【奇跡のコミカライズ!】婚約者は私を捨てて妹を選びましたが、妹は時限爆弾でした【作者の日常も吹っ飛びました!】
「マリー・ダーリントン子爵令嬢……あなたとの婚約を、破棄させてもらいたい」
屋敷の談話室で、そう言い渡された、その瞬間。
私の頬を、涙が伝わりました。
私の婚約者、アンドリュー・ハラウェイ伯爵令息。
彼の口から婚約破棄を告げられて、私の胸は、悲しみのあまり張り裂けんばかりでした。
「アンドリュー……つまり、あなたはこうおっしゃいますの……?
私を捨てて……よりにもよって、私の妹と結婚したいと!」
婚約破棄ぐらいだったら、まあ、たまによくあることです。
人間ですからね。
しかし……
婚約を破棄して、婚約者の妹と結ばれようなど。
そんなことは、前代未聞です。
破廉恥極まりないことです。
私は取り出したハンカチで涙を拭いながら、アンドリューに抗議します。
「アンドリュー……いくら、私の家がしがない子爵家で、あなたの家が国でも有数の伯爵家だからと言って……無法にもほどがありますわ!」
「はあ? 爵位なんか関係ないよ。何を言っているんだい?」
彼の言い方のあまりの軽さに、私は唖然となります。
泣きながら、開いた口がふさがりません。
ですが、そんな私など目に入らないかのように、平気な顔をしてアンドリューは言いました。
「僕はね、マリー……真実の愛を見つけたんだ!」
「……真実の、愛?」
「そうだよ。名誉やお金なんかより、真実の愛の方が、ずっと大事なんだ。あれ? 君はいい歳をして、そんなことも知らないのかい?」
……何を言っているのでしょう、この人は。
「まあまあ、お姉さま」
そう言って私をなだめようとしたのは、渦中の人、妹のルーシーでした。
ちゃっかりアンドリューの横に陣取ったルーシーは、勝ち誇ったような笑みを浮かべ、あごを上げながら私を見てきます。
ルーシーは、小さい頃からいつもそうでした。
美人で、明るく、社交的。
やたらと私に張り合ってきて、大体において、勝つのはルーシーのほう。
……まあ、それも私の性格を考えれば、当然なのかも知れません。
ルーシーとは対照的に、私は思索や読書が好きで、内向的。
たまに人と話しても、ついついしかめっ面で、難しげなことを言ってしまいがちです(私に言わせれば、それだけ真剣に話している、ということなのですが……)。
そんな私と違って、ルーシーは持ち前の積極性を押し出すことで、欲しいものは何でも手に入れてきました。
で、今度は婚約者、というわけです。
「どうか、落ち着いて聞いてくださいな、マリーお姉さま。
婚約と言っても、発表はまだだったわけですし。
そんな時期にアンドリューが心変わりをしたのであれば、致し方ないではありませんか。
本当に、心の底からアンドリューのことを思うのでしたら、どうか潔く身をお引きくださいな」
ど、泥棒猫の分際で、何を偉そうに……。
「大体さあ」
と、再びアンドリューが言います。
「マリー。君は本当に、僕のことが好きだったのかい?」
「そ、それは……もちろんですわ」
「本当に? 所詮は、親同士が決めた結婚じゃないか。君だってどうせ、僕の家の財産が目当てだったんだろう?」
いや、貴族の結婚って、そういうものでしょ。
……とは、さすがに言えません。
なので、代わりに私はこう言います。
「アンドリューさま……私はあなたの婚約者として、恥ずかしくない振る舞いをしてきました。
学校は優秀な成績で卒業しましたし、社交界では、慣れないながらも懸命に華を振りまいてきました。
全ては、あなたのような男性にとって、恥ずかしくない妻になるため。
誰もが一目置き、多くの人が羨み、夫が誇りに思えるような……そんな良き妻となるために、私は生きてきたのです。
もちろん、至らないところはあったでしょうが……それでも、私なりに頑張って努力してきたのです。
そんな……そんな私に対する、これがあなたの仕打ちなのですか!」
「おお、マリー!」
その時、後ろでずっと様子を見ていたお父様が、私に泣きついてきました。
「どうか、そのあたりにしておくれ! 王室の覚えめでたいハラウェイ伯爵家に睨まれたら……我が家は終わりだ!」
