1人
「美味しっ⁉︎先輩が料理出来るって本当だったんだ……」
「そうだろ?俺は疑われたことに対して謝罪を要求する」
「ごめんなさい‼︎私が間違ってましたー‼︎」
「よろしい」
湊が作った料理を湊、初芽、千夏の3人で食べていた。一人暮らしの男の家に、互いの間で面識がない女子達が男の手料理を食べる……
どうなったらこんなシュチュエーションになるんだろうか
「……これはどういう状況で?」
今さっき戻ってきた樹里は、現状を把握出来ずに困惑していた
「実はね。かくかくしかじかなの」
「あー。なるほどなるほど……って分かるか‼︎」
「えっ⁉︎みんなこれで状況把握してくれるのに‼︎」
「それはアニメの世界の話です!実際に言われても何も伝わらないわ‼︎」
状況説明することが面倒くさくなった時に使えると言われていた奥義が、樹里には通用しなかった
♢ ♢ ♢
「ふむふむ……また面倒なことにしましたね」
「良い判断でしょ?」
「焚き付けるって意味では良いかもしれませんけど……初芽さんが妨害しているせいで千夏さんが湊さんにアピール出来なくなってますよ?」
「……はっ!」
やってしまった……湊に好かれるように動いてもらわないといけないのに、それを妨害されてしまっては元も子もない
しかも相手は初芽。悔しいが私の力では追い出すことが出来ない
「なんか……能力を貰ってから全体的にずっと空回ってる気がします」
「はぐっ⁉︎」
「進展もあったかもしれないですけど、多分湊さん自身の他の方への好感度って変わってないですよ?」
「うくっ⁉︎」
「このままじゃ……湊さんは永遠に結婚しないまま過ごすかもしれませんよ?」
「ぐはっ‼︎ううぅ……」
なんということだ……私が能力を手にしてから2週間が経過したというのに、進歩がないなんて……
「とりあえずは初芽さんに湊さんを渡すってのはどうですか?」
「やだよ‼︎」
唐突な樹里の提案に私は猛烈に反対した
「1番確率が高いのは間違いなく初芽さんなんですよ?目的達成という面だけ見れば最適なんですよ?」
「前も言ったけど嫌なものは嫌‼︎この前樹里も理解してくれたじゃん!」
「私は、選ぶ権利は湊さんにあるって言っただけです。それに私は初芽さんが1番湊さんに相応しいと思います」
私は樹里の発言に違和感を覚えた。というより、この会話が聞こえている初芽がニヤッと笑ったからだ
「……買収されてるでしょ?」
「ななな何のことですか⁉︎」
あからさまに動揺している。これは確定だ
「どうせ駅前の人気スイーツの最中でもお供えしてもらったんでしょ?」
悪霊ではない私達は、お供えされた物を食すことが出来る
といっても味を感じることが出来るだけなので、物体はなくならない
しかも自分の仏壇やお墓にお供えされた物じゃなくても食べられるのだ
「大方、私の仏壇に最中をお供えする代わりに、私に湊と初芽のカップリングが1番良いって吹き込むように言われたのね」
「ちちち違いますしー?」
目が泳ぎまくっている。ごまかすのが下手だとこうも分かりやすいのか……
「……とにかく初芽は却下。あと最中は後で私も貰うから!」
「初芽さんが全部食べ切ってましたよ?」
「あんの小童が⁉︎許さん‼︎」
「いつの時代の人ですか……」
「ーーごちそうさまでした‼︎美味しかったです!」
私達が言い争っていた間に、食事が終わってしまっていた
「も、もう食べ終わっちゃったの⁉︎」
3人の会話を一切聞くことが出来なかった
「樹里のせいだ‼︎」
「違いますー。うるさい李華さんのせいですー」
「なにをー⁉︎このっーーっ‼︎」
私の身体が止まった。樹里の能力だ
「便利ですねー。やっぱり」
「ずるいって!横暴!陰キャ!すきっ歯‼︎」
「小学生が考えたく悪口みたいなのやめて下さい」
本当にピクリと動かすのに精一杯だ。チートだこんなの……
「とりあえず千夏さんが帰るまではじっとしてて下さい。今回邪魔とかしてなかったので、それぐらいで済ませてあげます。あ、でも殴りかかってきたらまた止めますからね?」
「くっそー‼︎樹里が1番の妨害者じゃん!」
「制御してるだけです。妨害じゃありませんから」
結局、千夏と初芽が帰るまで、私は身動きを拘束されてしまった……
♢ ♢ ♢
「じゃあ先輩!また来ますね!」
「何しにだよ……」
「1回で料理が上手くなるなら皆んな苦労しません!継続は力なりって言うでしょ?」
「はぁ……まあいいぞ。てか、初芽ちゃんを困らせるなよ。元々今日作るって言ってたのは、味噌汁だっただろうが」
「……だからエッグベネディクトの食材一個も袋に入ってなかったのね」
「ちょっと困らせてみたくなっちゃって……ごめんね初芽ちゃん」
「……まあいいです。今度やったら承知しませんけど」
「……じゃあ2人とも気をつけて帰れよ」
「はい!おじゃましました!」
「おじゃましました」
2人が家から去り、また部屋に静かな空気が流れた
それでも湊は寂しがる様子なんてない
いつも通り……日常生活に戻っていく
まるで……何事もなかったかのように
樹里からの能力が解除され、自由に動けるようになった私は、リビングに戻る湊についていった
「……湊。少しは寂しそうにしてよ」
誰かと居たいと思ってくれさえいれば……誰かを嫁にもらったりする可能性もあるんだろうけど……
今の湊は……1人が良いみたい
「……私の考えって間違ってるのかな?ちょっと不安になるよ。今の湊を見てるとさ」
少しでも1人が寂しくなってほしい。誰かと話しがしたくなってほしい。1人は嫌だって……そう思ってほしい
「まあ私は諦めないけどね。湊に見合う……最高の女性と結ばれるまでは」
私は、1人静かにコーヒーを注ぐ湊の頭を……そっと撫でた
もちろん……透けた状態で