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手作り



「あ、あの‼︎月代さんは彼女とかいないんですか⁉︎」



キタキタ‼︎湊に告白してる女子キター‼︎

……なんて思わない。これは日常茶飯事の光景だからだ



「いないですよ?」


「じゃ、じゃあ私と付き合ってもらえませんか?」



そしてこの後に、湊が言うセリフも知っている



「……ごめんなさい。()()()()()()()ので」



湊は定期的に告白される

大抵、仕事のお客さんとして来た女性が相手だ

そして毎回このセリフで断りを入れているのだ



好きな人がいる……この言葉で歓喜する私じゃない

もうかれこれ7年間は言っているのだ



私が死ぬ前に言ったことの一つに、「指輪は外すこと。ただしその指輪を売るのも残しておくのも湊次第」。というのがあり、それはちゃんと守ってくれた

私が死んでから1週間後には外してくれていた



そして指輪を外してから、少なくとも3桁近くは告白されていたと思うが、答えはずっと変わらない



自惚れているわけじゃないけど……この好きな人っていうのは恐らく私のことを指している



だから喜ぶどころか、このセリフは私にとっては絶望を与える言葉なのだ



この「好きな人がいる」という言葉の対象が、他の誰かに向けば最高なのだが……初芽以外で



♢ ♢ ♢



「ありがとうございました」


「……恋が実ると良いですね」


「……そうですね」



湊に告白した女性は、うっすら目に涙を浮かべながら美容室を後にした



「また告白されてましたね」



近くでその様子を見ていた千夏さんに、湊は声をかけられた



「うん。嬉しいことだけど、あの人にはもっと良い人が見つかるよ」


「……またそうやって言うんですね」


「え?」


「なんでもありません!次の予約までは時間ありますし、ゆっくりしましょう!」



千夏さんに連れられて、湊は休憩室へと入っていった



「湊さんってお昼ご飯はいつもコンビニ弁当ですよね?」


「そうだね。カップラーメンの日とかもあるけど」


「ということで私がお弁当を作ってきました‼︎」



千夏さんは2段弁当を湊の前に置いた



「……食べて良いの?」


「はい!当たり前です!」



湊は弁当箱の蓋を開けた

中身はお弁当のコツとも言われる『赤・黄・緑・茶・白』で彩られていてとても美味しそうだ



「どうですどうです⁉︎美味しそうでしょ?」


「確かに美味しそうだけど……これお惣菜詰めたでしょ?」


「ギクッ……」



パッと見ではお惣菜を詰めただけには見えなかったが、湊には見破られたようだ



「な、何でそう思うんですか?」


「だってこの前料理出来ないって公言してたよね?」



自らボロを出していたせいでバレてしまっていたらしい



「あ、あれから上手くなったんです‼︎」


「ほーう。ならこの料理はどうやって作ったんだ?」



湊はほうれん草のおひたしを指さした



「えーっと……ほうれん草を浸したんですよ」


「なにに?」


「……酢?」



湊はほうれん草のおひたしを口に運んだ



「麺つゆの味がするけど?」


「あ、あーそうだった‼︎今回は麺つゆで味付けたの忘れてたんですよ!」


「そもそもお酢単体で味付けするものじゃないしな」


「え、えー?私の家ではそうだったんだけどなぁ!」



目が泳ぎまくる千夏さん。湊はそこに追い討ちをかけるように、お弁当の中身を指さした



「じゃあこれは?」



湊が指さしたのは、卵焼きだった



「あっ!それは砂糖です!」


「しょっぱいんだけど」



千夏さんは汗がダラダラと吹き出ている



「し、塩と砂糖間違えちゃった!私ったらドジっ子!」



てへぺろりんとベロを出す。同性から見るとすごい腹の立つ姿だ。この私がちょっとイラッとしてしまった



「……お惣菜でしょ?」


「……はい」



観念した千夏さんは、お惣菜をそれっぽく詰めたお弁当だと自白した



「まあお惣菜でも作ってきてくれて嬉しいよ。ありがとう」


「こ、今度はちゃんと手作りで持ってきますから!」


「ちゃんと味付けの勉強してからな」



千夏さんのお弁当を食べる湊。その姿に千夏さんは少し嬉しそうにしていた



「そうだ!湊さんが教えて下さいよ!」


「俺が?」


「はい!ネットで調べながら作るより、誰かに教わりながら作った方が効率が良い気がします!」


「それは偏見じゃないか?」



千夏さんの口実はちょっと無理矢理感があったが……私としては良い展開になってきた



「あれ?もしかして湊さんって料理できないんですか?」


「なんでそうなる……」


「実は自分も料理出来ないから嫌そうにしてるんじゃないですかー?いつもお昼ご飯はコンビニ弁当だし」


「はぁ……まあ確かに疑われても仕方ないか。一回だけ教えてやるよ」


「本当ですか⁉︎じゃあ今日にしましょう!」


「いきなりだな……」


「場所は湊さんの家で良いですよね⁉︎」


「……仕方ねぇな」


「よし!決まりですね!」



千夏さんはこっそり拳をグッと握って喜びを表していた

私も同じように拳をグッと握った



「教えてもらう料理はこっちで決めておくので、帰りに一緒にスーパー寄って帰りましょう!」


「はいはい」


「あ、ついでに晩ご飯も先輩の家でゴチになりますね!」


「1000円な」


「え⁉︎お金とるんですか⁉︎」


「冗談だよ」


「先輩が言うと冗談に聞こえないんですよ……」



♢ ♢ ♢



「お待たせしました!行きましょう‼︎」



仕事用の服から、プライベートの服へと着替えた千夏さんは、湊と共に家へと向かった



女の子を家に連れて帰る湊を見れる日が来るとは……目から熱いものが込み上げてくる



だが、私は連れて帰った程度で満足するような女ではない

試練……ではないが、少し千夏さんを()()()()()と思っている



「先輩の家に行くの初めてですね!」


「そうだっけ?」


「そうですよ!飲みにも行ってくれないから、酔った私を介護して家に連れ込む……ってこともなかったじゃないですか?」


「俺はお前の家知ってるから、酔ったお前を介護するってなっても、お前の家に送り届けるけどな」


「わーお!紳士ですね!」


「言ってろ」



そんなたわいもない会話をしながら歩く2人

湊がこういった軽口を叩く相手は千夏さんぐらいだ

多分、話しやすいという点に置いては、他の人達よりも上に位置していると思う



♢ ♢ ♢



「着いたぞ」


「ほーう。良いところに住んでますねぇ。あ、お隣さんって怖い人ですか?」


「優しい人だぞ。なんでそんなことを聞くんだ?」


「多少騒いでも文句言われないかなって」


「優しかろうと怖かろうと騒ぐのはやめろ」


「冗談ですよ!ほらっ。早く部屋まで案内して下さいよ!」



湊は千夏さんに背中を押されながら、自室へと向かった



「ここだ」


「……湊さんって1人暮らしですよね?」


「そうだぞ?」


「ならなんで電気ついてるんです?消し忘れですか?」


「ああ……多分ーー」



湊が続きを話そうとした瞬間、玄関の扉が開いた



「おかえりなさーい!お仕事お疲れ様でしたー‼︎」



湊と千夏さんを迎えたのは……初芽だった

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