お父様に次いで、お母様まで泣きついてきます。
「マリー、どうかこらえて! うちの経営が苦しいこと、あなたも知っているでしょう!」
「お父様、お母様……」
「アハハ」
それを見て、事もあろうにアンドリューは笑いました。
「そうか。君の家はそんなに苦しかったのか、ルーシー。だったら僕が救い出してあげよう。うちの家には、財産はたっぷりあるからね」
「まあ! ありがとう、アンドリュー! 愛してるわ!」
「僕もだよ、ルーシー!」
「……」
私はそれっきり、言葉を失いました。
十分後。
私は二階の窓から、一台の馬車を見送っていました。
――ねえ、アンドリュー。私、あなたの元婚約者と一つ屋根の下なんて、息が詰まりますわ。
――もっともなことだね、ルーシー。では、僕が宿を手配してあげよう。
ということで、ルーシーは今日から正式な結婚まで、王都でホテル暮らしをするそうです。
それを聞いて、私は……ほくそ笑みました。
ふふふ……。
愚かなり、アンドリュー。
あのルーシーに、王都でのホテル暮らしなんか、させようものなら。
タダでさえでかい爆弾が、ますますでかくなるだけですわ。
馬車が見えなくなると、私はバッと室内を振り返ります。
「お父様、お母様! 行きましたよ!」
「行ったか!」
お父様が、興奮した様子で立ち上がります。
「では……私たちはやったのだな、マリー!」
「はい、お父様! これでダーリントン家は救われました!」
「おお、マリー!」
とお母様。
「よくぞやってくれました! 迫真の演技でしたよ!」
「いえいえ、お母様の方こそ!」
にしても、学校の課外活動で演劇をやってて、本当に良かったですわ。
涙なんかもう、自由自在に出せますもの。
私の泣き顔を見た時の、あのルーシーの勝ち誇った笑顔。
ククク……。
私の手のひらの上で、思うままに踊らされているとも知らずにねえ!
「あ、そうだ。スティーブンス!」
「はい、マリーお嬢様」
現われた執事のスティーブンスに、私は手短に指示を出します。
「王都の新聞社にこのことを伝えて、婚約報道をさせてちょうだい。既成事実化するのよ!」
「では、お嬢様……ダーリントン家は、救われたのですね?」
「その通りよ、スティーブンス」
「おお……」
喜びのあまり目尻を拭いながら、スティーブンスは続けます。
「では、シャンパンをお持ちしましょう」
「それは良いわね! 使用人たちにも、お酒を振る舞いなさい! 今夜は大宴会よ!」
「かしこまりました!」
そうして、私たちは家で一番のシャンパンで乾杯しました。
……我が家の爆弾娘を、首尾良く追放できたことを祝して。
爆弾が爆発したのは、それから半年後。
アンドリューとルーシーが無事に結婚式を挙げ、晴れて正式に夫婦となった、直後のことでした。
伝え聞いた話によると、アンドリューはその書面を、朝食の席で、使用人から受け取ったそうです。
書面の内容に目を通したアンドリューは、
「な……なんだこれは!」
驚愕して席を蹴り、ルーシーがいる寝室に駆け込んだ、と言います。
「ルーシー!」
ベッドで朝食を取るルーシーに向かって、アンドリューはその督促状を突きつけました。
「君……借金があったのか!? それも、2億クローネもの巨額が!」
2億クローネ。
だいたい、王都市民の生涯収入の100人分が、それぐらいと言われています。
ハラウェイ伯爵家ほどの大貴族なら、払えることは払えるでしょう。
でも、ちょっとビビる程度には、安くはない……
それぐらいの大金でした。
そう。
私の妹、ルーシーが抱える爆弾。
それは……
莫大な借金と、とてつもないギャンブル癖でした。
どうして、こうなったのか。
簡単なことです。
カジノです。
十年ほど前、王都にできた、公営の賭博場。
元々ちょっと抜けているところのあったルーシーは、それにどっぷりとハマってしまいました。
「大丈夫ですわ、お姉さま……負けるのと同じぐらい、勝っていますもの」
嘘つけ!
だったらどうして、際限なく借金が膨らんでいくんですの……!?
何のために算術を学んだのですか、この大バカ妹……!
