは当たり前だろう



「お風呂入ってきたらどうですか?」


「……そうですね。そうします」



湊の提案を由布子さんは受け入れた



「着替えとか持ってきてないので、とりあえず一旦家に戻ります。家でお風呂入ったらまたお邪魔しますね」


「分かりました。その間にご飯作っておきますね」


「……何から何まで本当にありがとうございます」


「いえいえ。これも俺のワガママの一環ですから」



私は湊の立ち回りに感動を覚えた



「いい男だよ湊……やっぱり最高の男だよ!さすが私が惚れただけはある!これだけ気遣いも出来てイケメンが付き合ってる女性さえいないとは……世の中おかしい‼︎」


「湊さんが受け入れてないだけでモテモテなんですから世の中正常に回ってると思いますよ」


「確かに……じゃあおかしいのは世の中じゃなくて湊か」


「それは極論すぎませんか?」



あんなにたくさんの美人美女達が言い寄ってくれてるのに、それに(なび)かない湊が異常なんだ



樹里とそんな会話をしていると、由布子さんは一度自分の家でお風呂を済ませるため、湊の家を出た



♢ ♢ ♢



そして2分程度で戻ってきた



「あの……鍵が……」


「……また無くしちゃった?」


「いえその……「私がいない間に自宅に戻る可能性があるから預かっておく」って時雨さんが……」


「あー……そういうことですか」



またも鍵の紛失により、由布子さんは家に入れなくなってしまった

しかし難儀なもので、2回とも由布子さんに非がないっていうのがかわいそうだ



前回は私の憑依+内からの鍵閉め

今回は強引なお泊まり+担当編集の鍵持ち逃げ

不運だとしか言いようがない



「ごめんなさい……」


「……今回は由布子さんのせいじゃないですし、幸い女性用の服はあるので貸しますよ」


「……えっ?」


「どうかしました?」


「い、いえ!なんでもないです!」



由布子さんの表情が少し曇った



「とりあえず……服は出しておきますから、お風呂はいってきたらどうですか?」


「……すいません。お言葉に甘えます」



躊躇いや拒否する様子もなく、由布子さんは洗面所へと入っていった



「……パジャマ代わりになりそうな服はあったかなぁ」



湊は2階に上がり……()の部屋に入った



前に由布子さんが寝ていた部屋は私の部屋だ

ベットや机などの家具は捨てられてしまったが、クローゼットの中はまだ私の服が置いてあるのだ



しかもご丁寧に除湿剤や防虫剤まで置いてある

これで分かると思うが、湊は全然私のことを忘れようとしてくれていないのだ



……忘れて欲しい訳じゃないけど、そのせいで次の恋愛に踏み出せていないのだから、いい加減私の幻影を追いかけるのはやめてほしい



出来れば全部捨ててほしいものだ

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