ルーシーはお金を借りるときにダーリントン家の名を出していたので、お前一人で何とかしろ、と突き放すこともできませんでした。
仮にも貴族が、娘を勘当して路上に放り出す、なんてことはできません。
もしやろうものなら、いい恥さらし。
姉の私の結婚さえ、絶望的になっていたでしょう。
もちろん、父も対策を取らなかったわけではありません。
主立った金貸しに対して、
「ウチの娘に金を貸さないでください。払えません」
なんて、情けない頼み事までしたのです。
……ですが、そこまでしてもなお、ルーシーはどこかからお金を借りてきて、カジノ通いを続けました。
王都に連れて行かなきゃいいのですが、社交界もあるので、そういうわけにもいきません。
パーティーの最中、ふと気がつくと、ルーシーはどこぞの殿方と一緒に会場を抜けて、カジノに繰り出しているのです。
それでも……
それでも……数年の間に、ルーシーは落ち着きを見せました。
借金を続けてはいたものの、ダーリントン家でも払えるぐらいの少額に、押さえるようになっていたのです。
しかし……それは見せかけでした。
家族に報告している少額の借金は、目くらまし。
そうして「ああ、これぐらいの借金なら大丈夫だな」と、家族を安心させている裏で……
ルーシーは、莫大な額の借金をこしらえていたのです。
破産。
破産しか、ありませんでした。
先祖代々の、住み慣れた屋敷を売り払い、
愛着のある家具も美術品も、全て売り払い、
生まれた時から一緒にいる使用人たちは、全員解雇。
それしか、ありませんでした。
「マリーよ……」
お父様は言いました。
「せめてお前だけでも、助かってくれ……ハラウェイ伯爵家との縁談がまとまれば、もう金の心配は要らない。
実家に金を送ろうなどとは、考えるな。
幸せになってくれ……」
「うぐっ……うっ……お父様……」
私は泣きじゃくりました。
「どうして……どうして……悪いのは、全部ルーシーなのに……」
お父様は「幸せになってくれ」と言いましたが。
けれど、私が幸せになれる未来なんて、ありえませんでした。
たとえハラウェイ伯爵家に嫁いだとしても、そこでの私の立場は実家が破産した嫁。
到底、良い扱いを受けられるとは思えません。
嫁ぎ先の家族からは、露骨にバカにされ、
使用人たちは面従腹背で、陰では鼻で笑われる。
そんな、惨めな一生が待ち受けていました。
というか、何か適当な理由をでっち上げられて、ある日突然に離縁される可能性さえあります。
破滅だ。
これは破滅だ、とさえ思いました。
……と、そんな時。
一発逆転のチャンスは、唐突に転がり込んできました。
なんと……ルーシーが、色目を使い始めたのです。
私の婚約者……アンドリュー・ハラウェイに対して。
あろうことか、アンドリューの方も、まんざらでもない様子でした。
……ルーシーは人の物が欲しくなる性格なので、私の婚約者のことも取ってみたくなったのでしょう。
そんなルーシーたちを見て、最初は私も、ただ腸が煮えくり返る思いを味わうだけでした。
このバカ妹……一体、どこまで私の幸せをぶち壊せば気が済むの……!?
アンドリューもアンドリューよ!
何をそんな、ヘラヘラと笑って……
……ん?
瞬間、私はひらめきました。
これは使える、と。
全ての準備を整えた私は、王都の一角に借りた部屋で、ある催しを開きました。
債権者集会です。
その部屋には、ルーシーにお金を貸している債権者たちが、一堂に会していました。
みんな、私が呼び出した人たちです。
ただし、コッソリとです。
呼び出された人たちは、自分がルーシーの債権者として呼び出されたことを、知りませんでした。
「皆さん!」
頃合いを見計らって前に進み出た私は、そう呼びかけます。
人前に出た緊張で、足が震えそうでしたが……もはや、そんなことは言っていられません。
私は勇気を奮い立たせて、こう続けました。
「突然ですが……ここにいる皆さんは、全員が、私の妹、子爵令嬢ルーシー・ダーリントンの債権者です!」
債権者たちは、一様に驚きの表情を見せます。
「え?」
「うそ」
「全員がって……三十人以上はいるぞ!?」
私の読みは当たっていました。
ルーシーはどうやってか、貸金業者の情報交換ネットワークや、貴族同士の噂話ネットワークに引っかからないよう、上手いことやって借金を重ねていたのです。
でなければ、あんな多額の借金、できるわけないですからね。
私は重ねて呼びかけました。
「債権総額は、2億クローネです!
我がダーリントン家の財力では、とても払えません!
そこで、このたびダーリントン家は、破産を検討しています!」
債権者に衝撃が走ります。
しめしめ。
本題を始める前に、まずショックを与えてやると、話を受け入れてもらいやすい。
演劇と一緒ですわ。
「もしダーリントン家が破産すれば、債権は切り捨てられ……そうですね、皆さんの債権金額の9割は、回収不能となることでしょう!」
ぶっちゃけ、9割は盛りすぎでした。
ですが、効果はばつぐんです。
「9割だと!?」
「冗談じゃないぞ!」
「そんなことされたら、ウチも破産しちまう!」
「そ の 通 り ッ !」
私は一際声を張り上げました。
なぜなら、ここが話の転換点だったからです。
「ダーリントン家が破産したら、損害を被るのは、皆さんも同じ!
中には、連鎖的に破産させられる方もいるでしょう!
……と、ここで皆さんに、耳寄りなお知らせがあります」
「「……ほう?」」
「実はいま……ルーシー・ダーリントンとアンドリュー・ハラウェイに、縁談が持ち上がっています!」
「「なっ……!」」
「……もう、おわかりですわね?
ダーリントン家には払えない金額も、ハラウェイ家になら払えます。
そこで、私たちダーリントン家は、皆さまにお約束申し上げます!
絶対に! 何が何でも! ルーシーをアンドリューに嫁がせて見せると!
家族はもちろん、使用人一同も力を合わせて全力アシストし、この縁談をまとめ上げて見せると!
……ただし、その見返りとして、債権者の皆さんには、やっていただきたいことがあるのです」
「「なんでしょうか?」」
「債務者の名義を、ダーリントン家から、ルーシー個人に切り替えて欲しいのです。
その状態でルーシーが嫁げば、ダーリントン家は、借金から解放されるので」
話はまとまりました。
こうして、ダーリントン家の命運を賭けた、一大プロジェクトがスタートしました。
作戦名は、
~時限爆弾、他人が持ってりゃ怖くない!~
です。
……え?
自分の元婚約者を罠にハメるようなことをして、良心が痛まないのかって?
うーん。
ちーーーーーーっとも、痛みませんわね。
だって、婚約者の妹に色目を使われてあっさりなびくような、とんでもない男ですよ?
どーせ親同士が決めた結婚で、それこそ本気で好きじゃありませんでしたし。
そんなに真実の愛が良いもんだって言うんなら、お望み通り、真実の愛に殉じて死なせてやろう、ってなもんですわよ。
というわけで私は、アンドリューとルーシーの仲の、全力アシストを始めました。
まずアンドリューに対しては、適当なことで言いがかりをつけて喧嘩をふっかけまくり、私への好感度を暴落させます。
次いでルーシーに対しては、アンドリューの良い男っぷりを、ないことないこと自慢しまくることで、彼女の「取ってやりたい」という欲望を刺激しました。
ここに、私の両親が加わります。
お父様はアンドリューの父親……息子を溺愛しすぎてやりたい放題やらせていると評判のハラウェイ伯爵……に、こう吹き込みました。
「実は、最近わかったのですが……医者によると、長女のマリーは、遺伝子に問題を抱えているらしいのですよ。
ええ……何でも、マリーが産む子供は、とてつもないギャンブル好きの借金大魔王になる可能性が高い、とのことでして。
代わりに、妹のルーシーはどうでしょうか? 本人たちも、乗り気なようですしね。
事情が事情ですので、当家から抗議することは、決してありません」
さらにお母様は、社交界でこう触れ回ります。
「長女のマリーには、困ったものですよ……実はあの子、カジノに通い詰めているんです。
借金をこさえてくることもしばしばで……挙げ句の果てにあの子ったら、カジノでは妹のルーシーの名前で通しているらしいんです。
本当に、困ったものですわ……
妹のルーシーの方は、女の子らしくて、とても良い子ですのに……」
若干、私の評判が落ちすぎな気もしましたが……とはいえ、この時点では、なりふり構っていられませんでした。
今日を生き延びなければ、生きて明日を迎えることはできないのです。
とにかく今は、目先の破産を回避するのが最優先!
それさえできれば、噂なんて、時間と共に薄れていきますわ。
……という、豪胆な考えでした。
もちろん、クビがかかっている使用人たちも、全身全霊のアシストに加わります。
他の人を遠ざけて、さりげなーくアンドリューとルーシーを二人っきりにする……なんて、可愛い工作に始まって。
二人の飲み物にちょっとだけ媚薬を混ぜて、恋のドキドキ感を演出……なんて、エグい工作に終わる。
そんな……
ダーリントン家の、総力を挙げた戦いの末に……
私たちは……ついに勝ち取ったのです。
婚約破棄という名の、勝利を!
おわかりいただけますでしょうか?
「あなたとの婚約を、破棄させてもらいたい」
と、アンドリューが切り出した時。
私は、表向きは涙を流しながら、心の中では、
(よっしゃああああああああああああっ!)
と、快哉を叫んでいたのです。
それからのことを、少しだけお話ししましょう。
ハラウェイ伯爵家は、破産しました。
破産です。
さすがに、そこまで行くとは思っていなかったので、私たちも唖然としました。
だってまさかアンドリューが、
「君は悪魔に取り憑かれているんだね! 僕が愛の力で治してあげるよ!」
なんて言って、ルーシーを放任するとは、予想外だったんですもの……
風の噂によると、お金を使いたいだけ使わせれば満足する、って思ったらしいんですけど……
何にしても、私はあんな男と結婚しなくて、本当に良かったですわ。
……実は、アンドリューが「ルーシーと離婚したい」って言い出した時のために、
「アンドリューは、自分が作った借金を新妻になすりつけて追い出そうとしている。なんたる卑劣漢!」
っていう内容の新聞記事まで準備していたんですけど……無駄になってしまいましたわね。
で、アンドリューを猫かわいがりしてやりたい放題やらせてきた父親、ハラウェイ伯爵は、破産の憂き目を見てさすがに激怒。
アンドリューとルーシーは、植民地に追放されてしまいました。
植民地にも色々ありますが、二人が追放されたのは、まだ開拓が始まったばかりの超ド田舎。
カジノなんてもちろんあるはずもなく、それどころか、安全な飲み水さえもロクに手に入らないような、ものすごい未開の地です。
そんなド田舎でピーピーお腹を壊しながら、アンドリューは総督府で下っ端のお仕事をして日銭を稼ぎ、ルーシーは……何をやるんでしょうね? やることなんてあるんでしょうか?
もしかしたら、あのギャンブル狂のことですから「カジノがないなら私が作りますわ!」とでも言って、小さな賭場でも開くのかもしれません。
で、夫が苦労して稼いだお金を、客に巻き上げられる、と。
まあ……何があったとしても、あの二人なら、きっと乗り越えていけることでしょう。
なにせ……真実の愛が、ありますものね……プププ……
あのトンデモバカップルのことはこれぐらいにして、私のことをお話ししましょう。
実は、その後のダーリントン家では……お金がドンドン貯まり始めました。
なぜ、そんなことになったか。
それはここ数年、ルーシーが作った借金を支払うために、私たち家族が奮闘してきたからでした。
私とお母様は、使用人たちを指導して節約に励み、
お父様は収入を増やすために、新しい農法その他を猛勉強。
そんなダーリントン家が、ルーシーの借金という重しから解放された後、どうなったか。
なんと我が家は……財務基盤が堅牢堅固な、優良経営へと大変身していたのです。
そうして、数年が経ち……十分な資産が貯まった頃。
噂を聞きつけた貴族から、私の元に次々と縁談が舞い込むようになりました。
色々あったおかげで、私は適齢期よりやや遅れてしまった上、変な噂まで流れてしまったけれど……お金があるなら、ということですわね。
そうして、求婚してきた何人もの貴族令息の中から、私は一人を選びました。
まあ、家格は上だけどお金のない侯爵家の三男が、家格は下だけどお金はある子爵家に婿入りした、というだけの話ですので……
ものすごく良い縁談だった、というわけではないのですが。
ただ……
「おーい、マリー! どこにいるんだい!? マリー!」
あらあら……
もう、あの人ったら。
またあんな大声で、私のことを探して。
夫は、私の姿が見えなくなると、すぐああやって屋敷中を探し始めるんですの。
なんかもう、私のことが、好きで好きで仕方ないみたいで……
い、いえ……
私の方もまあ、まんざらでもないというか……
むしろ、ちょっと可愛いな、みたいな。
……そんなわけで。
皮肉なことではありますが。
もしかしたら、バカ妹との戦いに勝った私は、いつの間にか、手に入れてしまっていたのかもしれません。
真実の愛、というものを。
まあ。
そういうわけで……
私はいま、とーっても、幸せですっ!
-Fin-
お読みいただき、ありがとうございました!
評判が良ければ、また同じような作品を書きたいと思っています。
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よろしくお願いします!
※2021/12/27 追記
応援してくださった皆さんのおかげで、一迅社の編集様の目に留まり、アンソロジーコミックの中の一編という形でコミカライズされました! 本当にありがとうございます!
担当編集様から「これ使って宣伝してくれ!」と送られてきた画像を下の方に貼っておきます! 特にルーシーのキャラデザが良いと思います! 「すごく可愛いのになぜか一目見ただけで悪いやつとわかる」あたりが!
また、画像をクリックすると「悪役令嬢アンソロジー 6」のGoogle検索結果ページに飛べます!(なんで検索結果ページかというと「なろう」の規約でストアへの直接リンクは禁止されてるからです)
よろしくお願いします!